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とある探偵のいる風景

作者: 梟の尻尾

 肌寒くなってきた朝の空気から身を守るために手をポケットへと避難させた。

 すんなりと入った左手に比べて右手の入りが悪い。

 そういえば家を出る前にポストから自分宛ての手紙を持ってきていたんだった。


     挑戦状

 探偵として有名な君にこの事件の犯人を当てて欲しい。

 あるマンションの一室で一人の女性が殺害された。女性の名前は新垣沙耶あらがきさや。アパートは彼女が借りていたものだ。

 発見したのは会社の同僚の宮崎和子みやざきわこと大家さん。昼になっても出勤してこなかい彼女を心配して訪ねてきたところ発見した。

 死因は腹部を刺されたことによる出血死。

 容疑者は一名。

 遺体発見時同じ部屋にいた男性。

 名前を堂本司どうもとつかさといい、殺された新垣の元彼氏だ。

 堂本が部屋に残っていた理由は、タイミング悪く新垣の同僚が現れたから。

 ただ、彼は容疑を否認している。

 全く身に覚えがなく昨日からの記憶があまりない。気が付いたら彼女が目の前で死んでいたと供述しているとのこと。

 もしも彼が犯人でなければ、誰なのか?

 駆けつけた同僚の宮崎か。鍵を自由に開けられる大家か。それともやはり堂本が犯人なのか。

 参考までに新垣を含む四名の写真と現場の写真を同封しておいた。

 君の推理で解決出来ることを願う


 学校に向う道、ポストに放り込まれていた手紙の内容を読み聞かせながら歩いていた。

 隣を歩く女性は、しきりに頷いてみせたり考え込んだりしながら急がしそうにしている。

蒼空(そら)にはもう犯人わかってんの?」

「立場的に下の名前で呼ぶのはどうかと俺は思うんだけどな?神谷先生」

「あんたと私の仲なんだから気にすんなっていつも言ってるでしょ」

 肩を加減なしに張り叩き笑顔を見せる女性は、神谷藍那(かみやあいな)という俺より七つ上の幼馴染だ。

 今は高校の教師をしていて面倒なことに俺のクラスの担任なんかをしている。

「出席とる時ニヤニヤしながら鳴海蒼空くんって言うのだけはやめてくれ」

「くれ・・?」

「・・・・やめてください」

「考えておくわ」

 ハッキリ言ってかなりタチが悪い。

 しかも人の仕事にいつも首を突っ込んでくる。

 それで何度か助けられてことがあるのも事実なのだが。

「それより、今回の依頼書はもう解決できたの?」

「依頼書じゃなくて挑戦状だって。今回みたいに現場に行かずに解決するのはさ」

「どう違うのか分かんないけど、ようするに今ある資料だけで解決しなきゃいけないってことでしょ?犯人は誰なのよ」

 顔を近づけてしかめっ面をして迫るが、学校の女神とまで言われるほどの美人にそんな顔をされても恐くもなんともない。

 それどころか、見慣れている俺でも心臓の鼓動が速くなるくらいだ。

 そんな藍那は俗にいう推理オタクというやつだ。

 そのためなら体さえ張るようなちょっと危険なほどの。

「順を追って話してやるから、たまには藍那が自分で解いてみろよ」

「え~、面倒じゃん」

「お前は推理オタク失格だな」

 それでもしばらく口を尖らせていたが、いい加減相手をするのも疲れたし、強制的に推理させることを決めた。


 殺された新垣の写真は、慣れてないものからすれば目を逸らしてしまいたくなるような生々しいものだった。

腹部の刺し傷からは血が滲み、傷口周辺の服を紅く染めている。

彼女の表情には既に生きる者のもつ色はなく、彼女の意志がそこにないことを写しだしている。

 見る限りでは争った外傷はない。刺し傷を除けば綺麗な遺体だと思えた。

 長く黒い髪をマーブルカラーのリボンで束ねているのが印象に残る。

「長い髪なら私と一緒だね。でも、束ねるならゴムの方が楽なのにね」

「そうだな。まぁその着眼点は良いと思うが」

 藍那の気付いた点はひとまず置いとくとして、彼女が刺されたことによる出血死というのは間違いなさそうだ。

 ただ、そうだとすると疑問が残るのだが。

 彼女の写真。刺されて出血したことが死因にしては、出血量が少ない。

 刺し傷周辺だけを染める程度の出血じゃ人は簡単には死なない。

 死因が刺殺なら話は別だが、今回は傷の深さによる死ではないとのことだった。

「わかった!この人はどこか別の場所で殺害された後に部屋まで運ばれたのよ」

「はい、残念」

「なんでよ?」

「藍那も確かマンションに住んでるんだよな?だったら分かると思うけど、今のマンションって入り口がオートロックになってるだろ。そこには防犯カメラがあるんじゃないか?女性が一人で住むならなおさらだ」

「そう言えばうちのマンションにもあったわね。でも、それが何だって言うの?」

「女性を抱えながら入ってきたら怪しいだろ。警察だってカメラ確認して今頃犯人は捕まってるだろうさ」

 そう。つまり新垣殺害現場は他の場所ではない。

 それなのに何故出血量が少ないのか。

 それが二つ目のポイント。

 さて、少し視点を変えてみるのも事件解決にはかかせない。

 送られてきた写真には部屋に残っていたという堂本のものもあったのだが、どうやら事件直後の写真らしく服装が随分な様になっていた。

 乱れているというよりは、汚れていると言ったほうがいいだろう。

 それに手首には(あざ)の様なものが見える。

「この人を見てどう思う?」

「この人って、確か堂本さんだったわね。彼女の死体を見て逃げ出そうとしたけど逃げ出せなかったっていう。この服についてるのって・・・血よね。それに手首の痣ってことは、犯人は間違いなくこの人ね」

「理由は?」

「そんなの単純なことよ。彼女を刺した時の返り血によって着ていたセーターは血まみれになった。そして、包丁を握っていた手を彼女に握られて手首に痣が残った。死ぬ間際の最後の抵抗なんだから女の力でも痣くらいは残るでしょ」

 今回はかなり自信があるらしく誇らしげに胸を張って腕なんか組んでいる。

「お前は漫画やドラマの見すぎだな。刺す箇所にもよるけど、そうそう血なんか噴水みたいに噴き出すものじゃない。ましてや服の上からじゃたかがしれている」

「マジで?でも、手首の方は良い線いってるでしょ」

「刺された直後なら体がショック状態になるから萎縮することで手首に痣を残す可能性はないとは言えない。でも、今回の場合は違う。

痣をよく見てみろって」

 写真がよく見えるように藍那の顔の前に突き出す。

 じっと見つめる藍那・・・長い長すぎる。

 どうやら時間がかかるようだ。

 大事なのは痣の形。

 堂本の手首の痣は線状に付いている。

 つまり握られて付いたのではなく、何かを巻かれて付いたもの。

 言い方を変えると、縛られていた可能性もあるということだ。

「彼女の方は殺されて元カレは縛られただけで生かされたってこと?目の前で彼女が無残にも殺される様を見させられたんだとすると、彼がその場から逃げ出そうとするのも無理はないのかも」

 一人ブツブツと呟きながら考え込んでいる。

 どうやら推理するのに必要な集中状態に入ってきたようだ。

 考え方が合っている間違っているは二の次でいい。まずは色々と考えることが大切なことだから。

 特に藍那の場合は、すぐに人に頼るところがあるから少しはマシになったのかもしれない。

「で、結局犯人は誰なのよ」

「前言撤回。やっぱりお前はマシになんかならないみたいだな」

「何よそれ。これでも私は蒼空の担任なんだからね」

「俺と藍那の関係なんだから気にするなって言ったのは誰だったっけ?」

「うぅ、それはそれ、これはこれよ」

「教師の言う言葉とは思えないな」

 ふてくされて頬を膨らませ教師の威厳を微塵も感じさせない藍那は放っておいて、謎の続きに戻ろう。

 さて、簡単にではあるが二人の人間の状況は説明した。

 残るは被害者の同僚の宮崎と大家だけだが、ここで先に現状について考えてみよう。

 被害者である新垣が殺されていたのは、マンションの自室。十畳ほどの広さの部屋で血を流して死んでいた。

 部屋にある物と言えば、椅子にテーブル、テレビやタンスなど一般的な家具だ。

 ただ、椅子がちょっとおかしな位置にある。

 作りや色から察するにテーブルとの組み合わせであることは間違い無い。にも関わらず、なぜかテーブルとは離れた場所に置いてある。

 ちょうど部屋の真ん中あたり。

 どう考えても自然ではない。

「部屋の真ん中ってのが怪しいわよね・・・あぁなるほどね」

「何か気が付いたのか?」

「今は言わない。あとのお楽しみよ」

 随分と自信があるようだが、本当に当たってるのか?

 などと昔ならちょっとは期待もしただろうけど、たぶん当たっていることは・・ない。

 藍那の頭が悪いとか勘が働かないとかいうわけではない。いや、それもおおいにありえるが、彼女の推理が的を射ない一番の理由は考え方が真面目すぎること。バカ正直といってもいいかもしれない。

 衝動的な犯行に対してならそういう考え方も間違いではない。

 ただ、計画的に練られた犯行の場合はそうもいかない。

 犯人だって犯行を隠そうとする。もしくは誰かに犯行をなすりつけようとしたりもする。

 今回の場合は完全に後者の犯行だ。

 つまり藍那みたいなタイプには向かない。

「推理するうえで聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「嫌だって言っても聞くんだろ?」

「うん。推理するうえで必要なことってなに?」

「身も蓋もない質問だな。一言で言うなら、常識を頭から消すこと。一つのことに対してもあらゆる可能性を考えて複数通りの答えを探し出す」

「出来る出来ないは別にして?」

「ああ。例えば手品のタネって普通に考えてたらまず分からないだろ?」

「なるほど。でも、結局手品のタネって分からないものが多いよね」

「・・・さて、今回の事件のように関わった人間が少ない場合は消去法もありだ」

「話逸らしたわね」

 いつまでも容疑者がはっきりしない状況だと埒があかない。

 そこで犯人を探す前に、犯人の可能性が一番低い人を外してみる。

「同僚の宮崎は外していいよね。厳密的には第一発見者じゃないわけだし」

「だから犯行は不可能だと?」

「時間的に考えればそうでしょ。彼女は会社に出勤してるわけだし。だいいち部屋には堂本がいたんだから、彼女に犯行は無理」

 筋は通っている。

 アリバイの裏づけをとったわけじゃないから、確実ではないが今の情報のなかでは考えられることだ。

「ただ一つだけ、確実な可能性が残っているから宮崎はまだ外せないな」

「確実な可能性?」

「藍那なら学校(うち)の教師が部屋に尋ねたらどうする?」

「そりゃ先生にもよるけど、仲の良い女性の先生なら部屋にあげるかな」

「だろ?宮崎は新垣の同僚だ。それも家を知ってるほどの」

「それがどうしたの?」

「あいかわらず鈍いな。新垣に争った形跡はなかった。それが意味する可能性は?」

「そっか、仲が良ければ安心してるから隙もできるってことね」

「まぁ基本的にはだけどな。さて、それをふまえて今とりあえず除外できる人間は?」

「いないわね」

 そうくると思った。

 それだと今の話の意味がまるまるなくなることになるだろうに。

「除外できるのは大家さんだ」

「それはないわね」

「なんでそこは自信もって言えるんだよ」

「だって大家さんなら自由に部屋を出入りできるんだよ?一番怪しいじゃん」

 やっぱりそんな理由か。

 これでさっきの会話の意味はなくなった。

「もう一度だけ言うが、新垣には争った形跡はなかった。やり方によっては可能性もいくつかあるけど、大家さんがいきなり部屋に現れたら普通警戒するだろ」

「おお!そういうことは早く言いなさいよ」

「何度も言ってるが自分で考えないと意味ないだろ。ついでに言うと、大家が自分の管理するマンションで事件を起こすことに何のメリットもない。今後の経営に響くし、お前みたいなのに疑われる可能性も高い」

「そりゃそうだわね。じゃあ、残る容疑者は二人に絞られるわけだ」

「完全には消すなよ。的を絞って操作するのは警察の仕事だ。探偵はあらゆる可能性を生かしておく」

「はいはい。で、どっち犯人?」

 なんだかんだ言って結局は俺が解いている気がするが気のせいか?

 最初から藍那に推理する意志はないのかもしれないが。

 そういえば、さっき秘密にされたことがあったな。

 あてにはならんだろうが。

「椅子の話?あれなら間違いなく当たってるって」

「だから、それを話せって言ってるんだろ」

「そんなに急かさなくってもいいでしょうに。じゃあ教えてあげるけど、あれは電球交換してたのよ」

「は?」

「ふふ~ん。自分でやったことないから気付かなかったのね。室内灯の電球を交換するには椅子に上がらないと届かないのよ」

「だから?」

「だから椅子は部屋の真ん中あたりにあったのよ」

「交換作業中に襲われたと?」

「そうよ。だから争った形跡もなかったのよ」

「電球は?」

「電球?」

「交換作業をしてたんなら必ず一つは手に電球持ってるよな。その電球が彼女の周りや部屋の写真にあったか?」

「あ・・・ない」

「だよな。あったなら最初に言ってるさ。つまりこの椅子は別の目的で使われた可能性が高い」

「うぅ。自信あったのに」

 本当にかなりの自信を持っていたのか、かなりしょげている。

 ガックリと項垂れた藍那には悪いが、彼女の推理は根本的に方向を間違えている。

 女性ならではの目線で考えれば藍那にも解ける可能性は十分あるのに。

「さっき自分で言っただろ。髪を束ねるならリボンよりゴムがいいって。不思議に思ったんなら追求して今の段階で分かっていることに当てはめてみたらいいのさ」

「いま分かってることって言われてもほとんど分からないんだけど」

「じゃあさ、リボンってのは伸びたりするんだっけ?」

「するわけないでしょ。束ねたり縛ったりするものなんだから。あれ?縛る・・・」

 ようやくそこまでたどり着いたか。

 あと一息なんだけど、ここからが問題だ。

「このリボンで堂本は縛られてたってことよね。そっか、それでリボンがマーブル模様になってるんだ。じゃあ、堂本さんも被害者?」

 普通に考えたらそうなるよな。

 犯人が意図してそれを狙ってたわけじゃないんだが、結果的にそうなっちまう。

 そうすると、自然な形での流れ的に次に考えつくのは・・・。

「新垣さんだけでなく、堂本さんも被害者で大家さんは犯人でない。だとすると、残った人が犯人。つまり!」

「違う」

 藍那が言い切る前に遮った。

 流れからして間違いなく出てくるであろう人物は誰でも予想できる。

「宮崎は犯人じゃない。それは本当の犯人も予想していなかった間違った推理だ」

「え~、でも、堂本さんが被害者なら他に犯人いないじゃん」

「彼女は偶然巻き込まれたに過ぎない。仮に宮崎が犯人だとすると、新垣を殺して堂本だけ生かしておく意味はないだろ。挙句に自分が駆けつけて堂本と会っちまったら本当に何の意味もなくなる」

「それはそうだけど。だったら、犯人は?犯人いなくなっちゃったじゃない」

 完全にパニくっている。

 この殺人事件は、犯人すら予想だにしなかった方向に推理される可能性が高い。そのぶん余計な道筋ができてしまっている。

 それが推理をややこしくしているんだ。

「最後のヒントな。縛られていた堂本の服は血まみれになっていた。そして、凶器は部屋から見つかっている。にも関わらず、堂本は縛られていたらしい」

「それだけ聞くと堂本が犯人であり被害者でもあるように思えるわ。あ、堂本が犯人なんだ。で、誰かに罪をなすりつけようとした。だから一度自分の手を縛ったリボンを新垣さんの髪に結び直したのね」

「おしい。けど、見事なほどに犯人の用意していたミスリーディングと真実がごちゃ混ぜになったもんだな」

「ミスリーディング?」

「間違った方向に推理させる犯人の仕掛けたトラップだ」

 そう言いながらズボンのポケットに入れておいた携帯電話を取り出し、アドレス帳から名前を探しコールする。

・・・・・

・・・・・

『もしもし?』

 二回目のコールの後に目的の人物が出た。

 周りからは音も声もしない。

 どうやら電話の内容がわかっているようだ。

「犯人教えとく」

『もう分かったのか。さすがだな』

「もっと早く分かってたんだけど、隣でどうしても自分で解きたいってうるさい奴がいてさ。そいつの推理聞いてたら遅くなった」

「私自分で解きたいなんて言ってないでしょ。蒼空がたまには解けって言ったんじゃん」

『なんだ、藍那先生も一緒だったのか。仲良く登校とは羨ましいことだ』

「向かう方向が一緒なだけだ」

「遠回りまでして自分で呼びに来てくれるくせに」

「生徒に急かされて出勤する先生なんて他にいないだろうけどな」

「しょうがないでしょ。朝に弱いんだから」

 電話中ということも忘れて藍那は喚いた。

 一応自分の方が年上ってことも完全に忘れているようだ。

『あ~取り込み中のところ悪いんだが、そろそろ今回の挑戦状の解答を聞かせてもらえると嬉しいんだが』

 痺れをきらした電話相手が話を進めるように促してきた。

「単刀直入にいうと犯人は・・・」

『犯人は?』

「いない」

『どういうことだ?』

「どういうこと?」

 二人が一斉に食いついてくる。

「言い方を変えると、犯人は新垣沙耶だ」

『言ってる意味が分からんが』

「堂本司を殺人犯に仕立てあげようとした自作自演の殺人事件。つまりは自殺だ」

『詳しく説明してくれないか?』

 電話の向こう側から息を飲む音が聞こえた。

「ああ。シンプルに考えれば堂本が殺害したって見えるんだけど、引っ掛かったのは手首を縛った痕。それがなければ、堂本を疑い続けた可能性もあったんだけどな」

『堂本も殺人犯に縛られていたんじゃないのか?』

「そうなるとおかしなことが出てくる。誰が縛られていた堂本を助けたのか。そして、その縛っていたものをなぜ新垣の髪に留めなおしたのか。答えは一つ。新垣が堂本を縛った後に証拠隠滅のために自分の髪を束ねたんだ。全ては堂本に罪をなすりつけるために」

『なるほど。だが、何のあめに縛ったんだ?』

「自分を堂本に刺させるため。これは推測だけど、堂本から睡眠薬が検出されたんじゃないか?」

『ああ、確かにそう聞いているが』

「やっぱりな。堂本は眠らされてる間に殺人犯にされたんだ。包丁を持たされ手をリボンで固定されて床に仰向けに寝かされた」

「何で床に寝かされたの?」

「確実に自分が死ぬためだ。高いところから堂本目掛けてダイブすれば、包丁は確実に深く刺さる」

「そのために椅子が使われたってわけね。出血量が少なく感じたのも、仰向けに寝かされていた堂本さんの服に吸収された。それが返り血に見えたってわけね」

 なるほどと言いながら握った右手を左の掌に打ちつける。

 想像すると痛々しい行為なのだが、藍那は想像なんかしていないのだろう。

 しきりに感心している様がそう確信させる。

「あとは、自分が力尽きる前に縛っておいたリボンを回収して髪を束ねれば証拠はなくなる。って彼女は思ったみたいだけど、そう上手くいくわけじゃない。かえって捜査を混乱させることにはなったみたいだけど、堂本犯人説が薄くなっちまった。皮肉なもんだ」

『なんとも後味の悪い事件になっちまったな。動機に関してはこっちで詳しく調べるとして、上には報告しておこう』

「おう。この手柄でまた出世に近づいたな。神宮警部」

『がっはっは。今度何か美味いもんでも食いに行こうな』

 それだけ言うと電話は切れた。

「警部の出世?」

「そっ。挑戦状は俺が現場に出しゃばらずに解いて警部の手柄にする。依頼書は警察からの正式な依頼で俺の手柄になるってわけ」

「なるほどね」

 呆れ顔で溜め息混じりに納得している。

 それはそうと、結局俺が解いちまってる。

 ま、いっか。

 事件は無事に解決したのだから。



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