41話 大ぼら大会
「ルシウスと、我が娘のルシアは、まだ幼いながらも深く愛し合っているのです!そんな二人に胸を打たれた私は……私は……そう!近い将来、ルシウス自身の特有財産と、この私めが営む事業の収益で彼を買い取り、自由民として解放し、私の娘の婿に迎えることを願い出……すでに我が庇護者であるマルクス様にもご承諾いただいているのです!!そこまでようやくルシウスがたどり着いたのにもかかわらず、今、二人を引き離すのは……あまりに酷でございますぅっ!!!」
【本人蚊帳の外】偉い人に拉致されそうになったらなんか俺主役のラブストーリーが始まってた件【ヒロイン不在】
もしここが21世紀日本だったらスマホいじりながらSNSにポスト投稿してたと思う。
そんなことを考えながら、突然大ぼらを吹き始めたデキムスさんを眺める。
その手は震えており、手もわなわなしている。
マルクス様の方を見る。
目を見開きながらわなわなと震えている。
多分こっちの震えはブチギレの方だろう。
丁度プッさんの死角になっていることが分かっているのか、デキムスさんの方向いて青筋を立ている。
なんかさっきアイコンタクトしてたから、俺がクピードーごっこのために宴の前の準備として、公共浴場に入りに行ってる時に事前に何か示し合わせでもしていたのかと感心したのだが、完全にデキムスさんの独断専行っぽい。
マジかデキムスさん。
こんな時に良い嘘言えんじゃんデキムスさん。
正直見直した。
デキムスさんの大ぼらは俺にとっては願ってもない流れだ。
すくなくとも、暴走機関車相手に大立ち回りしなければいけないミセヌム拉致ルートの万倍良い。
というかうまく回せればゴール見えるんじゃね?
さて、プッさんの反応はどうだろう。
「なんと……」
デキムスさんの大ぼらに、プッさんは驚き目を見開いていた。
「友ルシウス、それは真実か?お前には、それほどまでに想い合う乙女がいるというのか?」
プッさんが確認してくる。
とりあえず無言でうなずいておこう。
「ほう……!友ルシウスよ。お前は知への情熱だけでなく、愛の情熱も持っているというのか。お前という奴は、どこまですばらしいのだ。……ならばその娘も一緒でもよいぞ。それならば問題はないだろう」
どうしてもミセヌムに俺を連れていきたい様子のプッさん、うなずいた俺に妥協案を提示してくる。
いや、ミセヌム行きたくないんで大問題ですね。
なので、デキムスさんに倣って俺も大ぼらを吹くことにする。
「ご高配いただき恐縮にございます。しかし、愛への誓いはそれでよいのかもしれません……しかし、閣下が僕の代金を払ってしまっては、僕が、我が主、マルクス様への恩を返せなくなってしまいます」
「私が払うと言っているのだ。ルクレティウス殿への恩は返せているではないか」
「それは我が主、マルクス様が僕を売った対価を得ただけです。僕が我が主、マルクス様への恩義を返したことにはなりませぬ。僕が、マルクス様に、将来義父となるデキムス殿と共に、自らの代金をお支払いすることで、はじめてマルクス様への恩義をお返しすることができたと言えるのです。そしてこれは、漠然とした約束ではなく、額も、もう決まっているのです」
「むむむ……」
はっきり言って詭弁もいいところだが、酔いが回っているためかプッさんは一理あると思ってくれたようだ。
「そして、そのために僕は、ミネルヴァ様から授かった知識を用い、近い将来義父となるであろう想い人ルシアの父デキムスの商会を盛り上げようと志したのです。そしてそんな僕を見て、我が主マルクス様は、ルシアの父デキムスの庇護者となってくださったばかりか、僕の才を使って入る収入を僕の特有財産とすることまで認めてくださったのです」
なので、あれ?おかしくね?と思われる前に勢いで押し切るために追加で畳みかける。
ついでにどさくさに紛れて俺の稼ぎが俺の物になるように既成事実も作る。
「うむぅ……」
そしてそれに対してプッさんは、唸りながらなんとか反論しようとし……いい反論が思い浮かばなかったようで、すこしして残念そうに肩を落とした。
「愛する少女、解放に協力してくれる将来の義父、そして主人への忠義、愛と恩のあるすべての人のために、その知恵を絞っていたわけか。……そこに私が無理に入ってしまっては、確かにお前の思いを踏みにじってしまうことになるな……。惜しい……実に惜しいが……そこまでの覚悟をわが友ルシウスが決めているのであれば、友としてその思いを邪魔するわけにはいかぬな……」
そう言って残念そうな顔を上げ、今度はプッさんはマルクス様に向き直る。
「ルクレティウス殿!貴殿も素晴らしい!奴隷の恋路を温かく見守り、自立の道まで整えてやるとは!」
なんかプッさんの中でマルクス様の評価が急上昇しているようだ。
酔っ払いは感情の振れ幅が大きいからな。
「あ……え―――……えぇ!貴族たるものの、高貴な義務と心得ておりますれば!」
プッさんの言葉に少し答えあぐねるような表情を見せた後に、きりっとした表情になり、それを肯定するマルクス様。
たぶん、なんかいい話にまとまりつつある方に乗った方が良いという算段をつけたのだろう。
「然り!貴族たるもの才覚あるものを引き上げる事もまたその責務の一つ。すまない!正直私は貴殿のことを、才を腐らすローマ本国にはびこる馬鹿どもと同一視していた!私は、私は自分が恥ずかしい!!貴殿のような高潔な人物が、ルシウスの才能を腐らせるはずがなかったのだ!」
「過ちは誰にでもございます閣下。そう、うん、そうお気になさらず!」
プッさんの賛美の言葉に居た堪れなくなったのか、右手を差し出して話を打ち切ろうとするマルクス様。
「これは私の本心だ!貴殿のようなものが次代の皇室を支えていってくれるのであれば、これほど心強いことはない!もしローマ本国の政治に興味があるならば、ぜひ言ってくれ」
そんなマルクス様が差し出した手を強く握り返し、そのまま抱擁してマルクス様を称えるプッさん。
ここだけ切り取るといいシーンなんだが、冷静に考えると偉い人が酔っ払って家の財産持って帰ろうとしたのをみんなで止めてる構図なんだよなこれ……。
「はぇ!?あ、は、はい。そ、それはまた後日」
マルクス様も、多分望んでいた成果が得られてうれしいのだろうが、それはそれとして想定外の大ぼら話がプッさんからの信頼を得た部分なので凄くばつの悪い顔をしている。
そんな中、一人いい気分のプッさんは次の爆弾を投げ込んできた。
「して……これは完全に興味本位なのだが……いったいルクレティウス殿は、わが友ルシウスの価値をいくらとしたのだ?」




