表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双竜戦記 〜砂漠のスリ師と竜の巫女〜  作者:
第一章 スリと空賊
5/7

第一章 スリと空賊 ④

 いつ見ても壮観だ。宮殿の執務室に通されたララバマは、そんなことを考えていた。


 金と瑠璃色を基調とした装飾に、荘厳な天井画。壁に直接描き込まれた絵画は、美しい砂漠のオアシスの周りに色とりどりの鳥や蝶、優美な動物たちが憩う様子を描いたものだ。


 この執務室に何度か商談で訪れたことのあるララバマも、改めてため息が出るほど見惚れてしまっていた。


 ガチャリと奥のドアが開く音がして、白い髭を蓄えた壮年の男性が部屋に入ってきた。薄手で簡素だが、上質な紫のシャツを着ている。灼熱のこの地方伝統の、胸元が大きく開いたシャツだ。


「お待たせして申し訳ない」


男性が威厳のある声で言った。


「いえ、滅相もない。お久しぶりですストレンダー卿」


ララバマがそう言って頭を下げた。


「気楽にしてくれ。以前君から買った壺だが、実にこの部屋に合ってね、気に入っているよ」


ストレンダー卿は、高級そうな長机の横に飾られた褐色の壺に手をかけながら言った。


「光栄でございます」


気楽に、と言われたが、ララバマはまた仰々しく頭を下げた。


「さて、今日はどんな逸品を持ってきてくれたのかな?」


ストレンダー卿はそう言うと、ララバマにソファに座るよう促し、自身は長机の前に置かれた椅子に座った。


「今回もご納得いただける品ばかりです。目録をお持ちしました。気になるものがあれば、外で待たせている従者にここまで運ばせます。何なりとお申し付けくださいませ」


それを聞いたストレンダー卿は満足げな顔で鼻を鳴らした。


 廊下で商談が終わるのを待っているノリスは、あくびが出そうになり、急いで噛み殺した。


 上司のララバマは今朝からものすごい張り切りようで、まだ日が登る前に砂漠に張ったキャンプを畳み、隊列を出発させた。要するに、ノリスは寝不足だったのだ。


 周囲に人がいないことを確認してから伸びをしたノリスは、ふと窓の外に目をやった。そして、目を丸くする。


 窓の外に、ロープを掴んで壁をよじ登る男が二人いたのだ。一人は十五歳くらいの少年、もう一人は顎ひげを生やした三十代後半くらいの男だ。二人ともノリスの視線には気づいていない。


 ノリスはしばらく固まっていたが、我に返り、周囲を見回す。辺りには誰もいなかった。ノリスは急いで執務室に向かった。



「いくらなんでも高すぎるだろ」


これまで登ってきた壁を見下ろして、カイルが言った。


「ん?なんか言ったか?」


ストレンダーに聞かれ、カイルはまた自分が独り言を言っていたことに気づく。


「なんでもない」


急いで取り繕う。


 壁をひたすら垂直に登り続け、二十メートルほどの高さまでやってきたが、光沢のある壁に反射した太陽が至近距離から身を焦がし、カイルはすっかり汗だくになっていた。時折吹く風が体を冷やしてくれたが、下を見ると思わず足がすくんだ。


「お目当ての階についたぞ」


ストレンダーが涼しい声で言う。


「ここからは横に移動する」


「横って、どうやって?」


今はちょうど二階の窓枠に足を乗せて休憩しているが、見たところ、隣の窓まではそれなりに距離がある。壁を縦に登るならわかるが、横に移動などできるのかと、カイルは疑問に思った。


「おいおい、あんた盗賊だろ。まさか横移動したことないのかよ」


ストレンダーが呆れたように言う。


「常識みたいに言うな。大体横移動ってなんだよ、そんな言葉ないだろ」


カイルは不機嫌そうに返す。


「いや常識だろ、横移動は」


ストレンダーは独り言のように呟くと、懐から何か取り出した。


 それは、奇妙な金属の物体だった。どうやらそれは、手のひら大のプロペラのようだ。同じ形のものが二つで、それぞれのプロペラの中央に短い突起があり、そこにくくり付けられたロープがプロペラ同士を結んでいる。


 ストレンダーがそれを空中に放り投げる。あっ、と思わずカイルが声を漏らした次の瞬間、プロペラは空中で素早く回転して、その場に滞空した。二つのプロペラが宙に留まり、間のロープが弛んでカーブを描いている。


「これは一体・・・・・・」


「すぐにわかるよ」


ストレンダーが落ち着いて言った。


 片方のプロペラが急に速度を上げて飛んでいき、隣の窓の前で止まった。もう片方のプロペラは、二人が休んでいる窓枠のすぐ近くまで飛んできた。二つのプロペラが離れたことで、ロープがピンと張られた。


「今から、このロープを伝って向こうの窓まで行く」


「冗談だろ?」


カイルはまた声を張っていた。


「こんな小さいプロペラに体重を預けるのか?ロープに掴まった途端落っこちるだろ!」


「これは特注品なんだ。人間二人の体重くらい、余裕で支えて飛び続けられる」


カイルが疑うような視線を向けていると、ストレンダーが目の前でピンと張られたロープを掴んだ。


「じゃあ見てな」


ストレンダーはそう言うと、ロープを両手で掴んで窓枠から足を離した。彼は両足もロープに絡ませ、背中を下にしてぶら下がるような格好になった。


 大の男がロープにしがみついているにも関わらず、それを支えるプロペラは揺れることもなく空中に留まっている。ストレンダーの言う通りだった。


「さ、とっとと済ませよう」


ストレンダーはカイルをちらりと見てそう言うと、ぐんぐんとロープを伝って移動を始めた。


 カイルも恐る恐る、ロープに飛び移る。一瞬、ロープが少し揺れたが、やはりプロペラはびくともしない。


 ストレンダーの引き締まった尻を見ながら、カイルは慎重にロープを渡っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ