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ロマンチスト

作者: しろかえで

今日はビターなしろかえでです。

 あの人が“帯広”へ収監されたのは、やはり仕方のない事だとは思う。

 相手がどんな悪人であったとしても“人”である以上、それを殺めた挙句に逃げてしまったあの人の罪は重い。

 逃げてどうなる物でも無いのに……


 なぜ逃げてしまったのか?

 やはり刑務所に入るのが怖かったから?

 自分の犯した罪と向き合うのが怖かったから?


 私が知っているあの人は“流れ者”になってからのあの人だけど……

 あの人の全身から滲み出る“漢気”に……息子の崇は憧れを抱き、私は……夫を亡くしてから固く封じ込めていた筈の“女”を揺り動かされた。


 そんな“漢気”を持ったあの人が……こんな“恐れ”を抱くなんて……


 この事で息子はあの人に対して失望してしまうかもしれないから……


「オジさんがすぐに自首しなかったのは……オジさんの奥さんが自殺してしまった理由を報道されたくなかったからよ」と言い含めてあるけど……


 あの人が“恐れ”を抱いていたとしたら……私は堪らなく不憫に思う。

 そして彼が自首する前に……この胸に抱いてあげられなかった事が、とても悲しい。


 あの人との面会は……裁判未決の時は、「“自分”の様な犯罪者と関わってはいけない!!」と頑なに断られたし、裁判既決になってしまってはもう親族しか面会はできないから……彼とは内縁関係ですらない私は諦めるしかなかった。

 でも何度も何度も手紙を書き、差し入れをしたお礼状があの人から送られて来て、ようやく文通が始まった。

 それから3年と5カ月。

 彼から4月末に出所する予定との手紙が来た。

 そこには

『出所したら足寄のあなたのご自宅へ向かいます。 ただ、私は本当にあなたの家へ行って良いものか今も迷っています。もしあなたが私を許して下さるのでしたら……5年前のあの頃と同じ様に、崇君の鯉のぼりを揚げておいて下さい。 鯉のぼりが玄関先に無ければ、私はそのまま足寄を離れ、あなた方の前にもう二度と現れません』と書かれてあった。


 もし私が()の女なら……そもそもあの人に手紙すら出さなかったかもしれない。

 それほどまでに世間の人々の目は過酷で……人の口に戸は立てられないものだから……


 だけど私は農地と息子だけしか残して貰えなかった未亡人で……色んな意味で“男手”は必要なのだ!


 いくら世間の目に迎合しても私達親子のお腹は満たされないし、私のオンナも満たされない。

 彼は刑務作業でしっかりと農業を身に着けたのだし、その腕は今も太く、胸もきっと厚いのだろう。

 だから私は……

 もう長い事しまっていた鯉のぼりを押し入れから出した。


 男は斯様に観念のロマンチストだが、女は感情だけは無く()()のロマンチストでもあるのだから。



 

                             おしまい





黒姉の作品の様ですが、ちゃんと“しろかえで”作です!(*^^)v



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