20 魔人の夢
夢を見ていた。
俺の眼下に広がる大地を埋め尽くさんばかりの軍隊。
数千の魔人、数十万の魔獣、古代龍でさえもそこに混じり、一様に俺を見上げている。
俺がまだ魔界にて、不敗の将軍と畏れられていた頃の夢だ。
配下の中には奴隷ではない、真に忠誠を誓った者もいた。種族も体格も年齢も実力もバラバラの共通点のない配下たちは、ただ静かに俺の命令を待っている。
一声命ずれば彼らは何であろうと実行する。人間の国を滅ぼし、逆らう魔人どもを虐殺し、天界の神々にすら刃を向けるだろう。
その眺めはまさに歓天喜地。我が人生の絶頂期。
痺れるような脳内麻薬と腹の底から湧き出る高揚感が堪らなかった。
誰が我を止められようか。誰が我に盾つけようか。
栄華で猛々しい人生を狂わせたのは、一人の魔人だった。
忌まわしき魔人レヴィアタン。
レヴィアタンは魔界七大将軍の序列において三位であったが、二位の俺との差は歴然としていた。奴が、異端の存在である俺に蔑視と強烈な嫉妬を抱いているのは知っていた。いずれ実力も弁えずに、歯向かってくるかもしれないことも。
取るに足らない芋虫だと思っていた。その評価は油断だった。奴は俺を潰すために他の七大将軍に掛け合ったのだ。ベルゼブブは危険だ。討伐せよ、と。
いわく奴はこう囁いたらしい。蝿の王は天界と契約した。魔界の征服に協力する代わりに、神の座を用意し、天界に迎え入れるという条件で。
蝿の王は神の座を取り返し、天界に戻ろうとしているのだ、と。
愚かな虚言だと俺は思った。今さら天界に未練など残っていない。魔人に堕ちたのはすでに一万年も前のこと。そんな妄言、誰が信じるものかと俺は事態を軽んじた。
だが、最大の予想外は、奴の軽薄な口車に他の大将軍が乗せられたことだ。
序列一位の『始原の反逆者』サタンまでもが、俺の敵に回った。
それはつまり、魔界の地に生きるすべての存在が敵に回ったことを意味する。
俺の軍隊は徹底的に抗戦した。奴隷は命を顧みない鉄砲玉となり、配下は億の軍勢に一万で挑んだ。血で血を洗う凄惨な戦争は、俺の敗北という無残な結果で終わった。
俺は逃げている。魔界に七将ありと謳われた大将軍の一角であり、魔界の絶対君主であり、不敗の将軍である俺は、それらすべての地位を剥奪されて、配下を犠牲にし、命からがら逃げ続けている。逃げたところで先には何もないのだと知っていながら。
ゲスブルーが魔犬の群れを放ってきた。大方、次の大将軍にしてやるなどとレヴィアタンに唆されて、体のいい手駒にされたのだろう。
魔力も尽き、今にも気絶しそうな意識のとき。
俺は雷のような、不思議な光に包まれた。
今ならば分かる、あれは次元の綻びの証。
その光に導かれて、出会ったのだ。
「ベル君、起きて! 大変よ! 大変なことが起きてる!」
そう、この少女に。




