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双竜戦記 〜砂漠のスリ師と竜の巫女〜  作者:
第一章 スリと空賊
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第一章 スリと空賊 ⑤

 隣の窓の窓枠は広めに作ってあり、男二人が立つのに充分なスペースがあった。


 カイルが到着するのを待ち、ストレンダーが窓の中を覗き込んだ。


「ここか?」


カイルが聞いた。


「いや、このもう一つ奥だ。隣の窓から侵入する」


「また綱渡りをするのか?」


カイルはうんざりした声を上げた。ストレンダーは答えない。鋭い視線を窓の中に送っている。


 ストレンダーの肩越しにカイルが覗くと、部屋の中には長机を隔てて二人の男が座っていた。話し合いに夢中になっているらしく、こちらには全く気づいていない。


 長机の奥に座っているのは高級そうな服を着た白い髭の男性、向かい合うのはふくよかな体格の商人らしき身なりの男だった。


「あの白い髭の男が、あんたの影武者か?」


カイルがストレンダーに視線を移して聞いた。


「ああ。向かいの男はララバマ、ケチな骨董商さ。法律ギリギリの商売を滞りなく行えるよう、領主様に賄賂を渡しにきたってところだな」


「あんたに、だろ?」


カイルがそう言うと、ストレンダーは笑った。


「だな。まあララバマはあの爺さんをストレンダー卿だと思ってる」


しばらく沈黙が続いた後、カイルが口を開く。


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?あんたが何者か。どうして王国の宝を盗む?どうしてあの公爵と組んでる?あんたも公爵も王国側の人間だろ?なのに・・・・・・」


ふいにストレンダーが振り返り、カイルを見た。その瞳は明るい日差しを受け、薄茶色に輝いている。


「仕事を済ませよう」


風が吹いたように清々しい声でそれだけ言うと、ストレンダーはプロペラを回収した。


 彼がもう一度プロペラを投げると、次に目指す窓までロープが張られた。二人は先ほどと同様にロープにぶら下がり渡っていった。


「さて、ここだ」


窓枠に足をつけ、ストレンダーが言った。


 カイルは窓の中を覗き込み、息を呑んだ。初めに目に飛び込んできたのは黄金だった。部屋中に置かれた、歴史も値打ちもありそうな美術品の数々が、窓から差し込む日を浴びて輝いている。黄金だけではない。飾られた絵画や刀剣、床の絨毯までもが、超がつくほどの高級品だとすぐにわかった。


「これを・・・・・・盗むのか」


「ああ、全部な」


「全部?」


カイルは目を丸くした。


「どうやって?すぐ隣の部屋に商人の男がいるんだぞ。廊下にはきっと警備兵が・・・・・・」


「ああ、わんさかいるよ」


ストレンダーは不敵な笑みを浮かべた。


「まかせろ、作戦がある」


そう言いながら、彼は窓の鍵の辺りをガチャガチャと弄り始めた。数秒後、軽快な音がして窓が開いた。


「お先にどうぞ」


促され、カイルはそっと部屋の中に入る。窓は部屋の天井近くについていたので、かなりの高さがある。慎重に床まで降りていった。


 ストレンダーはと言うと、ひとっ飛びで床に降りたが、なぜか猫のように物音一つ立てなかった。


「どうやったんだ?」


「慣れだよ」


カイルと目も合わせずそう答えると、ストレンダーは素早い身のこなしで部屋の奥へと向かい、廊下へ続くドアを数センチ開けた。


「大丈夫、近くには誰もいない」


ドアを閉め戻ってくると、ストレンダーはそう告げた。


「どうやって運び出す?」


「後で説明する。とりあえずこれで宝物をひとまとめにしてくれ」


カイルが渡されたのは一辺が三メートルほどもある大きな白い布だった。分厚く丈夫そうで、四隅に短く太い紐が取り付けられている。


「とりあえずこの布を床に敷いて、その上に宝をどんどん積んでいったらいいか?」


「それでいい」


「・・・・・・本当にうまくいくのかね」


カイルは独り言を漏らすと、ため息をついた。


 二人で取り掛かったら、作業は思いのほか早く済んだ。部屋中に散らばっていた美術品や調度品の数々は、今や広げられた布の上で一塊にされている。


「じゃあ、今から布を持ち上げて宝物を包んでいくぞ。角に紐がついてるだろ」


「ああ」


「その紐をてっぺんで結ぶ」


ストレンダーに指示された通りにすると、部屋の真ん中に巨大な巾着のような包みが完成した。


「もう一度結び目を確かめろ。いいか、絶対に解けないよう固く結べ」


ストレンダーの厳しい口調に不満を覚えつつも、カイルは何度か結び目を引っ張った。びくともしない。


「大丈夫だ」


「よし」


「・・・・・・で、これからどうする?宝をひとまとめにして終わりか?」


ストレンダーは答えず、窓のある壁の方に歩いていく。


「これじゃあただのお掃除さんだな」


カイルがまた独り言を呟く。


「おっ、来た来た」


ストレンダーが突然、嬉しそうに言った。何やら耳を澄ませているようだ。


 カイルもそれに倣い、耳を澄ます。しばらく集中していると、壁の向こうに微かにエンジン音が聞こえてきた。


「なんだ?」


そう呟いて、また耳を澄ます。エンジン音はどんどんこちらに近づいてくる。


 みるみる大きく、騒がしくなるエンジン音。ストレンダーは笑みを浮かべるだけで何も言わない。


 どういうことだ、とカイルが問いただそうとしたその時、突然ストレンダーが壁際から離れた。と同時に、耳をつんざく爆発音、体を震わす振動。カイルは自分が宙を舞っているのに気づく。そして次の瞬間、高級で古い絨毯の上に背中を激しく打ち付けた。

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