今、乳幼児に出来る事
現在、この作品は加筆(改訂)作業中です。
まだ、第二話以降は加筆(改訂)作業は終了しておりません。
ご注意ください。
いつもの離乳食を食しながら、ラトゥは夢から覚めたような、冷ややかな目で一人思う。
(この家って男爵様なんだよな)
いつもの食卓、祖父、両親、自分の四人だけの食卓。
いつも変わらない質素な食事、ラトゥの目の前には大麦の重湯、野菜と干し肉のスープ
大人は黒パンと、同じと思われる野菜と干し肉のスープ。スープの味付けは違うかもしれないが、ほぼ同じ物が食卓に並ぶ。
(これが、男爵様の食事……)
男爵の家に生まれたと、浮かれていた十数日前、現状を考えてみると疑問も浮かんでくる。まずは、食事、貴族なら、かなり豪勢な食事してると前世からの先入観と思った。だが、現実の質素な食事。
それに祖父と父の手から感じる土の匂い。
この事実が、浮かれていた気持ちを一気に冷やす。
(この世界の文化レベルってどうなってんの?しかも、父さんや爺ちゃん自ら畑仕事してるみたいだし……、もしかして、ウチは貧乏領主様?いや貧乏男爵様?)
そんな事を思いながら、母親に重湯を食べさせてい貰い、満ち足りた気持ちになる。
(でも、こんなに美味しいなら、別にどうでもいいか。豪華な食事が俺に合うとは思えないし)
そんな事を思うのも、前世の記憶の弊害かなと、内心苦笑する。
ふと前世食べたコンビニ弁当や、牛丼生活を思い出す。
(あの時は、食事ってより、ただ、胃に詰め込む作業だったよな)
食事の意味について、しみじみ考えながら、野菜と干しのスープを一啜る。
(食材にも感謝の祈りなんてしてなかったし、食事の意味も希薄に為ってたしね)
口周りを汚し、母親に口を濡れ手拭いで拭いて貰う。
(俺が生きて行く意味と意義が、この世界になら有るかもしれない)
再び、ラトゥの食事は進む。
(それに、今の状況を打破出来る可能性を知識を俺は持っている。勿論、この世界で俺の知識全てが活用できるとは思わないけど、いろいろアレンジして活用しきれば、みんなで幸せに成れる筈だ)
離乳食を、モグモグ咀嚼しながら、時間をかけて深く深く思案する。
(うん、まずは)
ゆっくりと食事は進む。
(……まずは)
更に、食事は進み、大人達は、畑や牧場の状況などでの話で会話が弾む中、深く深く考え答えを出す。
(……あれ?、乳幼児の俺に出来る事って無く無い?)
微妙に現実と理想のギャップを感じた朝だった。
「……ろら、とうおもう?」
(……ロラ、どう思う?)
「わん?」
「ぅん、ないよね」
(うん、無いよね)
「わん」
春の日差しが暖かい庭で、ラトゥに相談する。
(考えると出来る事が少ないって、言うか無いよな)
他の乳兄弟と異なり、未熟ながらも言語をマスターしつつあるラトゥは、それで満足出来ずに、更に先を追い求めていたが、成長(特に年齢的な成長)が追い付かなかった。
「あせらないて、てきることかんかえよか」
(焦らないで、出来る事を考えようか)
日向ぼっこをしながら、結論付ける。
特訓の成果よちよち歩きを、ぎこちなくだがマスターしたラトゥは庭を散策しようと立ち上がる。
「ろら、いこ」
(ロラ、行こう)
「わん」
ラトゥに従うように愛犬が寄り添い歩き出す。
正門近くを通るが、勿論、脱走防止の柵が正門に取り付けてある。
あれを見ると、母親の悲しそうな顔を思い出す。
「いや、もうにけないから」
(いや、もう逃げないから)
柵に突っ込みを入れる。
「わん」
知ってか知らずか愛犬が相槌を打つ。
裏庭まで、よちよち歩き&愛犬に乗って行く。
裏門にも柵が付いているが、ここからなら愛犬に乗れば、少しだけ麓集落の家々が見える。
昼間見ると、ログハウス調の家々の中にも一部煉瓦や石を使った家も見える。
だが、詳しくは分からない。
この前、母子で観た時から、何度か見に来ているが、ここからの風景では分かる事が少ない。
「しかに、まちなみをみれたらいいんたけと」
(直に、街並みを見れたら良いんだけど)
「わん」
「もうちと、おおきくなてからたな」
(もうちょっと、大きくなってからだな)
言葉とは裏腹に、行きたい欲求を抑えきれないに様に、両手で柵をガタガタ揺する。
「おれ、むりくたな」
(俺、無力だな)
「わん」
愛犬の無邪気な相槌に、マジへこみする乳幼児が裏庭にいた。
集落を見終わったラトゥは、愛犬から慎重にゆっくりと下りた。最初は勢いよく折りたために、尻餅をついた思い出がある。
「ラトゥ~、ロラ~、何処~」
遠くから母親の呼ぶ声が聞こえる。
「わん」
愛犬は、ラトゥの襟首を首が絞まらないように咥え走り出す。
「ぅん、なんかおれのたちはひくくなてない?」
(うん、何か俺の立場低くなってない?)
微妙な立場の変化を感じながら、ラトゥは母親の元へ連れ(去られ)て行かれる。