23 化けた魔人
イリアはすべての兵士に森へ入るよう命令した。
彼女はヴェルダン家紋のハイフクロウの旗が掲げられた本陣で仁王立ちしていた。参謀の一人が彼女に話しかけた。
「イリア殿。当初の作戦では、森の外側に兵を幅広く展開し、散り散りに逃げてきたゴブリンを各個撃破していく予定だったはずです。全部隊を森に投入したら作戦の続行は不可能になるのに加え、向こうに有利なフィールドで戦うことになります。なぜこんなことを?」
「黙れ。作戦は変更だ。いいから、私の指示通りに動け」
「先ほどから様子がおかしいですな、イリア殿。森を焼いてしまうのも、私は反対でした。いくらゴブリンの巣と言えども、森は我らにとっても大事な資源。あの森を奪えても、残ったのが焼け野原では……」
「……貴様、私に盾突く気か? 黙れと言ったのが聞こえなかったようだな。ヴェルダン侯から連合軍の指揮を委任されたのはこの私だ。私の言葉はヴェルダン侯の言葉でもある。理解したらその腐った息を二度と私に嗅がせるな」
「しかし、ヴェルダン侯はこんなときに何を……」
「――くせえんだよ!」
イリアは参謀の喉を剣で貫いた。参謀は背中から倒れ、物言わぬ骸となった。
「二度も私に意見するとは愚かな奴だ。やっと静かになった」
息を落ち着かせてから、イリアは他の参謀にも見せつけるように死んだ男を踏みつける。
「い、イリア様! 何てことを。彼はラグトの街から駆けつけてくれた参謀ですぞ」
「ほう、貴様も私に盾突くか?」
イリアが剣先を向けると、その参謀はすぐに態度を翻した。
「め、滅相もありません」
「では、貴様もあの森に行け」
イリアは剣で森の方角を示した。そいつはとんでもない、と慌てふためく。
「わ、私は参謀ですので、戦場に入ってもとても力が及びません。率いる部隊もすべて森に入っております。私が行っても………」
断末魔さえ上げられず、言葉の途中でそいつは首を跳ねられた。本陣に緊張が走る。イリアは転がった頭部を蹴り飛ばし、他の参謀たちを睥睨した。
「貴様らも行け。断る者がどうなるか、わざわざ口で説明する必要もあるまい?」
誰も口答えできずに、イリアを除いた全員が森に向かっていった。
残されたイリアは――イリアに変身したゲスブルーは、醜い笑みを浮かべる。
「これで邪魔な人間はもういませんねえええ。あああああ! 清々した! 人間の真似をするのも限界でしたねええ! あと一分遅かったらプッツンして皆殺しにしちゃうとこでしたね。まあ結局全員死んでもらうんですがねえええ」




