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双竜戦記 〜砂漠のスリ師と竜の巫女〜  作者:
第一章 スリと空賊
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第一章 スリと空賊 ①

 広大な砂漠。晴れ渡った青空には、雲一つない。


 乾いた大気の中を、ラクダに乗った行商の隊列が往く。容赦なくぎらつく日差しが、彼らの影を砂原に焼き付ける。


 隊列の先頭に立つ男は、ラクダの背で体を揺らしながら、水袋を取り出し口に含んだ。だが、飲んだ分だけすぐさま汗となり、灼熱の地表に垂れ落ちていく。


 そうまでしても、この砂漠を往く価値が、彼らにはあった。目指すは『ディグラダード』。砂の都、黄金のオアシスなどとも称される交易都市だ。王都からは遠く離れ、数千キロに及ぶ砂漠地帯の只中にあるが、古くから砂漠を通る全ての交易路の集う中心地として発展してきた。


 水袋を懐にしまった男は、後ろに長く続く隊列に向かって声を張り上げた。


「着いたぞ!ディグラダードだ!」


隊列が登ってきた砂丘の向こうに、突如として巨大な壁が現れた。それは円形に広がり、街全体を囲んでいた。


「こいつぁ高い壁でさぁ、噂通りだ」


隊列の二番目の男が言った。


「ああ、高いだけじゃない、分厚さも大したもんだ。大砲を撃ち込んでも穴が開かないらしい」


先頭の男が答える。


「へえ、大砲でも」


「まあ当然だな。ここいらはひどい砂嵐がしょっちゅう来る。それにな、ここは国中の物と人が集まって来る。てことは金も集まるってことだ。噂じゃ王都より富んでるって話だ」


「そいつぁすげえや」


「だろ。だからいろんな奴がこの街を狙ってる。この黄金のオアシスをな」


「確かに、この壁があっちゃ誰も金を盗もうなんて思わねえわな」


「そういうことだ。ここの検問は厳しいから武器の持ち込みもできないしな」


先頭でそんな会話を交わしながら、商隊は都の入り口へと向かう。


 壁の周囲は人工的に作られた堀が囲んでおり、美しい熱帯魚が群をなして泳いでいる。だがそれだけではない。所々に大木のようなものが浮いている。それは、ワニだった。七メートルはあろうかという巨体を水面下に隠し、哀れな獲物が落ちて来るのを静かに待っている。その上に、立派な梁を備えた木製の橋がかかっている。東西南北にそれぞれある橋は、横幅五十メートルを超え、この街の玄関口になっている。行商が文字通り列をなして行き交う様は壮観だが、彼らは例外なく、警備兵の厳しい検問を受ける。武器の不所持、通行証の確認などを経て、初めてその敷居をくぐることができるのだ。


 先程の行商の隊列も橋を渡り、街へ続く巨大な門の前までやってきていた。


「骨董商のララバマでございます」


警備兵に止められ、隊列の先頭の男が愛想よく言った。


「通行証は?」


警備兵が厳しい口調で言った。黄金の制服に身を包み、白いターバンで口元を隠している。腰のベルトには剣とリボルバー銃を携帯している。


「もちろんあります。ほれ、ノリス!」


ララバマに呼ばれ、隊列の二番目の男が躍り出た。


「へえ、これでごぜぇやす」


ノリスはうやうやしく頭を下げると、通行証を差し出した。


 警備兵はサッと目を通すとノリスに通行証を突き返し、腕を上げて門をくぐるよう示した。


「ありがとうございます」


ララバマは頭を下げると、隊列に呼びかけ、先を進んだ。


「感じのわりぃやつですね」


門をくぐりながら、ノリスが小声で言った。


「警備兵はどいつもあんなもんよ。こっちが下に出ておだてときゃいい」


ララバマはそう言うと、前方を指し示して続けた。


「そんなことより、あれを見ろ。まさにオアシスよ」


「わあ、こいつはすげぇや」


ノリスが感嘆の声を上げた。


 門をくぐり、壁を抜けた先には、巨大な噴水がそびえていた。砂漠の真ん中とは思えない水量が絶えず流れ続けており、四段ある噴水の全てから噴き出した水は、日差しを反射して宝石のように輝いている。


 その先には横はばの広いメインストリートが長く真っすぐに伸びていた。そこかしこで行商人が市を出しており、色とりどりの絹や古めかしい壺、香辛料が食欲をそそる屋台料理や、見たこともない動物や植物までもが売りに出されている。


 道の両側には土壁の建物が敷き詰められたように建ち並び、その後ろ、そのまた後ろ、どこまでも同じような建物が続いていた。


「なんて街だ!こんな景色見たことねぇ!」


ノリスが目を輝かせる。


 どの街角にも露天商や踊り子の見せ物小屋が広がり、細い路地を覗いてみても、子どもたちが楽しそうな声を張り上げ走り回っている。


「こいつぁ本当に王都以上かもしれねぇ」


それを聞いて、ララバマが笑った。


「おいおい、そんな様子じゃ、アレを見たら腰を抜かしちまうんじゃないか?」


「アレって何ですかい?」


ノリスが不思議そうに聞く。


「そのうちわかるよ」


ララバマは含み笑いを浮かべると、黙ってしまった。


 商隊がしばらく進んでいくと、やがて一つの建物が姿を現した。


「なんでぃ、あれは・・・・・・」


ノリスが言葉を失うのも当然だった。その建物は、瑠璃色に輝く巨大な宮殿だった。ドーム型の外壁に雫のような湾曲した屋根が乗っている。壁から屋根に至るまで光沢があり、日差しを浴びて美しく輝いている。ところどころ砂漠地方の伝統的な模様で装飾され、装飾はどれも純金だった。


「言っただろ、アレを見たら腰を抜かすって」


ララバマがしたり顔で言った。


「あそこが俺たちの目的地、メルサール宮殿だ。王都から派遣された領主の館さ」


「領主の館にしちゃ、えらく派手じゃありやせんか?」


「当然だ。言っただろ、ディグラダードは王都と同じくらい、もしくはそれ以上に富んでる。そんな街の領主なんだ、王族級の扱いと権限を受けてるんだよ。実質、この国は王都が二つあるようなもんだな」


 ララバマの商隊はメインストリートを進み続け、やがて宮殿に辿り着いた。


 宮殿の内部は、その外見以上に壮観だった。高い天井のエントランスの床は大理石で、屋内にも関わらず清らかな川が流れていた。壁際には階段があり、吹き抜けの上部にある渡り廊下に続いていた。


「階段を上がった先が、領主の執務室だ。今回の商談相手さ」


ララバマはエントランスを横切りながら、慣れた様子で言った。


「あれは何ですかい?」


興味津々という様子で辺りを見回していたノリスが、天井を指差して言った。


「ああ、天井画か。あれはこの国の神話を描いたもんだ。なんでも、国一番の神話画家が手掛けたらしい。値段がつけられない代物だ」


「へえ・・・・・・」


ノリスは口をぽかんと開けて天井を見上げていた。


 天井に描かれていたのは、空を見上げ、笛を吹き鳴らす少女と、それを取り囲む何百人もの群衆。そして、天から舞い降りる朱い鱗のドラゴンだった。

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