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オイディプスの鬱屈  作者: みずっち
3/7

第3話:召集

少し短いけどキリが良いので投稿

「またてめぇと一緒になるとはな」

「僕もビックリしたよ、それにロンダークさんを殴って来たって…」

「あぁ、腑抜けたツラしてたからな。てめえの方こそ、シェリアと仲良くやってるみてえだな」

「あぁまあ、お陰様で」

<武闘家>と<施療神官>の二人が雑談を交わしながら酒場に入って来た。

「おっ!こっちこっち!」

二人を見つけた夜櫻が手を振った。

モノノフ23号は微笑みながら、ヨサクは相変わらずしかめっ面で、夜櫻達の陣取るテーブルに歩み寄る。

「遠路はるばるありがとねぃ」

「大変だったぜ、小隊長どのの文句を振り切るのは」

「僕はシェリアに泣かれました…」

「いやぁごめんごめん、急に人手が必要になってさぁ」

手をひらひらさせながら謝る夜櫻を横目に、フェイディットが二人のコップに水を注いだ。

夜櫻からそれぞれに連絡が有ったのは三日ほど前の事だ。

ヨサクには桜童子を通して、モノノフ23号には<竜戦士団>を介して。


ヨサクは眉間を揉みながら少し思い出した。

『はぁ!?エジプト!?バカなの!?あんたバカなの!!?』

事後報告で念話を掛けたが、そこまで連呼しなくても良いだろう。

相手が小手鞠だっただけに、それが口癖なのは知っているから根気良く聞けたが、そうじゃ無かったらブチ切れていたかも知れない。

実際、途中で念話を切った。

モノノフ23号も、シェリアに泣きつかれた所を思い出したのか、苦笑いを浮かべていた。

『死にに行くのですか!?何故なのですか!?』

正直、女性の扱いには疎いのだ。

夜櫻の名前を出したら、心底安堵した表情で沈黙したのは、傍から見ると滑稽な話だろうか。

因みに、二人ともここまで飛んで来た方法は夜櫻のアイテムである。


土方歳三と三人で挨拶を交わした後、モノノフ23号が口火を切った。

「でも何で僕達なんですか?夜櫻さんなら現地にも知り合いとか顔広いと思いますが…」

「んな事も分かんねえのか?相変わらずトロいヤツだな」

「えっ!?」

ヨサクに突っ込まれ、モノノフ23号は訳も分からず目を白黒させた。

「俺達は不和の王とやり合っただろ?」

モノノフ23号はハッとした。つまり相手は典災だ。

一度戦った事が有る自分達なら、何も知らない者達よりは連携と対処がし易いと言う事か。

しかも人手が必要という事は、その典災はソロやパーティランクでは無い。

「まだ調査段階だけど、多分間違いない。レイドランクだよ…だから、こっちの知り合いだけじゃ無くて、君たちも呼んだんだ」

「レイドランクだっつー根拠は?」

十五人の冒険者が、たった一人にPKを仕掛けて返り討ちにされた。それも正面から堂々と。

質問したヨサクに、土方歳三が返答し、夜櫻が補足する。

「しかもね、時々虹色の光がその相手から立ち昇ってたらしいんだ」

その度にHP・MPが回復し、技の威力や回転数が上がったと言う。

「それはまさか…」

モノノフ23号には思い当たる節が有るらしい。目を見開いた彼に対し、夜櫻は静かに頷いた。

「うん…共感子ってヤツだよ、きっと…」

記憶を代償に力を得る…言葉だけでは悪魔の取引の様だが、実際はほんのちょっとした物忘れである。

何気なく食べたお菓子の味とか、流し見したTV番組のタイトルとか、その程度で絶大な力を得る事が出来る。

何せ、同じぐらいの記憶の欠片で、一度死んだ肉体を同レベルで復活させられるのだ。変換効率が高すぎる。

「モノノフ?おめぇ…」

「あ、居た!夜櫻さんだ!」

ヨサクが怪訝そうに何か言いかけたのを、誰かの声が遮った。

「お~、こっちこっち~!」

夜櫻が声のした方に手を振った。

店の入り口に<放蕩者の記録>のメンバーが数人立っている。

「A児君が見つかったって本当ですか!?」

神祇官の少女は夜櫻達に早足で歩み寄り、コップが倒れそうな勢いでテーブルを両手で叩いた。

「う、うん…まだ決まった訳じゃ無いけど…」

まるで胸座を掴みそうな剣幕で、夜櫻もタジタジの様だ。

「取り敢えず落ち着け、はみん」

傍に居た<妖術師>の少年が少女の肩を叩く。

「…ゴメンナサイ…」

はみんと呼ばれた神祇官の少女は、少し冷静になったのか恐縮して椅子に座った。


直後、ガラスが割れる音が店内に響いた。

「あっ、も、申し訳有りません!」

ウェイトレスの少女がコップを落としたらしい。

ポニーテールに束ねた翡翠色の髪と碧色を湛えた目が忙しなく踊る。

「おーい何やってんだよ…」

「なんだ?」

「気を付けろよ」

周囲の者達が視線を向けるが、直ぐに目を逸らした。

片付けは客のやる事では無い。

「サリーヤちゃん、大丈夫?」

「あ、はい…」

先輩ウェイトレスがやってきて片付けを手伝う。

その最中、サリーヤと呼ばれた大地人の少女が神祇官の少女をちらりと見る。

次の瞬間、一緒に居たピンク色の女剣士と目が合った気がして、サリーヤは慌てて目を逸らした。

心臓が高鳴る。サリーヤは極力そっちを見ない様にした。

A児と言う名前を聞いて手元が狂った上に、その名前を叫んだ少女が気になって視線を向けたが、失敗だったか。

睨んだと思われると、何を言われるか分からないのだ。

いや、言われるだけならまだ良い方かも知れない。

冒険者は荒くれ者が多い。難癖を付けられて乱暴な事をされたら堪ったものではない。

噂では極東の島国(ヤマト)の冒険者は違うらしいが、それも本当かどうかは分からない。所詮噂だ。

そもそも自分には他人のステータスを読む能力は無いので、相手の出身地も分からない。

結果として、最低限の関わりしか選択肢は無いのだ。

サリーヤは気を取り直して片付けを続けた。



 ◇ ◆ ◇



「ほう、撤退か」

報告を受けた覇王丸が目を細めた。

怒りとも好奇心ともつかぬ顔で、跪く部下達を見下ろす。

アブ・シンベル神殿を模したダンジョンの偵察に赴いたチームが、予定よりかなり早く帰って来たので、話を聞いていたのだ。

「たった一人でお前達を斥けたのか」

「はい」

チームリーダーの男が頷いた。睨まれている所為か、顔色が悪い。

新種(ジーニアス)でした」

「フン、そうか」

覇王丸は部下の言葉に事も無げに言い放った。

<暗黒覇王丸>では、一般兵でさえ<黒剣>や<DDD>に引けを取らないと言う自負が有る。

実際その様に訓練を積んでいるし、今回の偵察隊もそのレベルに達していた。

普通の冒険者が相手なら、たった一人に後れを取る事は無い筈だ。

普通ならば。

「レイドランクか」

「はい、間違い有りません」

メンバーの一人が頷いた。

相手のステータスが時々点滅していたので観察してみると二重になっていたのだ。

ハーフレイドランクだったので倒せるかと思ったが、まるでレイドランクの強さと冒険者の知恵を同時に相手にしている様で苦戦し、撤退に切り替えたと言う訳である。

「状況を鑑みるに、取り付いているようだな」

「はい」

恐らく、共生関係、或いは共依存の関係だろうか。

覇王丸の目から興味の色が消え失せ、代わりに退屈と侮蔑の光が浮上した。

長年の付き合いが有る側近達には、その変化が手に取るように分かった。

一〇人の冒険者集団をたった一人で斥けたと聞いて胸が躍ったが、蓋を開けてみれば他人頼りもいい所だ。

久しぶりに骨の有るヤツを見つけたと思ったのに。

「陛下」

「ふんっ」

意地を張る様にそっぽを向いた覇王丸に対し、窘めた幹部達は苦笑いを浮かべた。

「人数は如何致しますか?」

「最低四八人で良いだろう」

覇王丸が部下の質問に投げやりに答える。

本来のボスがフルレイド、新種と冒険者のペアが強めに考えてフルレイドと言う計算である。

「明日は夜櫻に呼ばれているから、その後だ。全員準備は怠るなよ」

「「サー!イエッサー!」」

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