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スカーレット・アイズ(旧:異世界辺境生活)  作者: 長靴を履いた犬
異空間と、二つの月と、大切な友達。
3/13

この世界で生きること

 現在、この作品は加筆(改訂)作業中です。

 まだ、第二話以降は加筆(改訂)作業は終了しておりません。

 ご注意ください。

 愛犬ロラに、深刻な相談した日から十数日過ぎた。

 彼も、舌足らずではあるが、「ろあ」(ロラ:愛犬)「まんま」(ママ:母親)「うんば」(ウバ:乳母)「ぱぱ」(パパ:父親)「じーじ」(ジージ:祖父)を含む、簡単な言葉の発音が出来るようになり、微妙なコミュニケーションを周囲ととりつつある。

 更にやっと、『這う』から、『ハイハイ』が出来るようになった今、ようやく周囲の状況が分かってきた。

 家庭環境は、祖父と両親と自分の四人家族、祖父の顔は厳つい、物心つく前には本能に任せて、あやしてもらったのに泣きだすくらい厳つく、またガッチリしている。まるで、ファンタジー世界のドワーフの伸長を高くしたような感じである。逆に父親は、やや痩せ型で整った穏やかな顔をしている。(彼が父親は祖母似だねと思うくらい)祖父とは対照的だ。二人とも髪・眼ともに黒だ。そして、母親、金髪碧眼で、少し病的な感じで線が細い。

 彼は、三人に「ラトゥ」と呼ばれながら、大切に優しく育てられている。

(あぁ、俺の名はラトゥって言うのか。まあ、ただの愛称かもしれないけどね)

 あやしてくれる父と祖父の手からは、土の匂いがする。ラトゥにとっては懐かしい匂い。もしかしたら、農業を生業としているのかもしれない。

 更に、乳母が二人、多少の事では動じない大らかで豊満な赤髪の女性と、少し几帳面で線がやや細い優しそうな銀髪の女性。どちらの乳母も彼を大切に扱っていた。

 勿論、この事から二人の乳兄弟がいる事を推測した。

 そして、この家は広い。まだ行っていない部屋があるが、十数部屋ありそうだ。また、乳母を雇う余裕があることから、大農園の一家かな?と、彼は推定した。

(何だかんだで俺は、また幸せな家庭に生まれたんだな。もう少し家が狭ければ成功したんだけど……)

 数十回目の愛犬ロラに乗って外の世界へ行こうとしての失敗の最中、赤髪の乳母に抱えられながら思った。

(しかし、いつ外に出してもらえるんだろうか?ついでに乳兄弟にも会えるんだろうか?)


 更に数日経った。

 暖炉の有る応接間で、三人の女性が編み物し、三人の乳幼児が木製の玩具で遊んでいる。いや、二人の乳幼児が無邪気に遊び、もう一人が本能に逆いつつ周囲を窺っていた。


 チャチャチャチャチャチャ


 床と爪で、小気味良い足音をたてながら、愛犬ロラは、神経質になりつつあるラトゥの元に向かってくる。ほかの二人の乳幼児が気付き対照的な反応を示す中、彼が叫ぶ。

「ろあ、あぅ」

『ロラ、待て』

 愛犬ロラは、一瞬の躊躇の後、その場に留まり座る。

(よし、いいぞ。そのポジションだ)

 怯えていた大人しそうな銀髪の乳幼児が、近づいてこないことを確認して再び玩具に向かい。やんちゃそうな赤髪の乳幼児が犬に向かおうとするが、ラトゥは機先を制して玩具を渡す。

 目の前の玩具に関心が移ったのか、その玩具に没頭する。

(二日前は、失敗したらな)

 胸を撫で下ろしながら、前回、ロラが近付いて、片方が泣き喚き、もう片方が愛犬ロラの毛を引っ張り、それを嫌がって吠え掛り、その吠えたことで二人揃って泣き出した。

(悪夢だった。遊んでいる風を装って、ロラに乗って外へ行く計画が、阿鼻叫喚の地獄絵図。最悪なことに 昨日はロラが背中に乗せてくれなかった)

 玩具で遊びながら、母親と二人の乳母を窺う。

 三人とも、編み物しながらお喋りをしている。

 彼は大きく深呼吸し、また愛犬ロラの尻尾を引っ張りたいのか、玩具を片手に愛犬ロラを窺う赤毛の乳兄弟を横目で見る。もう一人の乳兄弟も確認するが、愛犬ロラが近付かないと理解したのか素直に玩具で遊んでいる。

 その素直に遊んでいる乳兄弟に、とっておきの玩具、振ると音の出る木製のガラガラの様な物を、目の前で振り、目の色が変わったように興味を示したのを、確認したうえで断腸の思いで渡し、彼は愛犬ロラに向かって這う。


 彼の後ろでは、ガラガラの取り合いが始まる。


 二人と愛犬ロラの中間の位置でラトゥは機会を待つ。

後方での二人の鳴き声。玩具を奪い合った結果。泣き出し、大人が二人の方に向かう。

 この瞬間を待っていた。

(今だ)

 ラトゥは、ハイハイする。密かに習得していた通常より早い高速ハイハイで愛犬ロラの元へ。耳をピクピクしがなら伏せている愛犬ロラの背に、いつもより素早く乗り

「ろあ、あえぇ」

『ロラ、行けぇ』

「わん」

 小声で意思疎通して、愛犬ロラとラトゥが犬用ドアに一直線に向かう。

 まだ、大人は二人の騒動で、一人と一匹の行動に気付かない。初動の差が計画の鍵だった。

 気付かれた時には、犬用ドアは目の前だった。

 一週間前に一度だけ、ここまでは来れた。だが、ドアの狭さに邪魔され、どこぞのコメディの様に愛犬ロラは外へ。ラトゥだけ壁に邪魔され、彼はズルズル滑り落ち家の中で悔し涙を流した経験がある。

(これも、対応済みだ)

 愛犬ロラにしがみ付き叫ぶ。

「ろあ、あぅえぇ」

『ロラ、低く飛べ』

「わん」

 愛犬ロラはヘッドスライディングの要領で、低く飛び。ラトゥの頭をかすめながら扉を通過する。

 その調子で、部屋を抜け、廊下を走り、正面玄関の(ロラ専用の)扉も、再び息の合ったコンビプレイでクリアーし、ついに念願の外の世界へ。

 青い空、白い雲、ついでに周囲が薄ら白く光り輝く雪化粧した極寒の世界に出る。

「…っふぅぅ」

『さっむぅぅ』

「わん」

 一瞬で体温が奪われる。肌着以外身に着けていなかった。ラトゥは震えながらロラにしがみ付く。ロラの体温だけが生命線だった。

(冬だったら、冬って言ってよ)

 想定外の厳しい世界に、泣き言を言いながらも周囲を見回す。

(やっぱり、広い屋敷だ)

 広い庭、立派な木製の門構え、雪かきされた石畳の通路

(あれ?普通の農家にしては立派すぎない?村長とか?)

 順調に門を出ると眼下には無数の民家が見える。それは街というよりは、大きな村の印象が強い。更に周囲を観察しようとした時。

 愛犬ロラが、鼻をヒクヒク動かし何かを感じると

「わをぉぉぉぉぉぉぉおん」

 大きく遠吠えをして愛犬ロラが走る。しかも、さっきより速度を上げて、まるで背中に乳幼児を背負っている感じはなく、何かに興奮しているように一直線に走る。

(そんなに速度を上げられたら、周囲を見れないじゃないか)

 興奮している愛犬ロラをなだめようと声を上げようとするも、しがみ付くのが精いっぱいで、声さえも出ない。

 そんな逃避行は、唐突に終わりを迎える。

「わん」

 一声、大きく吠えると二人のフードの人物に飛びかかり、背の低いガッチリした方のフード付きの外套が捲れる。そこには、鬚を蓄えた厳つい顔、一瞬驚いたような顔をする。だが、ロラを見るなり顔には笑みを浮かべロラの頭を撫で回す。

(ちょっと、ロラこの姿勢はキツいって)

 二本足で立っている愛犬ロラの体勢では、乳幼児の腕力では限界がすぐに来た。

転げ落ちようとした瞬間、もう一人のフード付きの外套の人物が助ける。

 一瞬、本能に負けて半泣きになる。泣くのを察した人物が、フードを捲り優しくあやしてくれる。

 しかし、ラトゥはあやしてくれることより男性の耳に釘付けになる、耳は木の葉の様で先端は細く尖っている。

(……エルフ?)

 優しげなエルフ耳の男に、身振り手振りでせがみ耳を触らせて貰う。触った質感から本物みたいだ。

(……ここは異世界?ファンタジーの世界ですか?)

 半分呆けている間に、複数のフードをかぶった人物が集まってきた。

 エルフ耳の男は、何かを命令すると、集まってきた内の一人が暖かそうな毛布を持ってくる。すぐにラトゥは手際よく毛布みたいな物で包まれる。

 寒さから解放され、平常心を取り戻したラトゥは周囲を見回す。

 ここは少し開けた場所であり、馬から荷物を降ろしている最中だったようだ。

(あ~、この村と交易している人達かな?)

 愛犬ロラの慣れ方から、勝手に推測する。


「ラトゥ、ラトゥ、ラトゥ」

 家の方から、着の身着のままの母親が叫びながら蒼い顔をして走ってくる。

 エルフ耳の男が一言、二言、声をかけラトゥを渡すと、冷たい腕で優しく抱きしめた。

 一粒、もう一粒、母親の涙がラトゥの頬に落ち、緊張が解けたのか声を押し殺して泣き崩れる。

 小声で、ラトゥの名を呼びながら……

(俺は、とんでもない事をしてしまったのかもしれない。どこかで、日本の感じで行動していた。だけど、ここは日本では無いんだった)

 後悔の念が胸を締め付け

「まんま、ごえんね」

『ママ、ゴメンネ』

 静かに泣く母親に謝る。

(いつ以来だろう、こんなに素直に謝れたのは、こんな風に素直に謝れてたら……もう少し素直だったら)

 戻れない世界が胸中を過ぎる。

 少しの間、目を閉じる。

 そこには戻れない世界、もう会えない人達……

 ゆっくりと目を開く、そこには静かに泣く母親と青い空

(俺は、この世界で生きるんだ。悔いの無いように)

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