第一章 時の環
「じゃあ、切るわ。また暇があったら電話する」
昨日までと全く同じように、友人は別れの挨拶をした。俺は短く「じゃあな」とだけ返す。
今日もいつもと変わらない一日だった。
朝起きて朝食をとり、学校へ行って授業を受ける。放課後の数時間を友人とだらだら過ごし、家に帰って夕食を食べる。適当に風呂に入り、空いた時間はマンガかアニメかゲームの為に費やす。
本当に変わらない。
これは比喩表現などで無く、事実としてそうなのだ。
その事に気付いているのは俺だけかもしれないし、他に誰か気付いているのかもしれない。ただ俺が言えるのは、既に三十四回“十月十九日”を繰り返していると言う事だ。
何日かかけて確認した事だが、十月十九日の二十三時五十九分から十月十九日の零時へとつながるのだ。
俺の説明では意味が解らないかもしれないが、俺自身も焦りすぎて逆に冷静でいられるくらいの状況なのだ。俺の説明を聞いて混乱するのも仕方無いだろう。こればかりは、実際に体験した者同士でしか共感出来ない事だから。
初めの一週間――正確には七度繰り返した“十月十九日”だが――での検証結果から、周りの人はこの現象に気付いていないと分かった。そう判断する為の材料は、俺と周りの人との会話などから十分得られた。
これが俺が住む町の中だけの現象ならばそれはそれでいいが、携帯電話の電波が普通に届いて町の外に電話が繋がる事や、テレビ等のニュースでも特に騒ぎになっていない事から、これは地球規模の現象のようで俺以外は気付いていないと思われる。何とも不思議な感じだ。
また、一日の行動の大筋は同じだが、人々の言動などは数パターン有り、少しずつ変わることも知った。例えば、一昨日の夕食は肉じゃがだが昨日は麻婆豆腐といった風に、細かい事柄は変化する。それでも、食べることには変わりない訳だ。総合的にバランスが保たれている感じがする。
また、前日に行った事は次の日には持ち越されない。まあ、同じ日の繰り返しなのだから、どこかでリセットされるのは当たり前か。例外的に俺だけは記憶が蓄積されていくようだが、他は違うらしい。
とまあ、一通りの説明終わり。今日のシリアスパートはここまで。そんなことより俺は今、自室でパソコンに向かってアニメを見ているのである。
なれればこの生活も便利なもので、ある意味時間が無限にあるようなものだ。惜しむらくは、新作アニメやゲーム、マンガの続きはお預けだという事だろう。実に勿体無い。
そんな感じだから俺のヲタク化はハイスピードで進んでいく。
今も、ゆるいアニメを鑑賞しながらはにゃーんとしているのだ。
正直言って、もう駄目かもしれない。どのくらいかと言えば、燃え尽きるという単語を訊くと、それが高速脳内変換で萌え尽きるになるくらいだ。
もっと分かり易く言えば、目の前に変なコスプレした美少女が現れるくらいか。これがもう、幼めの体つきにロングの銀髪で、俺の好みの可愛い顔立ちだから余計にたちが悪い。
どうやら俺は、二次と三次の区別もつかなくなるほど浸っていたようだ。
「夜遅くに突然訪問してしまってすみません。玄関の鍵がかかっていたので、直接入らせて頂きました」
ほら、幻聴も聞こえてきたし。
「本日は、あなた様に是非聞いて頂きたい事があって参りました」
そう、突然だが俺は今日、本格的に痛い子になってしまったらしい。