かげろう
「ねぇ、カゲロウって知ってる?」
「陽炎?大気が揺らめく現象の?」
「違う。虫のほうのよ」
「ああ、そっちね。もちろん知ってる。」
たしか、1㎝ぐらいの小さな虫だったはずだ。口が退化しているため数時間しか生きられない。姿も寿命も儚いのがその名の由来になっている。
「さすがね。…であなたはどう思う?」
「どうって何が?」
「カゲロウの寿命のことよ。いえ、カゲロウだけじゃないわ。短い命をどう思うかってこと。」
そうやって彼女は僕に訪ねてきた。
彼女とは三か月ほど前から付き合い始めた。どちらから告白したのか、どうやって告白した(された?)のかは全く覚えていない。そして付き合ったからといってデートしたり、毎夜メールや電話をしているわけではない。ただ、何気に二人でたわいもない会話を不定期に適当にしているだけだ。
まあ、それが楽しいのだが。
「そりゃ、悲しいと思うよ。たった数時間の命で、何ができる?何を為せる?…何もできないよ。
繁殖だけしてその生を終えるようなものだ。その子もまたすぐ死ぬのに。楽しむことも悲しむこともできない一生なんて、、、虚しいよ。」
「そう、、、あなたならそう言うと思った。
でも私はそうは思わない。短い命が悲しいなんて思わない。だって、カゲロウだろうが、人間だろうが、命そのものが無意味だもの。何か為そうが為さまいと、例え歴史的な発明をしても偉大な哲学者になっても、それはそんなこと大したことではないの。生き物は生きて、必ず死ぬ。いずれすべて無に還る。生きた時間は関係ない。いえ、むしろ長いほうが退屈して、より一層つまらないわ。」
「そう、、、かな?僕はそうは思わないけどな。長く生きられる方が楽しいと思うけど。」
彼女の話はいつも少し難しくて理解するのに時間がかかる。しかし僕はそんな彼女が好きだ。
「ええ、知ってるわ。貴方がそういう思考の持ち主だってことは。私、貴方と話すの結構好きよ。じゃあね。」
そんないつものたわいもない会話を学校の屋上でして彼女と別れた。
その翌日、彼女は自殺した。