33 輪廻転生
その悪魔はかつて神と崇められていた。
天界に住まう神の一人であった悪魔は、その魂に宿した力ゆえに他の神々に畏れられ、その醜悪さゆえに神の名を剥奪されて魔界に堕とされた。
それが魔人ベルゼブブ・ディアブロ・グラージュの最も古い記憶であった。それ以前となると霞みが掛かって思い出せない。一万年の歳月を生きていると語っているが、記憶の限界が一万年というだけで、実はもっと古代からこの世に存在している。
魔人ベルゼブブがなぜ蝿の王と呼ばれているのか、それには諸説ある。
曰く、真の姿が巨大な蝿をしているから。
曰く、蝿を始めとした害虫の大群を使役しているから。
曰く、人間が偉大な彼を見てその存在を貶めようと付けたから。
曰く、彼は己の臣下でさえも蝿以下と見なしているから。
魔界に流れるそれら噂のほとんどはデマであり、最も重要な的を外している。
蝿の王の異名の意味。それはベルゼブブの先天的な能力によるものだった。
ベルゼブブの魂にのみ与えられた祝福であり最悪の呪い。
『輪廻転生』。
その能力は死を引き金にして発動する。
ベルゼブブが死んだとき、彼の魂は肉体を捨てて、他の死体に乗り移って復活する。その過程に彼の意思は介在しない。たとえ精神が死を望んだとしても、魂は現世に残り、彼を永久に生かし続けるのだ。
ベルゼブブの魂が憑いた死体は生命活動を再開し、あらゆる傷も病気も完治して、その後歳も取るようになる。元の肉体に戻っても復活するかもしれない。
何度殺そうとも彼は復活する。寿命が尽きようとも別の生物となって生き返る。
肉体が滅びようとも魂は地上を彷徨い、屍に取り憑いて蘇る。
蝿の姿になってでも貪欲に生き続ける不滅の王。
その生き様は魔界の中でも異端と称されるほどの醜悪さを放っている。
だからこそ忌み嫌われ、疎んじられ、崇拝の対象となり、蔑まれてきた。
神々からは生命の理を犯していると忌避され、
魔人からは生に執着する浅ましい存在と見下され、
人間からはただ恐ろしい存在だと恐怖された。
魔人ベルゼブブはそうして生き、そして今も死んだ。




