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安全確認

「どうです? これで私が悪魔だと言う事を信じる気になりましたか?」


 暫くの間彼女の技を受けていた俺は、力無く頷くのがやっとだった。これじゃあ証拠になっていないと心の中で思うが、口に出す事など出来ない。


 てか、落ち込んだフリしてふいうちとか酷いだろ。まあ、可愛いから許すけど。


 それからなんとかして気を持ち直し、会話を再開させる。


「分かった。君の言動は全て信じよう。それはこれからも変わらないと約束する」


 何だか俺と彼女の力関係が入れ替わってしまったようだが気にすまい。女の子にイジメられるのなら許せるし。


「そうですか! それは良かったです。……最悪、洗脳する事になる可能性もありましたから」


 不吉な言葉も聞こえたが、空耳と言う事にしておく。恐らく、悪魔達の業界ではセンノウと呼ばれる偉い方々を招いての講習会があるのだろう。


「じゃあ、君が悪魔だと言う前提で、俺が星の何たらだと言う事も本当だとして話を進めようか」


 このままだらだらと話していては埒があかないと考えた俺は、適当にリードして会話を進めていく。


「昨日まで……、いや前回の十九日までか? もういい、面倒だ。昨日にしよう。昨日までは現れなかった君が、どうして今日になっていきなり現れたんだい? 無限ループが解消された訳じゃ無いんだろ?」



「は、はい。まだ時の流れが正された訳では無いです。今は我々悪魔の権限で、無理矢理この星に介入しているに過ぎません。……それから、昨日まで来られ無かった理由はですね、手続きに手間取ってしまったからでして……。それから、少々道にも迷ってしまいまして」


 途中から、ちょうど言い訳を始めた所から声を小さくした彼女は、最後には目を伏せ呟くようになった。


 つまりは、色々揉めていて対応が遅れたと。まあ、何故か知らんが責任の一端は俺にあるようだ。この町は都会から少し離れた準田舎に分類される土地(これは俺の勝手な分類)だから仕方無いと言えば仕方無いが。


「分かったから、そう落ち込むな。気にしてないから。で、俺はこれからどうしたらいいんだ?」


 実はこれが一番気になっていた事だ。基本的に、ファンタジーな物語の主人公には二種類のタイプがある。巻き込まれ型(別名首突っ込み型)と、シンデレラ型だ。前者は、強制イベントを含めて何かしらの事件などに関わる事によりファンタジーへと浸っていくタイプ。後者は初めからファンタジーの中にいて、何かのきっかけを本にして成長していくタイプ。だから何だと言われたら別に意味は無いと答えるしか無いが、俺の統計上そうなっている。


 そして、現在の俺の状況は明らかに巻き込まれ型だ。このタイプは非常に厄介で、次から次へと問題が起こる。更にシンデレラ型とは違い、主人公にバッドステータスが付く場合が多い。なので、早めに自分の置かれている状況を見極めて対策をとっていかなければならないのだ。


「はい。えーと、ですね。確か214ページに……」


 彼女も把握していない情報が所々あるのか、再び本のページをめくる。俺の所へ来た悪魔が彼女だと言う時点で、既に不幸なのかもしれないと密かに思う。


「ええと、ありました。あなた様にはまず、異世界――神の箱庭へと行って頂きます。こちらの世界である程度の準備が出来次第、出発したいと思っています」


 探していた情報が見つかったのか、そのページをしっかりと見ながら答えてくれた。


「なるほど、分かった。じゃあ、その異世界とやらの危険度は? 因みに、俺は運動は得意では無いからな」


 少し自分の中で考えた後、次の質問をする。これには直ぐ答えてくれた。


「危険度、と言う物がどれほどかは何とも言えませんが、この星――地球よりは危ないかもしれません。それから、あちらにはスペルと呼ばれる超能力のような物があるので、やっぱり危ないかもしれません」


 何とも微妙な回答だが、よしとしよう。危ない事は分かった。


「色々とありがとう。だいたい分かった。また何かあったら訊くよ」


 まあ、後は現地で情報収集すればいいだろう。取りあえずは動きやすい格好に着替えてからだな。今はパジャマ姿だし。


「直ぐに着替えて準備するから、そこで待っててくれ」


 女の子を部屋の外に追い出して着替えるのはどうかと考えた俺は、自分が外で支度する事にした。無駄にイベントを起こす必要も無いし。


 なので、俺の考え得る一番まともな服、高校の制服を手に取り部屋を出た。


 彼女に言った通り、五分もかけずに着替えを終えた俺は部屋に戻る。動きやすさは普通だが、温度調節機能はなかなかな制服のポケットにハンカチなどを突っ込み、支度が出来たと彼女に告げた。


 驚いたような顔を彼女は一瞬だけしたが、直ぐに元に戻って「では、行きましょう」と返してきた。


「ところで、どうやって行くんだ? ついでに聞くと、俺が向こうに行っている間こっちはどうなるんだ?」


 それを聞いてから、ふとわいてきた疑問を口にする。


「行き方は簡単です。道がありますから。それから、あちらの世界に行っている間こちらではこの“身代わり君”にあなたの代わりをして貰います」


「道って何?」


 身代わり君なる物にも興味がわいた俺だが、先に道について尋ねる。俺の安全に大きく関わるのは明らかにそちらだったからだ。


「えーと、道とはですね、『人や車の通る所。道路。物の通る所』です」


「いや、それは知ってる。俺が聞きたいのは、異世界に繋がってるような物がその辺に普通にあるのか、と言う事でだな」


「あぁ、なるほど、そうでしたか。でしたら、普通にありますよ。この星の人間はそれを認識する為の機能を持ち合わせていないだけで、道自体はどこにでもあります。後は通行証があれば、それに対応した世界に行く事が出来ます」


 ほう、また専門用語か。だいたい理解出来たが、やはり実際に行ってみなければ分からない事は多いな。


「じゃあ、最後に確認だ」


 これは念の為の確認だ。心配性な俺は何度でも確かめなければ気が済まない。


 彼女が頷いたのを見て続ける。


「まず一つ目。俺は異世界に行って時の王に会い、この不思議な現象を止める」


 格好付けて右手の人差し指を立てて言う。


「はい。そうです」


 すかさず彼女も返す。


「二つ目。俺が異世界にいる間もこっちに変化は無い」


 人差し指はそのままで、次は中指を立てる。


「はい。現状が維持されます」


 うん。いい答えだ。


「三つ目。俺はこれから君の事をシャロと呼ぶ」


 今度は薬指を立てる。これが最後の確認だ。


「は……い? え!? どう言う事ですか?」


 彼女は大分戸惑っているようだ。そんなあたふたしている姿も可愛い。俺は指を戻してから理由を説明する。


「“君”じゃあ他人行儀だし、“シャーロット”だと長くて面倒だからな。シャロが一番呼びやすい。まあ、嫌ならやめるけど」


「い、いえ。そんな事は無いです。ただ、今まで愛称で呼ばれた事が無かったので、少し戸惑っただけです」


「なら良かった。それから、俺の事は適当に呼んでくれていいから。――じゃ、行こうか」


 どうやら、シャロで呼び方は安定出来そうで良かった。準備は整ってるし、後は出発するだけだ。


「はい!! それでは出発しましょう、荒船さん」




 ……さてと、これ以上面倒事に巻き込まれずに終わるように祈るかな。

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