第5話 魔力の量間違えたか?
塔に配置されていた観測兵たちが私の姿を見て驚くが、気にしないで仕事を続けろと命じ、戦場を見渡す。
(これは…まずいな)
これまでは防壁に沿ってまばらに突撃してくるだけだった敵兵が、今日はまるで別の軍だろうかと思うほどに統率が取れている。
敵陣の攻城兵器から絶え間なく強力な砲撃が飛び、我々の防御線にダメージを与えてくる。
防御線がひるんでいる隙に敵は門までの距離を詰めていく。
これまでは無防備に喊声を上げて走るだけだったため近づく前に撃ち殺されていたのが、支援攻撃と前進を交互に繰り返すことで我々の攻撃を避けつつ着実に前進してきたのだ。
魔力の壁を作り出してこちらの攻撃を防御する者の存在も見受けられる。
門の前には深い堀があり、橋が架かっている。門にたどり着くには橋を渡るしかなく、必然的に敵は橋に殺到するだろう。そこを狙う作戦だ。
門周辺の防壁の上の兵たちが砲撃にひるんだフリをして攻撃を緩めた。
橋の守備隊が持ち場を捨てて逃げ出すフリをするのが見える。
まもなく信号弾が上がるだろう。
遠く離れたここからでもその威容がよく見える、巨大な山を仰ぎ見る。
(おお神よ、母なる山よ、私に敵を滅ぼし豊穣の大地を守る力を。)
あれこそは我らが奉ずる神そのものであり、全ての人の母である。神が生み出す豊穣の力により我らは生かされている。私自身は特別信仰に篤いわけではないが。
普段は魔法を発動するにあたって神に祈りを捧げたりはしない。神官たちは魔法を使用する際は定型句のように祈りの言葉を口にしているようだが、私は違う。
私はここで強力な一撃を放たなければならない。意気込みだけで訓練でやった以上の威力が出るわけではないことは分かっている。
それでも、私の一撃に神の加護を与えてもらえないだろうかと願う。
神が自分の姿を見てくださっている、そんな空想を抱く。
すると、神がその御手を伸ばし私の身体に力を与える、そんなイメージが湧いてきた。
山頂から延びた線が私の身体へ繋がり、大地から吸い上げられた膨大な魔力が供給されてくるような、そんな気がしてきたのだ。
(何だろうかこの感覚は。いや、今は魔法に集中しよう。炎よ。)
神とつながったような不思議な感覚を保持したまま、炎弾を作り出す。神から与えられた魔力をそこに注入していくイメージでどんどん炎弾を大きくしていき、周囲の温度も上昇していく。
(いや、なんだかいつもより熱くないか?色も変だ。いつもはもっと赤い気がする。これはどちらかというと、白だ。本番でいきなり想定外だと?このまま撃って大丈夫か?発動失敗ではないのか?いや、もう今からやり直すわけにもいかない。)
不安な出来ではあるが炎弾が完成する。いつもより大きいような気もしてきた。あとは合図に合わせて撃つだけだ。
ふと視線を感じてそちらを見ると、観測兵たちがこちらを凝視していた。
兵たちに私の魔法を見せるのは決して初めてではない。練習のために一日一回何もない場所へ向けて撃っているから、むしろ見慣れたもののはずだ。
(何だ?まるで恐ろしいものを見るような目じゃないか。今までこんな視線を向けられたことなど無いが…)
理由は後で聞きだすことにし、戦場に目を戻し、時を待つ。
敵の支援砲撃がタイミングを合わせて門の周囲の陣地を黙らせるべく降り注ぎ、土が舞い上がる。次の瞬間身を伏せていた敵兵たちが一斉に身を起こし、橋の入り口に殺到してくる。
(来たか。信号弾は!?)
ヒュ~~~~~~~~~~、と音と光を発する魔力弾が撃ちあがる。信号弾だ。
(神よ!私に力を!炎弾!!)
密集した敵兵集団へ向け、私の炎弾が吸い込まれるように飛んでいく。
この一撃で全ての敵兵を薙ぎ払えるわけではないが、せめて戦場の流れを変えるくらいの効果があればいい、そう期待して放つ。
カッ!!!!!!!!!!!!!
「え?」
想像以上の爆発に目が焼かれる。
(魔力の量間違えたか?いや、全力だから間違えるも何もないだろう、何考えてるんだ私は…)
などと呑気なことを考えているうちに、爆風が戦場を飲み込んだ。