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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛しい貴女へ

作者: 春風 雯慈

 桜の蕾も膨らみ、別れと旅立ちの多い節目の月となりました。

 初めてお手紙を差し上げます。

 お元気ですか? 昨日の夜の電話で「この前の休日、彼氏とデートしたんだ」とご機嫌でしたから、きっと今日もお元気でしょうね。

 始まりは形式に添いましたが、これは貴女には決して届かない手紙です。貴女に宛てるものとして綴るのは、僕の最後の悪足掻きでしょう。

 貴女と会ったのは入学式でした。式の後、集合写真を撮る時に隣が貴女だった事を僕は今でも感謝しています。人付き合いが苦手な僕が緊張しつつ「何処から来たの?」と尋ねると、貴女は少し気まずい顔で「島から」と答えてくれました。地方から来た事が恥ずかしかったのだと後から教えてくれましたね。上手い言葉を返せれば良かったのに「島なら海が綺麗だね」なんて当たり前の事しか言えなかった僕に貴女が笑ってくれた事、それがとても嬉しかった事を今でも覚えています。素直さと優しさと可愛い笑顔。それは貴女の美点が詰まった一瞬でしたから。

 それから卒業まで僕らはいつも一緒にいましたね。他の友人から入学以前からの知り合いだと誤解されていた時は、おかしくて悪戯が成功した子どものように笑い合いました。悩みも楽しさも悲しさも共有し、同い年でありながら、こんなにも尊敬できる貴女と過ごせた時間はとても幸福でした。

 そんな充実した日々の中、僕が貴女への恋心を自覚したのは2年の夏です。何か特別な事があったわけではありません。きっとそれまで降り積もった想いが、たまたまその日、許容量を超えたのでしょう。不意に僕の胸から甘い気持ちが溢れ、それは見る間に身体中を満たしました。同時に痛いほど胸が高鳴ったのです。貴女はそんな僕の変化には気づかず笑っていました。その笑顔を見て僕の顔にも自然と笑みが浮かび、ああ、これが恋か、と驚くほど素直に納得したのを覚えています。

 けれども僕は貴女を愛する人間である前に、貴女から『私達は互いを高め合える最高の親友』だと誇らしい肩書きをもらっていました。

 それに貴女には彼氏がいました。愛嬌があり、小柄で可愛い貴女には魅力が溢れていましたから、それは当然のことだったと思います。

 だからこそ貴女から決して恋愛対象として見てもらえないことを、想いを自覚した時から、僕はきちんと分かっていました。

 いつも親友の僕にだけ「内緒だよ?」と貴女は幸せそうに恋人の話をしてくれましたね。同じくらい悩みを打ち明け、涙を見せる事もありました。間違いなく貴女にとって僕は「親友」として特別な存在でした。

 だから僕は自分の想いを成就させるより、誰よりも貴女の幸せを願い、恋人とは違った形で貴女に寄り添うことを誓いました。

 綺麗事だと、親友だと言ってくれた貴女への裏切りだと、人は言うかもしれません。

 しかし僕も悩んだのです。貴女から恋人の話題が出る度、胸が痛まなかったわけがないのです。けれど悩んで、誰に何と言われようと、僕は貴女からの友情に応えることが至上の愛だと決めました。これが今の僕にとって最高の「恋愛」の形です。

 だから、僕は何があっても貴女の味方です。いつか貴女が本当に自分を幸せにしてくれる相手と添い遂げたなら、僕は心からそれを喜び、産まれてくる子を祝福するでしょう。

 その代わり、どうか貴女を愛することで知った幸福と苦さを、今も愛でる僕を許してください。貴女にも世間にも受け入れてもらえないと知りながら、この気持ちを恋ではないと否定しなかったことを許してください。

 そうして、この世の誰よりも幸せになってください。

 最後に、手紙くらい男性でありたかった愚かな自分と、僅かな未練を捨てて、貴女に誓います。

 私は貴女を愛しています。

 だからこそ、一生、貴女の一番の親友です。


 かしこ

 貴女を愛する者より

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