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恋愛短編

ふつうだけど

作者: いしい君

こんな学校あったらおもしろいよね。

俺の名前は有岡 七海(ありおか ななみ)。普通という言葉が一番似合う男である。





 身長181cm、容姿は特にこれといった特徴みたいなのもなく中の中、強いて言えばいつも変な方向にはねてる癖毛か。運動は帰宅部だったのでこれというのはやってないけど体力検査みたいなのではABCDEのBだったから、まぁ中の上辺り、勉強も210人中95位ぐらいである。.....うん、身長がちょっと高い以外は普通。苦手なものは特にないが、得意なものも特にない。所謂、普通。



 に対して、俺が通う学校『未来学園高等学校』は、とても特殊である。



 自由な校風と盛んな部活動が売りって言うのは、まぁ普通として、問題はそこにいる人だ。

 生徒、先生関わらず、顔面偏差値が異様に高いということだ。

 特に、この学校の生徒会の奴らと風紀委員の顔面偏差値はカンストしている。先生も普通なら中年のおじさんばかりなのに若い先生も多く、渋い系のおじさん、美人の先生が当たり前である。


 まあそんなわけで、二次元のようなこの学校、至る所で乙女ゲーだか、ギャルゲーだかそんな感じなことが起きている。

 俺は俺で、そこそこ迷惑しながらも、たまにギャルゲー(仮)で脱落してきた女子の恩恵をもらっていた。

 今では、そんな毎日を傍観しながら楽しんでたりする。






 そしてこれは、俺が本気の恋をするかしないかのお話。







    *   *   *   *







 高校二年生のある日、席替えをした。







 自分の席は、窓際の一番後ろという実に最高な席が当たった。

 隣の席の子もけっこう可愛い子だし、ラッキーだな。


 ガタガタと音がした方を見ると、前の席の奴が移動してきたところだった。


「おっ、ホモじゃんよろしく」

「ホモじゃねーわ、石井だボケ」


 顔の方を見ると、石井 空哉(いしい くうや)だった。

 こいつとは、一年時から同じクラスで席が近くなった時だけちょいちょい話してた奴だ。知り合い以上友達未満的な感じだ。

 そしてこいつ、顔のレベルは俺と同じぐらいなのだが、そうとは思えないほどにべりーべりー有名人である。


「有名だろ、乙女ゲームな生徒会(仮)に追いかけられてるってな」

「やめろ、いっとくが俺はホモじゃねー」

「ふーん。でもさ、生徒会の奴らは女子以外全員ホモなのな」

「......知るか」

「実際に俺、会計に追っかけられてんの見たしなー」

「.....」


 俺はジト目で見てくる石井をよそに、俺はそんな石井君の外見をしっかりと観察してみた。


 身長はけっこう小さめで165cmぐらいか? 顔は俺と同じで特徴のない普通な顔で少し童顔、黒縁のメガネかけてる。髪は黒髪のショートでところどころはねてる。


 うん、普通。


「普通だよなー、俺もお前も。なんでお前なんかねー」

「......知らねぇ-よ」

「まあ、ちっこいし、童顔だからなー、お前」

「うっせえぞ、こら」

「ははっ」


 ここで始業のベルが鳴り、話を切り上げた。。





    *   *   *   *





 俺は部活には入っていない。

 だから今日、この教室に遅くまで残っていたのは、たんなる偶然だ。

 その日偶然、友達の祐介が部活でぶっ倒れて保健室で介抱していた。

 外は薄暗く、夕焼けで空が真っ赤になっていた。

 あー帰んの遅くなってしまったなあー。


 荷物を持って、教室を出ようとしたときだった。




「お前っ、いい加減にしろって!」

「いい加減にするのはお前だ。いつになったら、俺に堕ちてくるんだ(そら)

「お前になんかに落ちてたまるか! 離せっ」

「おいっ」


 すぐそこの曲がり角から、声が聞こえてきた。

 ここからは死角になっていて見えないが、声は石井と多分、生徒会長だ。少し聞き覚えがある。


 二つの走る音が聞こえてくる。

 前、会計に追っかけられてるときは遠くて分かんなかったけど、声が、切羽詰まってる。

 俺はこっちに向かってくる足音を聞きながらそう、思った。


 気がつけば、手が出てた。


「うわっ」


 俺は石井を教室へ引っ張りこんだ。


「ん、そこの男子生徒」

「なんですか?」

「ここを小柄な男子が通らなかったか?」

「あー、上、階段上って行きましたよ-」

「そうか、ありがとう。.......フッ、上に行くということは、やはり俺に捕まえてほしいのだな」


 生徒会長は、気持ち悪い言葉を呟いて去って行った。


 俺は教室へ入り、石井の近くに駆け寄った。

 けっこう引っ張ったから、遠くまで飛んでしまったようで奥の方で転んでいた。

 すげー軽いんだもんさー。


「すまん、いきなり引っ張って。痛くなかったか?」

「いや......すげー助かった。ありがとう、有岡」


 俺達はとりあえず、教壇の段差のところに座った。


「.......さっきの生徒会長、だよな?」

「うん」

「いつも、ああなのか?」

「うん」

「やはり俺に捕まえて欲しいのか、とか言ってたぞ」

「うん」

「どこのBLゲーだってな」

「うん」

「.....今日、朝あんな風に言ってごめんな。軽率だったわ」

「.......ううん、別に」


 慣れてるし、と小さく呟く石井に俺は更に申し訳なく思った。

 俺はふと、石井の手首が目に入った。


「っ! お前っ、手首!」


 石井の手首には手の痕が真っ赤になって付いていた。

 多分、さっきの会長につけられた痕だろう。このままじゃきっと痣になる。


「だ、大丈夫だって」

「どー見ても大丈夫じゃねーだろ。ちょっと待ってろ、確か......」


 俺は一旦自分の鞄のもとへ行き、あるものを取り出した。


「えっ、これ....」

「冷えピタ。ちょっと保健室から拝借したとこだったんだよ。まあこれに冷えピタ効くのか分かんないけど、湿布のがよかったか?」

「えっ、なんで」

「今、弟が熱出しててな」


 実はさっき、祐介を介抱しているときどうせならっと思って、冷えピタを二、三枚拝借したとこだったのだ。タイミング良かったな。

 とりあえず、石井には有無を言わせず、手首に冷えピタを巻き付けた。


「......ありがと」

「おうよ」

「.....冷てぇ....」

「......そうだ、ついでと言っちゃあなんだけどさ、俺に相談してみねぇ? すっきりするかもよ?」


 吐き出すと楽だぜ、と曖昧に俺は笑う。

 正直出来心だった。自分の軽率な言葉への罪悪感もそうだが、今こいつがどのような状況にいて、どのようなことを考えているのかというほぼ単純な好奇心から来るものだった。

 そりゃあ、誰だって気になるさ。いくら小っさくて、童顔だとしても男。しかも平凡顔のメガネ。こんな奴が、学園中のトップの中のトップで顔面偏差値カンストの生徒会役員ほぼ全てを虜にしてるんだから。気にならない方がおかしい。


 俺がそんなことを考えてると、石井がポツリと一言呟いた。


「....えっと、じゃあ、ちょっとだけ、弱音、聞いてくれないか?」


 俺は話してくれるのかと少し驚きつつ、コクンと頷いた。


「......俺、ちょっとしたことで生徒会の役員と知り合ったんだ。最初は普通だったんだ。普通の友人みたいな関係だった。俺は少しみんなの顔面偏差値に引いてたけどな。まあ、別に良かったんだ、楽しかったし。でも、あいつら、俺の秘密を知ったとたん態度が急変したんだよ。なりふりかまわず俺を口説いてきて、触ってきて。最初は困惑しただけだった。いきなり好意を伝えられて」


 石井が一度、大きく息を吸った。


「..でも、違ったんだ。みんなが一斉に同じ時に俺を好きになるなんて、普通ないだろう?おかしいと思ったんだ。そして、あるとき、聞いちゃったんだよ、俺をゲームの標的にしてるって。俺たちの誰があいつを一番に落とせるかって、俺たちのこと騙してんたんだからそれぐらいのゲームしたっていいだろって土屋が言ってた」

「.....土屋って、あの会計か」

「...おう。そしてそこで俺は目の前が真っ暗になったんだ。確かに騙してたのは俺が悪かったけど、事情あってのことだし、友達だと思ってたのに一気に裏切られて、すごく悲しくなったんだ。それから俺は、あいつらとちゃんと話さなくちゃいけないのに、今もまだ逃げ続けてるんだ」

「..........」


 俺は、言葉が出てこなかった。

 何も、言えなかった。

 俺は、日々をただただ平凡に平和に暮らしてるだけの、ただの平凡な男子高校生だ。


「......少しは、楽になれたか」


 俺にはこんなことしか言えなかった。

 気の利いたセリフひとつ言えないのか、俺は。


「.....うん、いきなりこんな重い話してすまんな」

「いや、俺が言えっていったんだから、別に良いよ。お前こそよく俺みたいのに話したな」

「なんかもう、多分俺、誰かに話して楽になりたかったんだと、思う」


石井は無理に笑顔を作ろうとして、変な顔になっている。


「そうか」


そして俺は、やはり返す言葉が見つからなかった。


「......よしっ、今日は話聞いてくれてありがとな! じゃあ俺帰るからまたなっ!」


石井はそう言うとスクっと急に立ち上がって、ふらつく。


「...っ危ねっ!」


 俺が咄嗟に立ち上がり受け止める。

 うわっ、何こいつほんとに軽いな。


「体調悪そうだなとは思ってたけど、お前寝てねーのか。くま酷いぞ」

「......っ」


 薄暗くて今までよく見えなかったが、目の下のくまが凄いことになってる。

 寝れねーほど悩んでんのか.....。

 ふと、石井が硬直していることに気付く。石井の目を覗くとと、これでもかってくらい目が見開かれてた。こころなしか頬も紅潮してる。



「えっと、ごめん、じゃあな!」



 石井は俺を突き飛ばして、フラフラした足取りで廊下を走っていった。

 俺はいきなりの事に驚き、勢い余って尻餅をついた。

 

 .....何なんだよ。

 急に突き飛ばすわ。謝るわ。くそ、さっきの顔がなんだか妙に脳裏にちらつく。




「........なんだよ、あいつやっぱりホモなんじゃねーの」




 俺は何故かいつもより多い心拍数を誤魔化すように、早口でそう呟いた。





     *   *   *   *





 俺はもやもやとした気持ちで教室を出た。

 いろんな情報が入りすぎて混乱もしてる。


 生徒会に追っかけられてたのは、石井のある秘密がばれてから。

 会計はそれに怒って、変な恋愛ゲームもどきをやろうと言い出す。

 石井はそのことについて知り、怖くて向き合わずに逃げてる......と。




 いや全然分からん。




 不意に近くから物音がした。

 バクバクとなる心臓を押さえつけながら、また教室に隠れ様子を見る。

 会長が戻ってきたようだ。やべー...。


「はっ、はぁ、どこだ、空。上にいるんじゃ、ないのかよっ。くっそ」



 俺は息を呑んだ。



その後、会長は軽く息を整えた後、走ってどこかへ行ってしまった。

 .....それよりも、だ。

 何かおかしい。

 会長のアイツを呼ぶ声は、とてもゲームで攻略する、遊んでいるかんじではなかった。

 息は切れるほど全力で走ってるし、何故空と呼んでいるかは知らないが、その名前を呼ぶ時の声がとても切なく聞こえた。


 どこかで間違っている?


 石井は会長、副会長、会計、書記、会計監査の五人に追っかけられている。

 石井は会計が言ってたと言っていたが、会計だけなのか?


 それとも....



 .......なんだろう、なんで俺こんなに一生懸命考えてんだ?

 確かに今日の出来事は俺にしては稀な非日常な事だったが、俺は石井とはまあまあ仲がいいクラスメイトてくらいだし、俺が首突っ込んでいい程喋った訳でもない。




 .......今日は、とりあえず帰って弟の看病するか。






     *   *   *   *






 分かってしまった。





 多分、これは分かっちゃダメなことだったんだろうけど。


 これが、これが石井達の仲を混乱させたものだったんだろう。

 かくいう俺も、目の前の状況に今とても混乱している。






 俺は今、校舎の裏の花壇周辺ににきている。

 ここは学校でも有名な告白スポットである。今度友人が告白するそうで、どんなとこか見ておこうかとなんとなく散歩していたら、視界の隅に人影が写った。

 その人影はふらふらと走っていて、その走り方に見覚えがあると近づこうとしたら、突然、その人影が倒れた。


 俺は思わずその人影に近寄ると、ふと違和感を覚える。

 なんか違う?



 顔を覗き込むと、俺は驚きで体が固まる。


「石井っ!?」


 確かにそれは石井だった。

 だけどその恰好が、一瞬誰だか分からないくらいにひどいことになっていた。


 シャツのボタンはとれ、前ははだけていて倒れたせいで土だらけになっていた。

 ウィッグらしきものがはずれ、その下から少し長めの黒髪が出ていた。

 ズボンも土で汚れ、そしてはだしだ。顔は涙でぐちゃぐちゃ。


 そして、なにより、


「...さらし...?」


 そのはだけた胸元からは、きつく巻いたさらしがあった。


「...おん..な...なのか?...」


 そう口に出したら、もう女子にしか見えなくなってしまった。

 ウィッグから覗く長い黒髪、頼りなく丸っこい体、胸元のさらし。


 俺は一瞬息を呑んでから、深く息を吐いた。

 とりあえず、保健室だ。


「.....やめっ...」


 抱きかかえようとすると、手ではたかれ拒絶された。


「石井、起きたか。俺だ、有岡だ分かるか?」

「...あり....おか?...なん」


 石井はその瞬間目を大きく見開いた。


「ち、違うんだ!違うんだ有岡!...これは」


 石井はずりっと後ろに下がると、バッと前を隠す。

 涙でぐちゃぐちゃになった顔をさらにゆがませて、叫ぶ。


 そんな石井を見て、よくわからない感情が上がってくる。


「石井、落ち着け」



バフッ



 石井を俺の腕の中へと引っ張り、背中をとんとんと叩く。


「大丈夫だから」

「う、あり、おか」

「大丈夫、何もしない」

「ふっ、うっ、うぇ...」

「大丈夫」

「ん、ふぅ....うん」


 石井は何かが切れたように俺の胸に痛いくらいにしがみついて、なるべく声を我慢するように、だけど涙はとめどなく流れてきて俺の制服を濡らす。


「石井、落ち着いたか?」

「う、ん」

「....今の状況は話せそうか? 無理だったらいいぞ」

「ふう、うん、大丈夫、話す」


 石井は落ち着いたのか、ぽつぽつと話し始めた。


「えっと、藤谷に、今後のことで話が、あるからって保健室の前で言われて、中で話そうってなって、話してたら、口論になって、ベットに押し倒されて、シャツガッってやられて、暴れて、なんとか逃げて、人気のないここに.....」




 俺の中で何かがぶちっと引きちぎられた。




「なぁ、石井」

「....有岡?」


 俺の名を呼ぶその声は震えていて、目からはまた涙が零れていた。



「お前のこと、守らせてくれ」

「.......................へ?」


 俺は石井の返事も聞かず、ひょいと石井を抱き上げた。

 .......やっぱ、軽いな。


「ちょ、ありおか?」

「ちょっと黙ってろ」


 俺は自分のブレザーをバサッとかぶせると、俺は石井に有無を言わさず歩き出した。

 石井は、泥だらけな自分で俺を汚すのは悪いと思ったのか、出来るだけ俺に負担をかけないように汚さないように俺にしがみついてくる。



 そんな、些細なことにでも胸の奥が熱くなるのは、この感情が、友へと向けるものじゃないからであろう。


 女だと分かったからっていうのが関係ないとは言わない。きっと、石井が男だったらこの気持ちには気付くことは出来なかったであろう。

 だけど、俺はこんな、誰かに助けを求めず一人で全部背負い込もうとしてるこいつを、こんな時まで相手のことを考えてるこいつを。


 愛おしいと思うのは、おかしいだろうか。



「!有岡! 待てっ!そっちは、行かないでくりぇ!」

「舌噛むぞ」

「だって、そっちは、藤谷が!」

「だから行くんだよ」

「.....え?」

「お前らはちゃんと話し合わなきゃいけない」


 石井がビクッと体を揺らす。


「...お前はちゃんと話そうとしたんだろうな。だから、危ないと分かっていながらも藤谷についていった。だけど、これは多分、第三者がいた方がいいんだ。だから、俺も行く。そしてもう一回話し合え。危なくなったら俺が止めに入る」

「えっ!そ、そんな、有岡を巻き込むわけには、俺はそんなつもりで話したんじゃっ」

「分かってる。これは俺のわがままだ。あと藤谷はぜってー一発殴る」

「ええ!!」


 そうこう話しているうちに、保健室の近くに来た。

 石井は保健室に近づくほど、震えていた。無理もないよな、いくら未遂とはいえ襲われかけたんだから。そんな石井の様子に少し申し訳なさを感じた。


 それにしても、保健室の中が騒がしい。とても一人とは思えない。

 まあ、関係ない。


ガラッ


 俺は足で保健室の戸を開けた。

 そこには何故か生徒会役員(男)が勢ぞろいしていた。うっわ、まぶしっ。


「「「「「空っ!!!!」」」」」


 三者三様の顔をして、今なら分かるが多分本名であろうその名を呼ぶ。


 この学園のトップの、前に気持ち悪い言葉を並べていた生徒会長 須永。

 さっき石井と口論をしていたであろう副会長 藤谷。

 今回の原因になった会計 土屋。

 ほとんど言葉を発しないことで有名な書記 樋川。

 小悪魔で女子力が高いらしい庶務 弥田。


 どれもこれも顔面偏差値カンスト。

 そして、どれもこれも俺にとっては最悪でしかない奴ら。


 別にいいだろ?

 好きな奴をゲームの的にしてるやつらなんて、好きになれるはずもない。



「お前誰だ」


 会長がこちらを見て低く呟く。


「空の事、何抱っことかしてんの~?離してよ」


 誰もがにやけるであろう小悪魔のあざとい顔でこちらを睨んでくる庶務。


「.......やめて」


 俺の腕を引っ張ろうとしてくる無口書記。


「....見たことない顔ですねぇ」


 俺を上から下までじろりと見てくる副会長野郎。


「ねえ、空に手ェ出したらどうなるか、知ってるでしょ?」


 俺にへらへらと脅しをかけてくる会計。


 会計の言ったことだが、前に女子で石井に手を出そうとした奴がいたらしい。

 そいつがどうなったかは知られてないが、もはや石井に手を出してはいけないのがこの学校の暗黙の了解となっていた。

 だが、そんなことどうでもいい。


「こいつを恋愛ゲームもどきの標的にしているお前らに言われたくない」


 俺は飄々とそう答えた。

 俺はこのカンスト野郎に顔では絶対に勝てないが、唯一身長では負けていない。

 だから、真正面からこいつらを見据える。


「なっ」


 そして、こいつらは見るからに動揺している。


「なあ、こいつが女だって隠しててお前らとつるんだだけでゲームの的にしたんだろ土屋君」

「いやっ、違っ」

「つーか、さっきこいつの事襲おうとしたのによくここに居れますね藤谷さん」

「.......っ」

「ゲームのためによくあそこまで言えますよね、俺に堕ちてこいでしたっけ会長さん」

「お前....あの時の男子生徒か」

「....そういや石井に手を出そうとしてた女子、あんたが転校させたんだっけ弥田君」

「なんでそれっ」

「俺の友達の大事な幼馴染なんだとよ」


 そして、言葉で追い詰めていくとカンスト野郎たちは一歩ずつ下がる。

 最後に俺の腕をつかんでる無口君に話しかけた。


「それ知ってて見て見ぬふりするあんたもどうなんだろうね、樋川君」


 無口君はバッと手を離す。


「でもまぁ、勘違いしないでくれ。別に言いふらしたりはしない。俺はただ、話し合いをさせるためにきただけだ、石井とな。誰かいないとまた藤谷さんみたいなことが起きるかもしれないからな」


 俺は石井の顔を見やる。

 すると、顔を真っ赤にさせながら呆然とした顔をしていた。

 え?


「....そろそろおろしてくれ、有岡」

「ああ」


 石井が身なりを整えてから、すっと腕からおろす。

 石井は深く息を吸って、生徒会の奴らを見る。


「俺、いつかはちゃんと話あわなきゃって思ってた。だけど突然ばれて、でもみんな受け入れてくれて、嬉しかった。この人たちの友達やめなくていいんだなって。でもそれから、皆が好意をいっぱい伝えてきて、戸惑ったりもしたけど、嫌われてはいないんだなってちょっと安心もしてた」

「空....」

「だけどさあ、さすがにゲームの的にするのはひどくねえか!!」


 石井は下を向きながら、叫ぶ。


「そりゃ俺だって女だってこと黙ってたのは悪かったけど、事情があったからだし、いくら俺の事憎かったて、誰が最初に落とせるかのゲームするとか、俺は別にそんなこと目的でお前らと友達やってた訳じゃねぇし!!それなのに、壁ドンされるわ襲われかけるわなんなんだよ!!」

「空、違うんだ」

「何だよ土屋」

「俺、最初女だって知ったとき裏切られたって思った。だからみんなにそんなこといったんだ。でも、だんだん自分の事思い返すと、まだ知らなかった頃から空の事好きだったって気付いて」

「はっ?」

「まぁ、そうだろうな」

「有岡?」

「好きな奴でもないのにあんな汗だくになって探し回れないよなぁ、会長さん」

「.....っ」

「へっ?」


 石井が間抜けな顔をしたところで、カンスト野郎たちの方を向く。


「好きでもないやつに、そんな顔しないだろ土屋君、てか皆さん」

「えっ、ええ、ちょっ」

「空、こいつが言ってる通りだよ、僕、空の事ちゃんと好きだよ」

「....その通りだ、本当にすまなかった。だから空、俺たちに弁明のチャンスをくれ」

「だが断る」

「なんで君が断るの、いい流れだったのに」

「いやまず、当の本人は混乱しすぎて理解しきれてないし」


 頭からぷしゅーと音が出そうなくらい石井を見せる。


「それにお・れ・が、お前らを信用できない、する気もない」

「「「「「.....はっ!?」」」」」

「こんなボロボロの姿みたらねぇー特に藤谷さん」

「!」


「次、変な気起こしたら、その綺麗な顔面、跡形もなくしますよ」


 俺はニコリと笑いかける。


「つーわけで、皆さんさよなら」


 俺は、まだ混乱している石井をまた持ち上げて、呆然としているカンスト野郎を横目に保健室から飛び出した。





「俺のこと本気にしたんだから、覚悟しろよな」






* * * *






まあ、この後俺らと生徒会の追いかけっこが始まるけど、それはまた、別のお話。





お読みくださりありがとうございました。(感謝)(涙)

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