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お茶会(4)

「…テオファドート」


 あたしのベリータルトを阻止したのはお前かこの野郎。

 テオファドートも今日はおめかししている。首元のココア色のスカーフがいい色してるなぁ。流石お二方は趣味がいい。

 …でも何で心なしか顔が赤いんだろう?風邪?


「使い魔はいないのか」

「お茶を取りにいってくれてるわ」

「そ、そうか…」


 煮え切らないテオファドートの様子にあたしは首を傾げた。一応体面を守って、こういった場では過剰なスキンシップはしてこないので助かる。傲岸不遜さが消える訳じゃないけどね。


「お菓子を取ってもいい?」

「あ、ああ…。…いや!俺が取る。何がいいんだ?」


 …テオファドートでも公式の場ではこういう応対したりするんだ。あたしはまじまじとテオファドートの顔を見つめた。レディの扱い方というか、さりげなく女性を手助けすることにテオファドートは全く慣れていない。というよりは、そんなことをする必要がないと思っている。そのテオファドートがあたしにお菓子を取ってくれるらしい。まじまじとみるしかない。


「どれがいいんだよっ」

「え?ああ、そのベリーのタルトと、隣のチーズケーキみたいなの」


 噛みつくような勢いで言われて、あたしは特に気になっていた2つを伝えた。


「2つでいいのか?」

「そんなに食べられないわよ(この格好じゃ)」

 ほんとは端から端まで一個ずつ食べたいわよあたしだって!

「ほら」

「ありがとう」


 テオファドートからお菓子を受け取ると、近くにあった椅子に腰を下ろした。ううーん、良い匂い。おいしそー。


「…お前、それ好きなのか?」

「へ?」


 すっとテオファドートはお菓子を指さした。


「お菓子?そりゃあ好きだけど…?」

「そうか!あとは何が好きなんだ?」

「な、何よ急に…」

「だってあの使い魔がー」

「私がどうかしましたか?」


 ズサササッとテオファドートがのけぞって後退した。


「マスター、お茶をどうぞ」

「ありがとう」


 お茶を受け取りついでに、あたしはヴァデッドの耳に顔を寄せた。


「…テオファドートに何したのよ」

「いえ、何も?」

「怪しいんだけど。そうじゃなかったら、テオファドートがあんな風にのけぞって後退する訳ないじゃない」

「そう言われましても…心当たりがありません」


 ヴァデッドは話す気はさらさらないらしい。まぁ、いいテオファドート除けになるからあたしはいいんだけどさ。


「お前ら距離近いんだよっ!」

「…お茶がいい匂いだから、何を取ってきてくれたのか話していただけよ。大きな声出さないで。…色んな人がいるんだから」


 指摘すると、テオファドートはバツの悪そうな顔をした。場にそれなりに合わせる理性があるのなら、常に発揮しといてもらいたいものだわー。


「ベリー系を中心にブレンドした特別製だそうですよ。マスターはベリー類がお好きですから」

「だっておいしいじゃない?ベリー。そのまま食べてもおいしいけど、ジャムとかお菓子とか…色々使い勝手もいいし」


 何故かテオファドートは憮然とした顔をしていた。…ベリーが嫌いなのかしら。


「ん、おいしい」


 良い匂いだし。甘すぎないのに爽やかな風味が広がって、確かにベリー好きにはたまらない味ね。


「他にもストレートからミルク、ハーブティーなど各種取り揃っているようです。色々とお召し上がりになるなら、合わせてお持ちいたしましょうか?」

「いえ、今はいいわ。あとでたくさんレシピをラーシャ様から聞かないとだわ」

「かしこまりました」

「…お前もこういうの作れるのか?」


 テオファドートは紅茶を指さし、その後ケーキを指さした。


「指ささないの。…あなた、あたしのこと何だと思ってるの。あたしはあなたと違って一人暮らししてるのよ」


 そりゃ料理だって繕い物だってなんだってしないと生きていけない。染物だって今ではすっかりお手の物である。

 私はどちらかといえば薬学関係の方が得意なのだけど、テオファドートは私の対極に位置するようなタイプだ。魔法そのものが専門で、新しい魔法考えたり今ある魔法をもっと効率よくするためにはー…なんてことがテオファドートの分野だ。そういうタイプにありがちだけど、もう大体のことは全部魔法で片付けてしまって、例えば料理みたいなことはまずしない。私は料理とかはちゃんと自分の手で手間かけて作りたいタイプなんだよね。薬草煎じるのも一緒。特に薬学は手で作った方が質が確かだ。

 つまり何が言いたいのかって、私は紅茶のブレンドだってお菓子作りだってできるってことだ。


「…俺には作ってくれないのか?」

「………は?」


 あたしは、テオファドートがしげしげとあたしを見ながら言った言葉の意味不明さに目をぱちぱちさせた。


「こういうの作れるんだろ?俺食べたことない」

「何で私がわざわざテファドートに作らないといけないの?ここにはちゃんとしたプロのシェフもパティシエもいるんだから、その人に作ってもらないなさいよ。そっちの方がおいしいわ」

「その使い魔とかラーシャ様あたりとかにはやってんだろ。不公平だ」


 テオファドートはあからさまにむっとした。


「そりゃヴァスは私の家にいるんだし、ラーシャ様には教わったお礼で渡したりなんたりするわよ」

「俺が駄目な理由になってない」


 なんだこのわがまま野郎。超面倒くさいんですけど。何で会いたいくもないようなヤツのためにわざわざお菓子作ってやんなくちゃいけないのよ。あたしはあんたに会うのが億劫でお茶会くるのも気がめちゃくちゃ重かったっていうのに!


「マスター」

「おい使い魔、話に割り込んでくるなよ」

「しかし、先程から後方でラーシャ様がこちらをかなり気になさってるようなのですが…」


 あたしは後ろを見やると、確かにラーシャ様がうきう…そわそわしてこっちを見ている。すっごく楽しそうなのは見なかったことにしたい。ヴァデッドもナイスなのかそうでないのかよく分からない助け舟の出し方はやめてほしいわね…。

 流石に主人の妻の存在を無視することはできないテオファドートは、隠すことなくムッとした。


「ラーシャ様」


 テオファドートを無視してラーシャ様に声をかけた。ラーシャ様がにこやかにこちらに近づいてくる。


「楽しんでくれているかしら?」

「もちろんです。ベリーの紅茶がすごくおいしくて…あとで色々レシピ教えてくれますか?」

「それこそもちろんだわ!私はあなたとお菓子作りを教えたくて毎年頑張ってるのよ?そう言ってもらわないと私が困るくらいね」

「やだ、ラーシャ様ったら」

「お前、毎年そんなことしてたのか」

「こら、テオファドート。女の子にそんな言い方をしちゃ駄目でしょ?」


 ラーシャ様がテオファドートをたしなめた時だった。

 ――――ピクッ。

 テオファドートとヴァデッドを見ると、お互い同じ顔をしていた。


「マスター」


 ヴァデッドの声が硬い。


「分かってる。――絞れてる?」

「当然だろ、俺が組み立てたんだ。外から近付いてるんじゃない、内からだ。多分時限付の魔具持ってきたか、折角気配封じてたのに気合い入っちゃてフイにしたかだな。――この庭園内だ」


 あたしは頷いた。


「ヴァス」

「分かっております、マスター」

「ラーシャ様」

「いいでしょう、許可します」


 テオファドートは上着の内ポケットから小さい試験官のようなものを取り出した。蓋を開け、中栓を抜くときゅぽという音が立った。中の紫色の液体がテオファドートの影に落ちた。


「来い、ポリ・ギミック」


 ズズズ…と音を立てながらテオファドートの影から彼の使い魔の一部が姿を現した。

久しぶりの投稿になってしまいました。

あともう少し続きます。

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