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オイディプスの鬱屈  作者: みずっち
6/7

第6話:激突

A児の目の前には、大きな扉がそそり立っている。

この迷宮の主と玉座が、扉の向こうに存在するのだ。

今彼が居るのは前室である。

ラスボスの前に、自分と戦ったら。

そして、途中で玉座の間に入ったら。

只の嫌がらせだ。

A児は口角を上げた。

その笑みには、狂気が満ちている。

(主ヨ)

「おう」

(何カ来タ)

「ああ」

A児は、背後を振り返って頷いた。

「偵察用の従者だな」

人間サイズのゴーレムだ。

最後の曲がり角を曲がって来たのが見える。

憑依でもしているんだろう。動きが滑らかである。

どの道ソロのミニオンランクで、今のA児達から見ればそれ程脅威では無い。

「あんたが誰だろうがどうでもいい。くそばばあに伝えろ、俺はココで待ってるってな」

虹色の光を纏い、A児は眼前のゴーレムを叩き切った。

どうせ直ぐ来るだろう。

血の気の多い連中を連れているみたいだし、挑発に乗るも乗らないも、どの道此処はボス部屋の唯一の出入り口である。

壁や天井をぶち割って奇襲をかけて来ても、A児が死ぬだけである。

それこそ願ったり叶ったりだ。


角の向こうから幾人もの人が来る気配を感じ、A児の笑みが深くなった。

そろそろか。

A児が腰の剣に手を掛けた瞬間、突然目の前に人が現れた。

それが誰かを認識する暇も無く、右側に圧力を感じ、吹き飛ばされた。

防御も回避も間に合わなかった。

「がっ…」

壁にぶつかり、ヨロヨロと片膝を突く。

ぶつかった衝撃で壁にヒビが入った。

壁の亀裂に手を掛け、抜いた剣を地面に突き刺す。

杖代わりに立ち上がると、漸く相手の顔が分かった。

「げほっ…よう、クソババア」

A児は、息を整えながら嗤う。

「うん…久しぶりだね…A児君」

夜櫻が納刀しながら、A児を見据えた。

いつに無く真剣な表情だ。

殺気と言うか闘気と言うか、オーラの様な物を感じる。

既に覚悟を決めているのだろう。

やはりそうでなくてはいけない。

A児は、楽しそうに笑った。

夜櫻の後ろを、大勢の冒険者達が走り抜けて行くが、今のA児には関係無い。

イタズラは出来なくなったが、直前に<冥府の書>をオートモードにしてあったので、モンスター達は自動で復活するだろう。

それに、一番大事な相手は目の前に居る。

「相棒」

(アア)

「行くぞ」

居合の構えに入った夜櫻を、A児は本当に楽しそうに笑みながら睨んだ。



 ◇ ◆ ◇



はみんには、夜櫻が突然消えた様に見えた。

数瞬の後、曲がり角の向こうから轟音が聞こえ、ほぼ同時に覇王丸が号令を掛けた。

「突入開始!」

<暗黒覇王丸>のメンバーが先に雪崩れ込んで行く。

自分達は目的が違うので、彼らの後で構わない。

<暗黒覇王丸>の第二中隊にピッタリ付いて、曲がり角を曲がった。

「っ…!」

年少組の三人は息を呑んだ。

居合の構えを取る夜櫻と、中段に剣を構えるA児が、一〇メートルほどの距離で対峙している。

しかも、夜櫻は近寄り難い気迫を込め、A児は虹色の光を纏いながら。

<暗黒覇王丸>が全員玉座の間に消え、扉が閉まった瞬間、二人が同時に動いた。

刹那、(つんざ)く様な金属音が轟く。

思わず耳を塞ぎたくなるが、そうも行かない。

一瞬遅れて、土方歳三達事務所メンバー、<堕天使の行軍>の助っ人達、そしてヨサクとモノノフ23号が動いた。

ハッと我に返ったはみん達も動き出す。

ある程度近づくと、A児の顔も見える様になって来た。

表情が見えて、はみんの背筋が凍った。

A児が笑っている。

狂った様に、或いは悪魔の様に、または虫で遊ぶ無邪気な子供の様に。

他の二人も同様に衝撃を受けたらしい。

凍りついた様な表情だ。

だが、状況は待ってはくれない。

背後から、モンスター達の気配が近付いて来る。

「配置に着け!」

近くに居た<堕天使>のメンバーに叱咤され、我に返った三人は、慌ててフォーメーションを組んだ。

冒険者全員がここと玉座の間に集まっているから、必然的にモンスター達もここに集中して来る。

夜櫻達が邪魔されない様に、雑魚を掃討するのが自分達の役目だ。

A児と典災が隙を見せた時に、モノノフ23号が切り札の口伝を発動させる。

そのサポートのためだった。



………

……………



「切り札?」

「へぇ、モノノフ君が口伝ねぇ、なんか面白そう」

ヨサクは胡散臭そうに、夜櫻は興味津々で反応した。

「女帝にしごかれました…」

「Oh…」

「ヴィクトリア陛下か…」

「あっはっは!やりそう!」

項垂れたモノノフ23号を見て、<竜の渓谷>を知っている<堕天使>の数人と夜櫻が、それぞれのリアクションを取る。

”口伝”と言うのは少し違うかも知れないが、元々無かったと言う意味では同じだろうか。

性能とコストの癖が強過ぎて、普段は使えない。

「先ず、<航界種>にしか使えません」

また、本体が目の前に居ないと使えない。

幻とか霧になったり影に潜む等、実体を持たない状態では発動しない。

そして、コストが半端ない。

HPとMP共に、最大値から残り一になる。割合消費どころでは無い。

最大値が幾らであっても変わらない。発動したら必ず残りは両方とも一になる。

つまり、どちらかが最大値で無い場合は、詠唱選択自体出来ない。

更に、詠唱時間が一二〇秒掛かる。

その間に立ち位置を変えたり移動は出来るが、他の特技は使えない。ダメージを負う事も出来ない。

「MP使ったりダメージ受けたりしたらキャンセルすんのか…」

詠唱が完了して、発動準備で保持している間も、だ。

呆れた様なヨサクの声に、モノノフ23号は頷くしか出来ない。

何故か夜櫻はワクワクした目で見ているが。

「どんな効果が有るんだい?良ければ、教えてくれないか?」

<守護騎士>のアルトリウスが続きを促した。

「…正直、あんまり公にしたくないんですが…」

コストに見合う性能は持っている。

だが、ガチのゲーマーからすれば、チートとも揶揄されかねない。

特技名は<月の揺り籠(ムーン・チャイルド)>、とあるGM権限を限定行使出来る。

「GM権限だと!?」

「具体的な能力は伏せたいんですが…発動時間は十数秒です」

セルデシアに受肉した際、GMの欠片が少し混じったのだろう。

魂の奥深くに眠っていたのが、女帝のしごきで目覚めたのかも知れない。

そう言った事を簡単に説明した。

「しかし…そうか、<典災>限定か…」

ジブリールの言葉に、モノノフ23号はコクリと頷いた。



……………

………



休憩中の会話を少し思い出しながら、はみんが夜櫻とA児の方に視線を向けた。

チラリと数秒だったが、状況把握には充分だった。

A児が剣を地面に叩き付け、夜櫻がそれを足場に跳び上がった様に見えた。

実際には、A児が振り下ろした剣を夜櫻がいなし、足で押さえつけ、そのまま跳躍したのだ。

宙返りをして、A児を斬りつけ、背後に降りると、もう一太刀浴びせて距離を取った。

夜櫻が着地した瞬間にA児の背後が揺らめいた気がしたが、ほんの一瞬だったため、錯覚かも知れない。

はみんは気を取り直し、迫り来るアンデッドの群れと対峙した。

本当は、夜櫻のサポートをしたい。

A児に色々聞きたい事が有る。

だが、あんなハイレベルの攻防に割って入る実力を持っていない。

フェイディット達事務所組のベテラン勢が、必死に夜櫻のサポートをしている。

その表情にいつもの余裕は感じられない。

フェイディットでさえ、険しい顔で夜櫻にバフを掛けている。

はみんは、後ろ髪を引かれる思いで、前衛達に障壁を付与して行った。



 ◇ ◆ ◇



覇王丸は、部下からの報告に目を細めた。

剣と盾を持った巨体のミイラ、<王墓の守護者(クラウンガード)>の隙を突き、斥候が玉座の下の隠し階段に入り込んだ、その報告だった。

金銀財宝は有った。ほぼ手付かずと言っても良いだろう。

他にも、幻想級や秘宝級のアイテムが沢山散らばっている。

だが。

部屋の隅に一箇所だけ、他とは違い台座が設けてあった。

そして、台座の上には何も無かった。

そう言う報告であった。

「ヤツか」

「恐らく」

今現在、夜櫻と戦っているだろうあの少年。

そう言えば扉の前で待ち構えていたが、先に手に入れていたらしい。

封印のお座なり加減を考えると、レプリカだろう。

覇王丸は、フン、と鼻を鳴らし、指示を出した。

「財宝は全て回収しろ。ボスを倒したら、次は新種と小僧だ」

「Sir, Yes, Sir!」

指示に従い、全員が動き出した。

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