その後の彼ら(十一話 おまけ)
行きつけになった酒場のテーブルに突っ伏している友人。
店に入り麦酒を注文しただけでピクリとも動かなくなったヴィルに掛ける言葉が浮かばずディクリスは一人酒を呷った。
その隣では、軽く冷や汗を浮かべているオト。
ディクリスは溜息混じりに呟いた。
「へたれ」
テーブルに突っ伏した格好のまま、目線だけでヴィルはディクリスを見やる。
煙草の匂いが染み付いた騒がしい場にはおおよそ相応しくない顔つきで、ヴィルはぼそっと言う。
「なんとでもどうぞ」
低いその声に反応したのはオトだ。
先ほどの、アパートの裏庭で、確かに元上司と大家の娘はいい雰囲気だった。
自分が現れて一気に気まずい空気が流れてしまい、娘は駆け去ってしまったが……。確かに『そういう雰囲気』だった。
オトはただひたすら後悔している。
こんなにも落ち込んでいる ヴィルは今まで見た事がない。
オトの内心の混乱などを余所に、ディクリスはなんだかすっきりした表情をして変わらず麦酒を飲んでいる。ヴィルが些か恨めしそうにディクリスに問う。
「にやけてますよ? 何かあったのですか?」
「ビアンカに婚姻の申し込みを正式にしてきた」
笑うディクリスにヴィルとオトは目を丸めた。
「思い切ったと思うか?」と、ディクリスは口の端を上げた。
ヴィルは肩を竦めて頭を振る。
オトは1度会っただけなので顔を思い出そうと首を捻った。
勝気そうな娘だ。性格的にはああいう女が確かにディクリスには合うかもしれないが。
やっと状態をテーブルから起こし温くなった麦酒に口を付けてヴィルが首を傾げる。
「受けてくれたんですか?」
「ん~。正式にはまだだけどな」それよりと、ひたりとディクリスはヴィルを見詰めた。
男に見詰められても少しも嬉しくないヴィルは身を引いて眉を顰めた。
「なんです?」
嫌そうに言うヴィルにディクリスは意地悪そうに笑って見せる。
「へ・た・れ」
そう、区切って言われ。
「……頃合いを見計らうって、戦局見るより難しいですね」
と、ヴィルは酒場の煤けた天井を見上げた。
ディクリスはげらげら笑い出して「告白しそこねた時の面見たかったぜ」と言いヴィルに睨まれた。
オトは再びひたすら謝った。
ヴィルは天井を見上げたまま
いったい何人にシェスカに対しての想いを気付かれているのだろう? と、そこはかとなく空しくなった。