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ベルゼブブ魔人戦記  作者: ましろゆう
22/38

22 魔人の指揮

 ゴブリンの軍隊は部隊に小分けされ、俺の指揮下に入った。


 敵が森に火を点けたのはこちらの退路を断ち、戦力を分散させるためだ。戦闘に参加できないメスや子供を逃がすには、森を消火しながら進まなければならない。


 兎にも角にも情報だ。俺は斥候兵に報告させた。


「ゴブ。敵の動きは二つ。森の東側を囲んで展開する大軍。もう片方が森に侵入し、この里を目指す部隊。先行した戦士たちが後者の部隊と接触して、戦闘が起きているゴブ」


 キングゴブリンのゾルアほどではないが、安定したアルミラ語を使うゴブリンが斥候の言葉を翻訳した。


 敵は森焼きを継続していないようだ。これ以上の火は進軍の妨げになると判断したのだろう。

 俺は伝令兵を走らせ、前線のゴブリンを後退させた。敵がこの森に行軍するには馬から降りる必要がある。ならばこちらは待ち伏せして敵を潰せば良い。


「可能な限り斬り合うな。一撃食らわせたら撤退。これを徹底させろ。徐々に後退しながら敵を森の中に誘い込み、敵が深く入り込んだところを一気に仕留めろ」


 ゴブリンの体格は森と相性が良い。小柄であり、剣を振り回しても木に当たらない。おまけに俊敏なので、機動力では完全にこちらが勝っている。


「儂はどうするぞえ。敵は大軍。地の利があっても、いずれは時間の問題だぞえ」


 ゾルアは東の方角を鋭く見つめてそう言った。この戦争で負ければゴブリンに明日はない。長としても敗北は避けねばならないのだろう。


「だから連中を深く森に入らせる。次々に戦力を投下して、本丸が薄くなったところを狙うのだ。指揮官さえ倒せば、急場の大軍は烏合の衆に落ちる。おまけにこの森だ。指揮官が戦況を把握するのも苦労するだろう。俺もそろそろ動くとする」

「儂も行くぞえ」


 俺はゾルアを手の平で制した。


「駄目だ。お前はこの森でも目立ちすぎる。俺は前線部隊と合流して敵の本丸を攻める。いいか、お前はゴブリンどもの精神的支柱だ。お前が崩れれば、全隊の士気に関わる。逆にお前さえ残っていれば奴らはどこまででも戦えるということだ」

「ここが儂の最後の戦場。後生だ、行かせてほしいぞえ」

「駄目だ。お前は戦争がこれで終わるとでも思っているのか?」


 俺はゾルアに言葉をぶつけた。


 戦争は終わらない。今の戦いは終わるだろう。だが必ず次の戦いがある。どちらかが根を上げるまで徹底的に攻め込まれる。ゴブリンはこの地で目立ってしまった。ゾルアにはゴブリンという種の未来を考えて行動する責任がある。


「終わるぞえ。先に未来はないぞえ」

「未来がなければ作ればいい。この戦闘が終わったらすぐに他の魔獣を攻め込むぞ。貴様らに追い出されたオークの巣が近くにあるはずだ。奴らを従えて、今度こそ完全にカルバンの街を打ち滅ぼす」

「そんなの無理ぞえ。オークがゴブリンに従うわけがない。過去の禍根もあるぞえ」


 ゾルアの言葉に、俺はニヤリと笑った。


「いいや、可能だ。忘れたのか、アンの存在を。アンがいればオークを奴隷にし、共に戦わせるのは簡単だ。さらに人間を奴隷にし、支配することもできるだろう」

「しかし……、彼女がそれを望むとは思えないぞえ。あの子はソロモンの血と志を受け継いでいるんだぞえ」

「かもな。俺も説得できるとは露にも思っていない。だがオークと『お友達』になることはできそうじゃないか? そういう未来もあるということだ」


 魔力が戻れば、俺が奴隷紋を使って魔物を支配するという手もある。アンは嫌がるだろうが有効な手を使わない手はない。そちらは時間を掛けて説得していくとしよう。


「何かあったらすぐに連絡しろ」


 そう言い残して俺はゴブリンの小隊と共に森を駆け降りて行った。途中、前線から戻ってきた斥候と合流した。俺はその情報に眉を顰める。


「前線の半分がもう崩されただと?」


 後退しながら敵を倒すように指示したのは先刻だ。指示に従わなかった一部の部隊が倒されたのならともかく、前線全体に被害が広がっているのはおかしい。

斥候から続きの情報を聞き、俺の疑問は解消された。


「敵が多いゴブ。捌くのは不可能」


 敵は戦力を一気に投入し、短期決戦を仕掛けてきたのだ。森の中での戦闘が長引びくと不利になると早々に悟ったのだろう。確かに一気に攻め込んで、ゴブリンの里に辿り着けば向こうの勝ちは確実なものになるだろう。


 互いに本丸狙いというわけだ。


「悪く思うなよ、キング」


 こういう展開になることは薄々読めていた。こうなれば里に残ったゾルアは囮の役目を立派に果たしてくれるだろう。オークを圧倒したその力を十分に振る舞ってくれ。人間がゾルアの討伐に集中してくれれば、俺は戦場を掻き乱しながら敵の本丸を叩き潰すことが出来る。


ゾルアを置いてきた本当の理由はそこにある。里で言った内容はあくまで方便だ。冷たいことを言えば、ゾルアが倒されてもそれはそれで都合がいいのだ。


軍隊が最も油断する瞬間とは、相手の総大将を討ち取り勝利を確信したときである。

だから、そこを突く。


キングの死はゴブリン軍の力を底上げしてくれるだろう。ショックで戦意喪失する者も出るだろうが、俺が新たなキングとなって彼らを導けばいい。ショックと戦場の熱は新しい王の誕生をすんなり飲み込ませる。


 現時点でもゴブリンは俺の命令に従う。実質の指揮官は変わらない。戦争に勝利すれば、長の復讐を果たしたゴブリンは俺に忠誠を誓うだろう。忠実な僕の完成だ。


 ……まあ、そんなに上手く行くとは思えんがな。


 ただ確かなのは、この戦争が決するのは早いということ。

 俺はその事実と不安を抱えながら、森を降りていく。


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