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お茶会(5)


 テオファドートの影から現れたのは、銀と黒の歯車が絡み合ってできた円形の機械のようなものだった。これがテオファドートの使い魔、ポリ・ギミック――の一部、である。

「範囲はこの庭園内、時限付魔具及び現在不自然に魔力漏れしているものを浮かせろ」

 ポリ・ギミックは鈍い光を放ちながら、歯車をからからと回転させ始めた。

「きゃああああ!」

 お茶会参加者の身体から次々とものが飛び出し、空高く浮き上がる。それは装飾品であったり扇や煙管であったりした。

 帰宅の際の転移魔法のために時限付魔具を所持している富裕層は多い。おおよその時間を設定しておけば、その時間になると自動で転移魔法が発動する。魔法使いを共に連れていけない状態で遠方に訪問する時によく使われる方法だ。それだけで不審者とは決めつけられない。魔力漏れも、検索条件としてはまだまだ不十分だわね。だって、そもそも時限付魔具だって設定時間が近づいてきたら自然に魔力が漏れ出すものなんだもの。一応「不自然」って制限加えてるけど。不自然なんて設定するの、至難の業だしどうしたって正確性に欠ける。

 どの魔法を発動させようかと考えていた時、目の前をヴァデッドが飛び出して行った。そしてそのまま一人の男に飛びかかり、地面に押し付けた。

「こっちへ!」

 あたしは慌ててその男の近くに浮かんでいた魔具2つを、魔法で自分の方へ引き寄せた。

「…ゲ」

 あたしは手にした魔具を見て思わず声を漏らした。

 それは立派な、ダイナマイトのような役割を果たす爆破魔具だったからだ。

「動かぬ証拠、ってやつだな」

 テオファドートの発言にあたしは頷いた。

「ポリ・ギミック!確保だ」

 歯車が再びカラカラと回転すると、ヴァデッドと男の周囲から鉄パイプのようなものが飛び出した。ヴァデッドが跳んで鉄パイプの範囲から逃れると、鉄パイプが接合し檻が出来上がった。

 男は気絶しているようで、微動だにしない。一瞬気絶させたなぁ?ヴァデッドってば。

「テオファドートこれ!貴方の分野でしょう!」

 あたしは爆破魔具をテオファドートに突き出した。

「ふん、低レベルの爆破魔具だな」

 手をかざしてぶつぶつ呪文を紡ぐと、青い光がはじけ爆破魔具はバラバラに分解された。

「ポリ・ギミック。不審者をいつもの場所に転送しろ」

 ポリ・ギミックが不審者を転送させると、テオファドートはラーシャ様に視線をやった。ラーシャ様は心得たと頷くとにっこりと微笑んだ。

「お騒がせしましたわ、皆様。ご覧の通り不届き者は無事、我が家の魔術師が捕らえました。浮遊した魔具はすぐにお返ししますわ。…魔女様」

 あたしはパチン、と指を鳴らした。空高く浮き上がっていた魔具の数々が元の持ち主の所へ戻っていく。

「これは私から皆様へのプレゼントですわ。もうしばらく、お茶会を楽しまれますよう」

 あたしはもう一度指を鳴らした。空から白い小さな花びらがはらはらと、無数に降り注ぐ。わあああと、庭に歓声があがる。

「ヴァス」

「はい、マスター」

「今のうちに退散するわよ」

「了解しました」

 ヴァスは恭しくお辞儀をした。あたしはラーシャ様の方に振り返った。

「ラーシャ様、今日はこれでお暇しますわ。あまり長居できそうな雰囲気ではありませんし」

「そうねぇ…仕方ないかしら」

 ラーシャ様は至極残念そうな顔をした。

「服はまた落ち着いたころこちらから転送しますので…それでは失礼致します。今日はお招き頂きありがとうございました」

 淑女の礼を取ると、ヴァスがあたしを抱きかかえた。

「あっおい!」

 家に帰ろうとすると、テオファドートから声がかかった。

「テオファドートもじゃあね」

 嫌な予感がしたあたしは、それだけ言うとヴァデッドを促した。あたしの意図を組んだヴァデッドは転移魔法を使った。

 そしてあたし達は、あたし達の家に帰った。






「ああああ疲れたあああああ」

 着替え終わったあたしはコルセットをつけていたあたりをさすった。あうーまだなんか締め付けられてる感じがするぅー。

「俺だって疲れたわ」

 あたしと同じく着替え終わったヴァデッドは気怠げにソファーに腰かけていた。髪の毛もほどいて、いつものゆったりとした格好に戻っている。

「ヴァデッドおつかれさま~今日はありがとうね。それに不審者も捕まえてくれたし!マスターとしてお鼻高々だよ!」

 気が抜けてへへへーと笑って隣に座ると、ヴァデッドはあたしの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「ぎにゃああああ」

 ななな何するのよぉ!あたしは髪を直しながらヴァデッドをきっと睨みつけた。

「これから面倒くっせぇことが増えるんだろうな、と思ったらいらっときた」

「は?面倒くさいこと?」

 今やっと面倒くさいこと、終わった所だよ?

「わからんならわからんでいい」

「何よぉそれ!」

 ヴァデッドは心底呆れた顔をして、あたしにその理由は話してはくれなかった。






「テオファドートねぇ…、全く妙なもんにばっか好かれやがる」

 ヴァデッドの呟きはあたしには聞こえなかった。



お茶会話、これにて終了です。

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