地元の就活はつらいよ
2016年12月31日(記)
『君は君だよ。君は君が思うように、望み願うように、人目など気にせず生きればいい』
TVや雑誌で多くの人がそう言うけれど。
何なのだろうね、この肌にチクチクと刺さる痛々しさは。
だぁれも俺の事なんぞ気にしちゃいないのに。
自分が意識するほど、他人から意識されているはずもないのに。
角を曲がるたび、その先に知人がいやしないかと緊張してしまう。
18歳にして学校へ行くでもなく無職というのは、想像よりずっとつらかった。
他人から言わせれば『家に居るだけ』なのに、ひたすらつらい。
蚊が耳のそばでタッチ&ゴーを繰り返すので、寝るに寝られれない。
にもかかわらず蚊取り線香が切れているし、オカンもまだ帰宅していなかったので、しかたなしにコンビニへ行くことにした。
最近は自然と、ひと気の少ない夜更けに買い物へ出るようになっていた。
全身の感覚が敏感になりすぎて、衆人環視のステージを裸で歩いているような心細さに陥ってしまうから。
迷彩服とはいわないが、せめて何か一枚着させて欲しい。
スウェットにはフードが付いているけれど、被りたくない。
ミミズだって、オケラだって、ゴキブリでさえもっと堂々と生きているのに。
なんで俺が人目をはばかって生きなければならないのか。
そう考えると、フードは自虐的すぎてかえって気が滅入るのだ。
早く気力を回復して、バイトでも何でもいいから、早くこの肩身の狭さから解放されたい。
じわじわとドロ沼に沈んでゆくような心細さから、抜け出したい。
けれども、もがけばもがく気分は沈み、気力が吸い取られてゆく。
最近では、外出できるくらいまでに『気張る』のですら苦労しはじめている。
五感を最大限に研ぎ澄まし、いざコンビニへ入店。
自動ドアのメロディーに不安を煽られながら、かすかな吐き気をこらえる。
なんで八月なのに『おでん』なんか売ってるんだよ。
この匂いをなんとかしてくれ。。。
俺がちょっと休んでいる間に世界まるごと、どうにかなっちまったのかと錯覚させないでくれ。
世の中が俺を置いて、どんどん進んで行ってしまうような感覚は、つらいんだ。
出鼻をくじかれながらもミッション開始。
店内をスニークしつつ、30秒で蚊取り線香をカゴに入れ、精算に向かう。
コンビニは、レジで並んでいる瞬間が一番無防備だ。会計を済ませる間ずっと、店の入口から知人が飛び込んで来ないよう、祈らずにはいられない。
ふぅぅ。今日も誰にも遭わずに済んだ。
店を出る前にさり気なく、昨日取り損ねた無料の求人情報誌の新刊を入手する。
たった一日で何冊も減っている。出遅れたぶん目ぼしい所はライバルが攻略済みかもしれない。
買い物が缶二本だとレジ袋が小さく、シームレスに納められずに苦労するが、それでも何とか無事にミッション・コンプリート。
「大河!しばらくぶり!」
「おっ、おう」
清々しい達成感で自動ドアをくぐった瞬間、高校時代の級友と鉢合わせた。
うん、家に帰るまでがミッションだってセンセイも言ってた。
心の準備が間に合わず、耳の裏や鼻の頭がこそばゆくなってくる。
「大河、最近どうしてた?」
「いや、どうもしてないよ」
「買い物?」
「まぁ。そんなところ」
見りゃわかんだろうが。他にどんな用があるってんだよ。
「なに買ったの?」
「そっちこそ便所か? それともコンビニ強盗?」
「……いや、買い物。大河が相変わらずで安心したよ」
お前に安心されても嬉しかないし、そもそも心配される筋合いじゃない。
「ところで大河、同窓会に来るよね?」
「えっ!? いや……いかないと思う」
「何で? みんな楽しみにしてるし、ムードメーカーの大河が来ないと盛り上がんないよ」
何でじゃねぇよ。
あえて言うならお前の言う『みんな』が楽しそうな時ほど、今の俺にとっては不愉快だからだよ。何で金を払ってお前らを楽しませなきゃならんのだ?
「……気が向いたら行くよ」
誰が行くか! という捨てゼリフを噛み殺し、即座に戦線を離脱する。
「出欠の締め切り明後日だから! オレは大河が無職とか、そういうの気にしないから! 待ってるよ!!」
深夜の駐車場で大声を響かせる旧友の無神経さに、バイオレンスな気分が沸いてくる。
お前が気にしなかろうが、俺は気にするんだよボケ!!!
ふぅ、ドッと疲れた。 世界が自分を中心に回ってると妄想している奴の相手は、ホント疲れる。
しかもアイツ、俺が無職なの知っていやがった。
知ってて『最近どうしてた?』とかマジでムカツク。
これだから嫌なんだよ、地元暮らしは。
誰も見知っている人がいない都会に移り住みたいよ。。。。