第13話 無いの?
タケが我が家にやってきて10日が経つ。共和国の侵攻はあの日以来ストップし、不気味なほど静寂を保っている。
タケには我が家の客人として自由に過ごしてもらっている。言葉の問題はあるが、それ以外は不自由なく過ごせるように配慮している。
特に食事には満足してもらえたようで安心した。
彼は王国どころかこの世界そのものと関わりが無いために、私も立場を気にしなくていいのがありがたい。
特に爵位を継いでからは立場に縛られて息苦しさを感じていた。
突然同年代の友人のような存在が出来て私は嬉しい。
毎日様々なことを話し合っているが、タケから聞く話はどれも驚くべきものだ。
まず、ニホンという国についてだ。
国教は存在しないが、誰もが神を信じているらしい。全く意味不明だ。
戦争はしないが、強大な軍事力を保有しているらしい。意味不明だ。
魚を生で食べるらしい。理解できない。
ニホンという国そのものにも興味は尽きないが、とりあえず重要ではない。
何よりも驚いたのは、魔法が無い代わりに存在する「科学技術」なるものだ。
魔道具が無いかわりに「電気製品」なるものが存在するらしい。
「電気」というものを作り出して供給する設備が必要な代わりに、魔力を必要としない。
そして「化学」「物理学」という概念だ。
それはこの世界の自然や世の理に対する理解を真っ向から否定するものだ。
これまであらゆる現象は全て魔力によって引き起こされるものだと考えてきた。
薪が燃えるという現象にしても、薪が、魔力で、燃えるのだ。
タケに言わせればそうではないらしい。
「化学反応」だとか、「酸素」だとか、新しい概念が次々と出てきて混乱した。
「酸素」とは目に見えない「気体」だそうだ。魔力も目には見えないものだし、それを消費して物が燃えるなら、もしや「酸素」とは魔力のことか?と聞いてみたが
「全然違う。酸素は物質で、エヴァンたちが魔力と言っているのはおそらくエネルギーの一形態だ。
どちらかというと電気が魔力と同質の存在だと思えばいい。」
と言われた。正直言っている内容の1割も理解できていない。
私は魔力を消費して現象を生み出す、という一方通行だと思っていた。
この世界では誰もがそのように理解している。
しかし彼らの世界では「現象から電気を生み出して」いて、「それを別の現象を起こすために使って」いるらしい。
「同じように物理化学現象から魔力を生み出せるんじゃないのか?」というタケの言葉に私は戦慄した。
そんなこと、考えたこともない。魔力とは、どこにでも存在していて、それを自分で作り出そうなどと、そのような考えを持つ者など居ない。
「どこにでも存在する?そんなわけがない。どこかで作り出されて、何らかの方法で供給されているはずだ。」
そう言われて混乱は深まる。
そして魔法を使った場合、使われた魔力は消えてなくなるというのが常識だ。
タケによれば
「魔力は引き起こした現象のエネルギー、例えば運動エネルギーだとかに変換されてるだけで、消えてなくなっているわけじゃないだろう。」
だそうだ。
我々は魔法の恩恵によって文明を築いてきた。
逆に言えば、魔法があったために「科学技術」を必要とせず、「化学」「物理学」といったものの理解が深まらなかったと考えられる。
そして「電気通信」の話を聞いて頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
「え?魔力通信というか、通信魔法というか、無いの?」
無い。
遠距離の通信手段と言えば先日の戦闘でも用いた信号弾などがある。
あらかじめ色や回数によるパターンを決めておくことである程度の意思の伝達をすることもできる。
だが声や文字を遠くの人間に届ける魔法などというものは無い。
そして信号弾などは目で確認しなければならないが、「電気通信」とやらに距離の制約は無いらしい。
「通信回線」が整備されていれば、大陸の端から端だろうが問題ないという。
そんなものがあればあらゆる分野に革命が起きる。
戦争、経済、国家運営、これまでの在り方が根底から覆る。
概要を聞いただけでも「電気通信」の有用性が理解できた。
ではなぜ我々は今まで魔法によってそれを為そうとしなかったか?
その仕組みを考えてみればすぐにわかる。
音や文字を「電気信号」に変換する。それを「通信回線」を通じて相手先に送る。その「電気信号」を音や文字に戻す。
「魔力通信」が存在しないのは当たり前だ。
魔法の発動において、魔力を消費して現象を生むという一方通行にしか捉えてこなかったのだから、「音や文字を一度魔力に変換して、遠くに送ってから元に戻す」などという技術が生まれるわけがない。
そう言ったらタケは不思議そうな顔をした。
「いや、気づいてないのか?この翻訳の魔道具、声を魔力で変換して相手の理解できる形にしてるんじゃないのか?音声情報が一度魔力という形態を経由している。なら、あとは魔力を遠くに伝送する機能だけくっつければ立派に通信魔法の魔道具になるんじゃ?」
とりあえず書き溜めたのはここまでです。もし続きが読みたいという方がいらっしゃいましたら、投稿したいと思います。




