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奴隷スタートの古代ローマ転生で成り上がりRTA(実質強制)  作者: 九束


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17話 お礼という名のデートリテイク(前編)

早いもので12月も中盤。


カンパニア地方の温暖な気候をもってしても朝晩の冷え込みは肌を刺すようになる。


ヴェスヴィオ山の頂にはうっすらと雪化粧が見え、吹き下ろす北風が石畳の路地を吹き抜けていく。


だが、そんなその寒さを吹き飛ばすような熱気が今のポンペイには満ちている。

もうすぐ農神祭(サトゥルナリア)が始まるからだ。


そんな街の様子を眺めながら円形劇場の前、待ち合わせ場所の柱に寄りかかって人を待っている。


「ルシウス君、おまたせ!」


そんな俺にかけられる元気な声。

顔を上げると声の主、待ち合わせ相手のルシアが元気に駆け寄ってきた。


「どうかな?どうかな?」


ひらひらと淡いローズ色のパッラ(外衣)をはためかせながら今日の服装についてさっそく感想を求めてくるルシア。


「……随分と立派な服装だなぁ。パッラと重ね着の黄色いトゥニカの組み合わせはルシアに似合ってるね」


とりあえず当たり障りのない賛美を口にしながら初めてルシアに会った時との服装のレベル差に内心びっくりする。


初めて会った頃の彼女は、くすんだ茶色の麻のトゥニカ一枚で、いかにもその日暮らしの行商人の娘といった風体だった。


だが今日の彼女はまるで別人の装い。


下ろしたてと思われる目の詰まったウールで作られた白と黄色の冬用トゥニカを重ね着し、その上から少ないながらも繊細な刺繍が入った淡いローズ色のパッラ(外衣)をふわりと羽織っている。


髪こそ結い上げていないものの、その見た目はそこそこいいところの令嬢と謙遜ない。


「へへん、いいでしょ!お父ちゃ……お父様からリバーシ発明のご褒美として服を新調してもらったの!」


ルシアはパッラの裾を広げて、その場でくるりと一回転してみせた。


ひらりと舞う布地からは、微かに香油の甘い匂いがした。


生活水準が上がった証拠だ。


俺の行動でほかの人の生活が良くなっているのは心地が良いものがある。


「あ、でもでも!ちゃんと今日のデートようのお金も確保してるから安心してね!今日はお礼なんだから!」


なんか暖かい気分になって目を細めていた俺を、デートの予算はあるのか心配していると取り違えたのか、ルシアは両手をぱたぱたさせながら補足してくる。


そう、今日はリバーシの受注で特に何のデメリットもなくメリットのみ身を得たルシアから、お礼として色々奢ってもらうという名目でルシアとのデートをすることになっている。


なお、前回のデート(?)が完全に商品開発と初期リサーチとしてデートっぽくなかったことが原因か、ルートの決定権は俺にない。


円形劇場の前での待ち合わせになっているのもルシア指定だったりする。


さしずめデート(リテイク)といったところか。


「それは安心。俺もマルクス様からいくらかご褒美としお小遣い(ペクリム)は貰ったけど、今そんなに手持ちはないし」


そう言いながら俺は首から下げた袋をじゃらじゃらさせる。


ちなみに、実は俺の格好も以前とは比べ物にならないほど良くなっている。


最近の俺はリバーシの共同発明者としてルクレティアお嬢様主催のお茶会や他家の昼食会などによく連れていかれ、いい感じに手加減ができることもあり、さながらご令嬢や奥方様たちから対戦AI扱いをされている。


そうすると上流階級のご令嬢や奥方様と正面から相対する姿勢に当然なるわけで、仕立ては良いとはいえ今までの普通のトゥニカでは、主家であるルクレティウス・フロント家の恥になる。


というか普通に相手へのスゴイシツレイになってしまい最悪の場合諍い(いさかい)の種になる。


そんなことになれば俺を引っ張り出している意味がなくなり本末転倒。


そんなわけで上流階級に相対しても恥ずかしくない程度に、俺にも厚手の染色羊毛でできた暖かく見栄えのするトゥニカとパエヌラ(マント風コート)が与えられていた。



そんな数か月で一気に装いが上がった俺とルシア。


こうして2人並んで歩いていると、奴隷と商人の娘というよりはちょっとした良家の子息令嬢のデートに見えなくもない。



「さあ、行こルシウス君! オススメのお店、いっぱい紹介してあげる!」


そう言うとルシアは俺の手を握ってくる。


「おぉ~楽しみ」


俺もルシアの手を握り返しスタビア通りへ足を進めた。




通りは祭りの準備でごった返している。


家の軒先には杉の枝や月桂樹が飾られ、あちこちの露店からは香ばしい匂いが漂ってくる。


奴隷も主人も関係なく無礼講で騒げるサトゥルナリア祭はローマ人にとって一年で最も待ち遠しいイベントだ。


ここポンペイでもそれは同じ、どこも気合の入り方が違う。


「あ! あそこの屋台、『グロビ』売ってるよ! 食べよう!」


ルシアが指差した先には揚げ菓子を売る屋台が湯気を立てている。


「いいね。美味しそう」


グロビとは小麦粉とチーズを混ぜて団子にし油で揚げてハチミツとケシの実をまぶした定番お菓子だ。


ハチミツをたらしていることからわかる通り、食べ歩きの食べ物としては高級な部類に入る。


「おじちゃん、6つちょうだい!大きいの!」


「あいよ、1アスね」


「はい1アス!」


ルシアが自分の小袋から銅貨を取り出して支払う。


「まいど!あいよ、お嬢ちゃん!」


何かの葉っぱ(多分キャベツ)に包まれた渡された熱々のグロビを、二人でハフハフと言いながら齧り付く。


カリッとした表面と熱々のチーズと一体化した生地の対比が最高だ。

口の中で表面にかけられた蜂蜜と合わさって口の中に何とも言えないうま味が広がっていく。


「ん~っ! 甘い! 熱い!」


口の端に蜂蜜をつけたまま笑うルシア。


「美味い~……冬空の下で食うと格別だね」


そんなルシアを見て俺もつられて笑う。


「――でもこれ麦の蜜(水あめ)で果物つけたシロップに替えたらもっとおいしいかも。ルシウス君どう思う?」


「まだ工房もできてないのにもう販路拡大の準備?ルシアは商魂たくましいなぁ」


そんな話をしつつ、俺たちはそのまま食べ歩きをしながら、毛織物ギルドの建物(エウマキア館)の脇を通る大通りへと足を向けた。



「ねえルシウス君、聞いてよ。最近、うちの食卓がすごいの」


3つ目のグロビを頬張りながら、フォロ(広場)に向かう通りを歩きながらルシアが目を輝かせて語り始めた。


「今までお肉なんてお祭りの時くらいしか出なかったのに昨日はスープに豚肉が入ってたの!しかも味付けは塩じゃなくてガルム!」


「へえ、そりゃすごい(トン汁?)」


「それにね、お母ちゃ……お母様も新しい服を買ってもらってたし、家の家具も最初は数えるほどしかなかったのにどんどん増えてるの。リバーシって儲かるのね!」


無邪気に喜ぶルシア。


しかしそんなルシアの言葉を聞きながら俺は少し不安になる。


どっかで聞いたことがある話だ。


具体的には前世、資金調達に成功したり急に売上が増加したベンチャーとかの界隈で。

ほら、資金調達した直後にでかいパーティを開いたりとか、急に売上跳ねた社長が高級車買ったりしちゃうあれ。


我が家(ルクレティウス家)分の受注は既に納品し、まとまった金額がデキムスさんの懐に入っているとはいえ、積みあがっている受注量を推測するに資金繰りは火の車のはずだ。


なんせ大理石やローマンガラスを使う高級版数セットの原価だけでも麦の蜜(水あめ)工房の準備資金が吹き飛ぶのだ。


それなのにちょっと羽振りが良すぎないか?


確かに相手をする層に見くびられないための装いは必要だし、それに必要な出費はあるだろうけど、麦の蜜(水あめ)工房設立の準備は大丈夫なのか?


「……急激に生活が変わって怖くない?」


「全然!」


即答するルシア。


肝が太い。


「だってお父ちゃん忙しそうだけどすっごく楽しそうだもん。それにお父ちゃ……お父様もルシウス君がついてるなら大丈夫だって言ってるし!」


そこはフェリクスのおっちゃんじゃないか?

今のデキムスさんのケツ持ちは実質的にフェリクスのおっちゃんなんだけど……。


というか、俺に依存しつつあるという意味では目論見通りなんだが、ちょっと今のデキムスさん危ないな。


周りが見えてないって言うか、目の前に積みあがる利益でちょっと目がくらんで足元おそろかな気配がする。


「あ、フォロ(広場)の露店、もういつもより多いよ!早く行こう」


「あ、うん」


ルシアからもたらされる情報に一抹の不安を感じる俺をよそに、ルシアは軽い足取りでフォロ(広場)へ俺の手を引いていった。

二人のデートコース(GOOGLE MAP)

https://maps.app.goo.gl/1wwLQzjiWWwGRQ958

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順調に見えてタイムリミット考えると全然時間足りなくてやばいの笑
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