26 魔人の遊び
「おほほほお久しぶりですねえ、あなたと会うのも五十年ぶりでしょうか。相変わらずゴブリンのくせに馬鹿でかい図体ですねええええ、よし殺そう」
ゲスブルーは、オーク相手に奮戦しているゾルアにそう言った。
ゾルアだけはこの防衛戦においてもオークどもを圧倒していた。すでに奴の剣は根元から折れ転がっていたが、生身の拳でオークを次々と屠っていく。
オークの体長は大きい個体で二・五メートルほどだが、ゾルアはその二倍以上ある。傍から見ると、じゃれ合っている子供たちを殴り殺す大人のようだ。
ゲスブルーは周りのオークどもを引かせ、ゾルアと対峙した。
懐かしい再会だ。散々楽しんでから殺すに限る。
「キャラバンに見逃された魔人が、この里に何の用ぞえ」
「おやおや減らず口を叩きますねえ。私を殺さなかったのは奴らのミスですよ? きっちりとどめを刺すのが戦いの理。最後まで生き残っているのが勝者ですねえ?」
「ソロモンが救ってやったその命、儂が冥府へ送ってやるぞえ」
ゴブリンの王が脇目も振らず突進してきた。
ゲスブルーは背後に控えさせていたオークたちをぶつけた。攻撃ではなく、相手に抱きついて動きを止めるのを目的とさせた。
両足にまとわりつかれ、ゾルアの巨体が止まる。
「こんなもので、儂が、」
「『轟雷』ぉぉ!」
ゲスブルーの手から漆黒の稲妻が落ちた。
「―――――――――っ!?」
声にならない悲鳴をゾルアは上げた。巻き添えになったオークどもは黒焦げになり、地面に崩れ落ちて生命活動を止めた。
「な、かまごと、焼く、とは……!」
息も絶え絶えにゾルアは膝を着いた。ベルゼブブに放った『雷刃鮫』よりも高威力の『轟雷』をまともに食らったのだ。奴に力は残っていないとゲスブルーは判断した。
ゆっくりと近づいていき、ゲスブルーはゾルアに耳打ちする。
さあて、お楽しみの時間だ。
「ああそうそう、今さっき思い出したんですけど、あなたがキャラバンから追放された一件、あれ私が噛んでいたんですよお? 竜に化けた私があの帝国に侵入して、王女を攫ったんです。おかしいと思いませんでしかああ? 竜に人間の判別が付くわけないじゃないですか。お馬鹿ちゃんでちゅねえ」
「貴様……、よくも」
「だいたい、魔物の貴方が人間に歓迎されるってのも腐った妄想ですよねえ。キャラバンの皆さんも可哀そうに。頭のおかしいソロモンという男のせいで、敵と戦いながら背後にも気を配らなければならなかったのですからねえ。むしろ、異物を取り除いてあげた私に感謝してほしいぐらいですねええ。あれ? あの糞魔女にぶっ殺されたんでしたっけこりゃ失敬!」
「儂のことはいいぞえ……。だが、ソロモンを悪く言うでない……!」
ゾルアはありったけの怒りをゲスブルーに向けた。
「ああああ! いいですよぉいいですよぉその目最高ですよ素晴らしい! おっと、これも言い忘れていました。あなた方が竜と交渉しに行く前に、私ったらソロモンに化けて竜を殺して回ったんですよ。素晴らしいでしょう? ああ、なんと美しい復讐の連鎖」
ソロモンの名誉を汚されたと知ったゾルアが怒り狂って襲いかかってきた。
ゲスブルーは半歩下がり、醜く太った腹部を斬りつける。
イリアから借りてきた名剣は、キングゴブリンの肉を易々と切り裂いた。
剣を鞘に収めると同時に、ゾルアの胴体がパカリと縦に開いた。
大量の血飛沫がゲスブルーに降りかかった。それを笑顔で受け止める。
まだゾルアは絶命していない。まだ彼にはさらなる絶望を味わってもらわなければならない。
倒れ伏したゾルアにそっと囁く。
「あなた方が必死に逃がしたメスとガキたちですが、ちゃあんと別働隊の竜に追わせているのでご安心くださいね? 私は差別主義のキャラバンなんかと違って、仲間外れは好みませんです。ぜぇんいん仲良くぶち犯し殺してあげますからねええ?」
ピクリ、ピクリ、と出血のショックで痙攣するゾルアはすでに声も出せない。
興を削がれたゲスブルーは次の楽しみを見つけようと戦場を見回した。
目の前にはたくさんのオモチャがある。長を亡くしたゴブリンは茫然自失の状態で、反撃する気力を失っている。皆ろくに抵抗せずにオークに嬲り殺しにされている。
じきに獲物を捕まえた竜がここへやってくるだろう。
パーティは盛大にやらなければお客様に失礼だ。
イリアの記憶の中では、アンとかいう少女は魔物に回復魔術を掛けてしまうぐらい、サブイボの立つ心優しい人間だ。キチガイはいつの時代もいるものである。
彼女を楽しませる催しを開かなくては。
そしてベルゼブブには特等席でそれを見学してもらおう。
どちらが先に来てもいいように、準備は急がなければならない。
ゲスブルーは彼らの表情を思い浮かべ、胸を躍らせた。
「さあ、皆さんゲームを始めますよう? ルールは簡単。オモチャで目一杯遊びましょう。楽しまなかった人にはあとで罰ゲームですからねえええ」
魔人は来る客人を待ちわびながら、邪悪な遊戯を取り仕切るのだった。




