親愛なる
それは遠い昔の話
そう遠くはない過去の話
ふと考えるのです
たまに思い出すのです
忘れることもないけれど
ふと唐突に恋しくなって
過ぎた日々を浮かべるのです
昔も今も
いつだって特別な存在
この感情がなんという名前なのか
きっとずっと理解はできないけれど
それでいいそれがいい
きっと名前なんていらない想いだから
家族として大好きで
友達として愛していて
唯一無二の存在だと胸を張って言おう
理解されずとも
わかってほしいとは思わないから
ただそう思っていたということを
そう感じたことがあるということを
語ってみたいだけなのだから
その存在はずっとそばにいた
私が産まれたその日から
産まれる前のその日から
アルバムを見返せば
幼い私の隣にほんの少し間をあけて
丸まって寝ている
彼女は猫という生き物だったけれど
きっとどこまでも人間だったのだろう
私は彼女に育てられたのだから
彼女は
私の祖母で
私の姉で
私の親友だった
幼い私は煩かっただろう
とても五月蝿かっただろう
活発な子供だった
だんだんと引っ込み思案で地味な人間になったけれど
それでも家ではやかましい存在だった
彼女に聴かせるように
真横で音痴な歌声を響かせて
撫で回しては満足気に笑った
子供もうるさいのも嫌いで逃げていく
猫のよくある姿だけれど
彼女は全く動かないし
迷惑げな顔もしない
大人しく反応することもなる
そこにいる
雑音を受け入れて観客になってくれた
親と喧嘩しては
嫌なとこがあっては
部屋にひきこもって1人で泣いて
そんな私のただ1人の味方は彼女だった
不貞腐れて泣いている時
部屋でひとりでピアノを弾いている時
勉強をしている時
いつだって振り向けばそこにいて
悲しい時はするりと身体を撫で付けて
足元で寝ている
腕に絡みついてくることはなく
机の上で座るでもなく
そこにいるだけ
待っていてくれるだけ
それに何度救われたことか
1人が好きでひとりか嫌いな私に
寄り添ってくれるのはいつだって彼女だった
愛しくて愛しくて愛しい存在
彼女は最後まで人として在った
居なくなるそぶりなんて全く見せず
眠るように還っていった
いつも眠っている座布団の上
少しずつねむる時間が増えていって
学校から帰ってきた時には永遠の眠りから戻っては来なかった
どこまでも猫らしくなくて
最後まで人間らしかった
夢でもいい
1度でも会いたいと
何度思ったかわからない
大人と呼べる年齢になった今でさえも
1度も会えたことはないけれど
泣いている時いつだって慰めてくれていた彼女は
最期は現れてくれなかった
きっとそれはいいことなんだろう
未練もなく去っていってくれたなら
いくつもあると言われる命すら尽きて
幸せな空間にいるのなら
少しだけ悲しいけれど
とても嬉しいんだ
どうか
大切で大好きなあなたが
安らかに眠れますように
思い出す度に
今でも泣いてしまう私だけれど
あなた以上に出会えない私だけれど
ずっとあなたが穏やかであれますようにと
願っています
共にすごした一瞬の日々の中
少しでも幸せがあったのだと
思わせてください
________親愛なるあなたへ
______________________________私より