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二転三転

「その少年をこちらに渡して貰おうか」


 白服の内の一人が口を開く。こちらは三人に対してあちらは六人。数的有利に加えて俺達が抵抗しない事で、白服には余裕があるようだ。


「それはいいが、渡した後俺達はどうなる? 見逃してくれるのか?」


 シャロと少年は空気を読んでくれているのか声を出さない。俺からすれば、「私達には無理だから、荒船さん頑張って」と丸投げされた気持ちだが。


「少しでもこの件に関わった以上、何も知らなくとも身柄を拘束する事にはなるだろうな。その後は長の判断次第だが」


「そうか。じゃあ、大人しく捕まるわ」


 あっさりと降伏した俺に一瞬だけ拍子抜けした様子を見せる彼らだが、その後の手際は良く直ぐに縄でぐるぐる巻きにされた。


 逃げようと思えば逃げられるのだが、逃げた所で追われる事は分かりきっている。そして、道も分からない。


 この場は抵抗せずに捕まった方が得だと俺は判断したのだ。


「私達、これからどうなるんですか?」


 シャロが小声で尋ねてくる。初めはこの悪魔を頼りにしていた俺だが、この世界に来てから当てが外れた。


「大丈夫だ。いざとなればスペルを使って逃げるから」


 対して、俺も小声で返す。この数時間で既に耐性がついたのか、恐怖心などは無く冷静でいられた。


 白服の男達に囲まれながら暫く歩いていくと開けた場所に出た。木々に周りを囲まれている点から考えて、まだ森からは抜けていないようだ。


「今から長の所へ行く。余計な事をするなよ」


 白服の一人が俺達に向かって言った。周りをよく見れば、小さな建物がちらほらと建っている。俺の乏しい知識からして、村里のようなものだろうか。俺達の他に人の姿は見えない。


 彼らに連れられて、いくつかある建物の中で一番大きなそれに入る。


 一番とは言え、その見た目は日本で山小屋と呼ばれているような形だ。決して豪華ではない。


 中の広さは人が十人も入れば窮屈さを感じる程度。家具の類も長が座る木製のいす以外は置かれていない。


「裏切り者と、森にいた旅人を連行いたしました」


 長と言うからには髭面のじいさんだろうとの予想は裏切られ、そこに座っていたのは中年の男。坊主頭のために若く見えるが、十分年はとっているだろう。眼光は鋭く、獲物を狙う獣のよう。座っている体勢からでも背が高い事が分かる。


 一言でまとめると、危ない人だ。


「解った。もういいぞ、下がれ」


 そして、あろうことか俺達と一切の会話をする事無く部屋からの退室を命じた。


「この者達はいかが致しましょうか?」


 白服も判断に迷ったのか、長に尋ねる。


「村外れの納屋に入れておけ。処罰は後で行う」

「かしこまりました」


 その会話も短く終わり、俺達は外に出る。訳も分からず納屋と呼ばれた小さな建物に三人で入れられ、外から閉じ込められた。俺はその手際の良さにただ感心するだけだった。




「どうしましょうか?」


 心から不安そうな声でシャロが話しかけてくる。正直な話、普通は俺の方がシャロを頼るのではないだろうか。


「そうだな……。なあ、君の名前は何て言うんだ? 俺には荒船涼って名前があるんだが」


 ひとまず少年に話をふる。今回の件は明らかに彼から始まっていたからだ。


「……リク」


 小さな声だったが、一応聞き取れた。


「そうか、リク君か。じゃあ、単刀直入に訊くけど、君は何をしたんだい?」


 彼は裏切り者と呼ばれ、白服に追われていた。そこには何か理由があるはずで、巻き込まれた以上は知りたかった。


「……」


「まあ、話したくないならいいよ。俺達は俺達で勝手にやるから」


 俺の質問に対してリクは沈黙を貫いた。俺に怯えているのか単に話したくないだけなのか分からないが、答えなかった事は事実。


 それはつまり、


「シャロ、ここを出よう」


俺達に頼る気は無いと言う表れだろう。


 身を捩らせて、体を縛り付けるロープに右手を触れる。数秒経つと手の触れた部分が消滅し、千切れたロープが床に落ちる。同じ様にシャロのロープも消してやり、体を自由にさせる。


 これで八割カットされた出力だと言うのだから、かなり不気味な力だ。それと同時に、ゴム手袋の優秀さを再確認した。


「上手く出来るか分からないが……、まあやってみるか」


 一人呟き、入り口とは反対側の壁を向く。これが触れた物を消せるスペルならば、壁に穴をあける事も可能だろう。


 やりすぎたら困るから手袋は着けたままで。指でなぞるようにしてゆっくりと壁に四角を描く。大きさは一メートル四方程度をイメージする。


 思いの外上手くいき、ダンボールをカッターで切り抜いたように壁に穴があく。


「じゃあ、出ようか」


 俺はシャロに優しく話しかける。


「は、はい」


 状況に付いて来れていないのか、答える声に力が無い。


 仕方無いか。俺だって、こうも目まぐるしく状況が変わっては、対応するのがやっとで理解は出来やしないから。


 逃走ルートを早く見つける為、俺が先に納屋から出る。


 出た所で辺りをキョロキョロと見回すと、ある一点で視点が止まる。


 俺は運が良すぎるようだ。何度目か分からないがそう思った。


 まさか、壁を壊した先に長が待ってくれているとは、誰が考えるだろうか。


「どうしてあなたがここに――!?」


 出口で立ち止まってしまっていたため、後から来たシャロに頭突きを喰らわされる。もう少し注意して行動してほしいものだ。背中が痛む。


「うー。……荒船さん、そんな所に立っていたら危ないですよ」


 まあ、俺が痛いって事は彼女も痛いと言う訳で、頭を押さえながらそう言ってきた。


「ああ、ごめんよ。こっちはそれどころじゃ無かったから」


 一言謝り、長の方に向き直る。彼女も気付いたようで、気を引き締めたのが分かる。


「君達がそこから逃げ出す事は分かっていた。もっとも、予想していたよりは早かったがな」


「どうしてそう言い切れるんですか? 俺達が大人しくしている可能性もあったはずなのに」


 いかにこの場から逃げ出すか。それを考える時間をかせぐ為に会話をつなぐ。内容なんてどうでもよかった。


「君達の記憶を覗かせてもらった。君達の目的、今までの行動から未来は推測出来る」


「!?」


 しかし、直ぐに俺の思考は止められた。衝撃の事実によって。


 記憶を覗いた。つまり――


「君の右手は厄介だな。しかも、本人ですら扱いきれていない」


俺の隠していた事は全てバレたと言う事か。恥ずかしい思い出も全部。これはひどい。


 だが、分からない点もいくつかある。


「どうやって記憶を?」


 そうなのだ。人の心を読んだり記憶を覗いたりする力の存在など、そう簡単に信じられる物では無い。第一、方法があるかすら怪しい。と言うか日本には無かった。


「簡単な事だ。君も知っているだろう?」


「……スペル?」


「そうだ。君が物を消せる様に、記憶を読む力があっても可笑しくは無いだろう?」


 マジか? スペル何でも有りだな。


「まあ、驚くのも仕方無い。君はこの世界に来たばかりだからな」


 唖然とした顔の俺を見て長は言葉を続けた。そう言えば、長は全部知っているんだった。


「目的は何ですか?」


 逃げる事を知っていて待ち伏せしたのだ。何か目的があるに違いない。


「頼む。君達の旅にリクを連れて行ってくれないか」


「はい?」


 思わず聞き返した。予想を超えた話だった。


「リクにはこの里は狭すぎるんだ。それに、外の世界に興味を持つ年頃でもある。もう一度頼む。リクを君達と一緒に連れて行ってくれないか」


 今度は長の言葉の意味が分かった。しかし、里がどうのこうのだとか、そっちの事情はよく分からない。


「なあ、シャロ。どうしたらいい?」


「わ、私ですか!? ……私は、荒船さんの好きなようになさるべきだと思います」


 急に話をふられて一瞬慌てた様子を見せるも、最後は俺に一任してきた。君に聞いた俺が悪かったよ。


「取り敢えず、みんなで話し合いましょう。答えはそれから出します」


 結果的に、俺は先延ばしを選んだ。

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