事件後の穏やかな日々
現在、この作品は加筆(改訂)作業中です。
まだ、第二話以降は加筆(改訂)作業は終了しておりません。
ご注意ください。
あの日を境に、屋敷に穏やかな日々が再びゆっくりと流れる。
ラトゥはドワーフやエルフもいる世界を、もっと見たい。知りたい。欲求が高まっていた。だが、あの事件で両親との時間を素直に過せるのは、幼い今だけだと気付き、理性で行動することを控え、本能に任せて行動することも多くなった。
両親達も、考えるところがあったのか、天候が穏やかな日には、庭で遊ばせてくる様になった。
もちろん、乳兄弟と一緒に遊ぶこともある。
赤髪の子がヤンチャで銀髪の子を、よく泣かしていたが、ラトゥが二人を宥めてよく纏めていた。さすがに、この時だけは本能に任せると収拾が着かないので、この場だけは愛犬と頑張った。
基本、大人は子供同士のことに対しては、遠くで見守り極力干渉を避けているようだ。
(まあ、正しいと思うけど、こっちの身にもなってよ)
ラトゥはぼやく。
だいたい最後は、愛犬の尻尾や毛を引っ張られ、吠えて泣き出すか、愛犬が逃げ出して、赤髪の子が泣き出すかのパターンになってきた。
ついでに、一人が泣き出すと、つられてもう一人も泣き出す事が多々ある。
この日も、また……
(本当に、勘弁して下さい)
乳幼児らしくない溜め息を吐きながら、泣き続ける二人を玩具であやす。
愛犬は、別の部屋に逃げたまま帰って来ない。
この疲れも出たのか、二人と乳母が帰った後、暖かな暖炉の前で横になっていた愛犬にもたれかかる。
(……急ぎ過ぎたよな)
暖かい部屋で眠気に誘われ、まどろみながら、あの日の事を思い出す。
(あの日、あの後のことは、よく憶えていない。ただ、母親の涙と、母の手が冷たかった事、いつの間にか 寝てしまい起きた時に、また母親に泣かれた事。だけを、思い出す)
愛犬の耳がピクピク辺りを窺いながら、ラトゥを守るように丸まる。
(前世も現世も、生みの親には迷惑かけてばっかりだ)
意識が途切れる間際、愛犬にしがみつくように包まられ夢に落ちる。
前世も、犬を飼っていた。
だからだろうか?愛犬と一緒に寝ていると、前世の夢を見る。
平凡な人生、どこで狂ったのか?確認させるように……
前世は、特に目立った成績でもなく、普通に中学を卒業した。進路は実家が農家だった関係で農業高校に推薦され、農業科で学んだ。
両親と祖父母は喜んでくれた実家を継いでくれる。と、
そのまま卒業後、大学農学部に進み醸造微生物学を専攻した。
卒業後は、小さい酒造会社に就職した。これは、あまり喜んでもらえなかったようだった。
社会人生活は、それになりに充実していて、学んだことを生かせるのは楽しかった。
だが、会社が倒産したことで全てが変わる。
実家に帰って来い。向いて無かったんだから家を継げ。再三にわたり電話、メールが来た。
でも、素直になれなかった。意地になって先輩の伝手を頼り就職した。仕事はきつかったし、向いているとは思えなかった。だが、気がついたら戻るに戻れなくなっていた。
前世の自分も前世の父親も、意地を張り続けた。
結果、死んだ。
自分が選んだ結果を、時に鮮明に、時に漠然と、ゆっくりと何度も遡り同じに夢を見る。
「んっ?」
頬をくすぐったく感じ、身をくねられる。
ラトゥが気付くと、愛犬が頬を舐めている。
知らない間に涙が一筋流れていた。
「ありかと、ろあ」
(ありがとう、ロラ)
愛犬に、しがみ付き頭を撫でる。
(一昨日は、高校時代に入った歴史研究同好会の夢だった。思っていたより充実し過ぎていて、楽しく切ない思い出が詰まっていた。だけど、あまりにもリアルすぎて……ちょっとぐらい美化してくれても……)
少し遠い眼をしながら、前世の鮮明な夢に苦笑した。
いつの間にか、暖炉の火は消えていたが、まだ十分暖かかい。
(もう少しで、春が来るのかな?)
いつもの寒さが、だんだん和らいで来た事を感じていた。