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オイディプスの鬱屈  作者: みずっち
5/7

第5話:突入

「ヘイ、レディ・ブロッサム!」

「何?ジブリールさん!」

「今度、旦那に酒奢れって言っといてくれ!」

「あ、うん分かった!」

ミイラ数体を屠りながら、雑談を交わす。

「や~、来てくれて助かったよ~、シークさん達には別で動いてもらってるからさぁ」

「ああ、構わないさ。偶々こっちに居たしな」

ギルド<堕天使の行進(アザゼル・パレード)>は、全員がアメリカの警察官、および関係者で構成されている。

元々、北米サーバーがホームであり、エジプトには、知り合いの助っ人に来ていただけだった。

ギルドマスターのジブリールは、嘗て<共鳴の絆>に参加していたため、朝霧が事前に<共鳴のミスリルバングル>で連絡を取り、今回の事を伝えた。

そして先日、シーク・エンスが彼らに接触し、情報を共有した事で、今回手伝ってもらえる運びになったのだ。


「それにしても、あの頃にそんな事が有ったとはな」

「まあ、お互い様だよ」

丁度同じ時期に、A児の事件と彼らの事件が重なった。

早川咲良は彼らに呼ばれ、アメリカの事件に関わったが、事務所としてA児の事件も担当する事になったので、大谷和博と保坂秋人に任せた訳である。

「昔からの知り合いでね」

休憩中に、夜櫻がはみん達に話す。

「元々アメリカの弁護士資格は持ってたからさ…時々向こうに行って、色んな事件に関わる内に、ジブリールさんとは知り合いになってたんだけど…」

「現実世界でP.K.ジョンって知ってるか?」

ジブリールの質問に、はみん達は知らないと首を振った。

PKと言うと、どうしてもプレイヤーキラーしか浮かばないからだ。

「ポリス・キラー、ジョナサン・ヴァレンティン、だったか?俺もうろ覚えだが」

覇王丸が答える。

ジブリール達は頷いた。


「その名の通り、警察官だけを狙った連続殺人鬼だ」

はみん達は背筋を震わせた。

「当時全米を恐怖に陥れたシリアルキラーでね…」

ジブリールは、一旦隣の青年をチラリと見遣る。

「最初の犠牲者は、俺の相棒(バディ)だった。そして、このイスカの…アレックスの、母親だった」

「えっ!?」

はみん達が驚いてイスカを見る。

イスカは、その視線に頷いた。

「本当さ。ニューヨークで最初の事件が起きたんだけど、その犠牲者は母さんだった」

彼は当時一五歳、多感な時期だった。

「俺は犯人が捕まるまで荒れてたんだけどね…二人が報告に来てくれて、それで何とか立ち直ったんだ」

今は警察学校に通っていて、もうすぐ卒業の予定だと言う。

「結局、一三人が殺された。レディが来てくれなかったら、もっと続いていたかも知れない」


犠牲者は出た。だが、彼女のお蔭で事件を解決出来た。

それまでも、ハヤカワサクラの名はアメリカである程度知られていたが、この事件への貢献により警察から更に信頼される様になった。

ただ、本人の希望で非公式の扱いになり、世間にはあまり知られていない。

この情報は、警察や検察、法曹界の中で留められているが、その事を知る関係者からは、敬意を込めて"レディ"、若しくは”レディ・ブロッサム”と呼ばれる様になった。

「もしレディが来なかったら…A児君の代わりに、俺がそうなっていたかも知れない」

イスカは、嘗ての自分を思い出した。

荒れた時期、家にあまり帰らず、ダウンタウンやスラム街に足繁く通っていた。

もしそのままだったら、自分の方がドロップアウトしていたかも知れない。

「だから、A児君の事は放っとけなくてね。それに、世話になったレディに借りを返したかったし」

イスカの言葉に、<堕天使の行進>の助っ人全員が頷く。

「借り?アタシ何か貸したっけ?」

夜櫻の呟きに、何人かがずっこけた。



 ◇ ◆ ◇



(主ヨ)

「ああ」

(冒険者ガイッパイ来タ)

「そうだな」

A児と典災は楽しそうに笑った。少なからぬ狂気の色を孕みながら。

迫り来る冒険者の集団は、群では無く、軍だった。

まさしく統率が取れ、全体が一つの生命体の様に、有機的にかつ臨機応変に動き回っていた。

その中に、夜櫻をはじめ見知った顔が有る。

<神祇官>のはみん、<妖術師>の雪太郎、<暗殺者>のジュエリー・ビーン。

(なんだ、アイツらも来たのか)

嘗て<放蕩者の記録>で一緒のパーティを組んでいた三人だ。

しがらみと言うのは、中々断ち切れないらしい。

だが。

A児は先ほどと同様に、昏い笑みを浮かべた。

今度こそ、断ち切る。

<魔法鞄>を漁り、あるアイテムを取り出す。

アイテム名<冥府の書:写本ネクロノミコン・レプリカ>――巻物の形をしたソレは、ボスの隙を突いて探索した最奥の玉座の下、隠し階段の先の部屋で見つけた物だ。

芯の部分に青い石が埋め込まれている。これが電池の様に魔力を供給する構造になっていた。


このアイテムは、不死系モンスターのリポップを早め、しかも操れるらしい。

ただ、フレーバーテキストによると、複製版(レプリカ)でありボス属性のモンスターは操れないと有った。

また、本物は破壊不可能だがコレは破壊可能と言う事で、取り扱い注意である。

正直充分だ。モブやパーティランクの雑魚は操れる。

A児はニヤリと嗤い、巻物を起動させた。

半透明のメニューが、目の前に展開される。

リポップ地点は大体決まっているが、細かい調整が可能な様だ。

そして、自分の周囲からも復活可能だった。

その代わり、使用者である自分を中心に五メートル以内、更に迷宮全体で個体数が固定されているので、どれかのモンスターが倒されないと復活出来ない様である。

まあ只の嫌がらせだから、それでも構わないだろう。

正直、これで退却させられるとは思っていない。

夜櫻と言う人物は油断大敵だ。何をどうしてくるか、予測が着かない所がある。

それに、一緒に居る覇王丸と言う冒険者も、以前聞いた事が有る。

第一線で活躍するレイダー達は手強い。

だからこそ、何度も挑める(死ねる)のだ。

A児はメニューを操作し、リポップのタイマーを加速させた。



 ◇ ◆ ◇



「おかしいな」

「ああ」

<堕天使>のメンバーが首を傾げる。

「どうしたんですか?」

ジュエリー・ビーンが、スケルトンを倒しながら尋ねた。

「アンデッドどもの動きがね…」

<治癒術師>のベルシュコが、眉間に皺を寄せながら応える。

「やっぱり?」

「レディも気付いたか」

「気付かない方がおかしいだろう」

覇王丸を含め、他のメンバーも何人か気付いた様だ。

歴戦のレイダー達は分かったらしい。

「あのね…」

未だに分からないはみん達に、後から合流したフルートが説明を始めた。

「さっきまでバラバラだったスケルトン達の動きに、連携プレーの動きが見られる様になったの」

戦術的には初歩で、かつレベルが低いから、こちら側がまだ圧勝出来るが。

「後、もう一つ、気付いた事が有るんだよね」

そう言って、夜櫻がヨサクの方を見る。


「オーラセイバー!…リーフトゥルクの方は聞いただけだがな」

目で促され、嫌そうに顔を顰め、ミイラを倒しながらヨサクが話し出した。

「大災害直後に、シヴァの大発生に遭遇した事は有る」

<不死>属性のモンスター達が大発生し、しかもリポップタイマーが高速化されていた。

「あの石にそんな力が!?」

元凶がルークインジェ・ドロップスだと知ったモノノフ23号が驚いた。

「石に近づくほどタイマーが速くなり、最後の方は即時だった」

「つまり、このダンジョンにもソレが有ると言う事か」

「あるいは」

ヨサクの情報にジブリールが頷くが、覇王丸が遮る。

「既に手に入れたヤツが居る」

「かもね」

ゾンビに飯綱切りを放ちながら、夜櫻が同意した。

「何をですか?」

首を傾げたジュエリー・ビーンに、フェイディットが呟く様に答えた。

「<冥府の書>、ですね」


誰が、とは聞かない。

自分達より先に入った者…今の所、一人しか浮かばない。

流石に年少組の三人にも分かったらしい。

はみんと雪太郎が、険しい顔をした。

ジュエリー・ビーンも、寂しそうな表情を浮かべた。

「どの道、行くしか無いな」

土方歳三がミイラを斬り倒して呟く。

彼にとっては、A児に会って話を聞く事が今回の目的だから、既に吹っ切れている。

「…はい」

はみんが、覚悟を決めた様に頷いた。

「夜櫻、念を押しておくが、<冥府の書>は俺達が貰うぞ」

「うん、分かってる」

覇王丸の言葉に、夜櫻は頷いた。

「レディ、本当に良いのか?」

「うん…元々そう言う約束だったしね」

いつもなら、世界を危険に曝せないとか言って拒否しそうなものだが、夜櫻は譲歩するつもりの様だ。

「らしくねぇな…まあ俺達はあんたの判断に従うが」

ジブリールは、複雑な気持ちで夜櫻を見た。

P.K.J事件取材記録


発生場所

アメリカ合衆国各地


犯人

ジョナサン・ヴァレンティン(男・当時33歳)


発生時期

2008年7月末~10月下旬


詳細

ニューヨーク州を皮切りに、各州に1人ずつ、毎週1回のペースで犯行が行われた。

被害者は全員警察官である。

犯人の強い拘りにより、上記のルールは徹底された。

13人が殺害され、14人目を襲った所で現行犯で逮捕された。

場所も曜日もランダムだったため、FBIの捜査も難航するかに思われたが、10月下旬に劇的な解決を見た。

犯人であったジョナサンは、素直に自供し、裁判でも有罪となった。

各州1人ずつ、計50人を殺したら、自殺するつもりだったらしい。

精神鑑定の結果、サイコパスであり、自分の命も他人の命も等しく軽く考えていたと言う。

裁判では死刑判決が下され、2009年12月に執行されている。

なお、この事件について、1つ奇妙な噂が有る。

日本人の弁護士が、事件解決に貢献したらしい。

しかも、捜査に参加して解決するまでが3~4日ほどだったと言う。

ただ、その事については、関係者全員が知らないと証言しているため、筆者はデマかただの噂であろうと推測する。


被害者リスト

1.アレクサンドラ・ブリッグス(ニューヨーク州・ニューヨーク)

2.カイラル・テストール(テキサス州・ダラス)

3.アリシア・ツォン・鈴木(ワイオミング州・シャイアン)

4.シン・W・カーティス(ミズーリ州・スプリングフィールド)

5.ブライアン・アジード(ハワイ州・カイルア)

6.ジェイド・楊(サウスカロライナ州・チャールストン)

7.マリアンナ・ゴールドソン(カリフォルニア州・サンノゼ)

8.秦汪喇(ミシガン州・デトロイト)

9.橋本英之(ユタ州・プロボ)

10.ゲイリー・ファーガスト(アラスカ州・アンカレッジ)

11.ボブ・シャークス(ケンタッキー州・レキシントン)

12.ジョージ・H・サンダース(ニューハンプシャー州・マンチェスター)

13.アン・F・シルバートーク(ネブラスカ州・オマハ)

14.フェルディナンド・シーブック(軽傷:ミネソタ州・ミネアポリス)

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