第七話 君は目を逸らしたのさ
「さぁ行こうかサイトウ君。初心な君を連れてくには少々下品な町に、賊はいる。」
車や銀鉄?と呼ばれる物を乗り継いで、エル−バファンデットに付いて行った。
外の景色は少しずつ荒廃していって、建物も減っていく。斜めに傾き半分が変色した看板には町の名前が記されていた。
アイゴウ
少し離れれば建物一つ無くなるような場所にチグハグな素材で作られた不安定な建物が並ぶ町。
エルが僕を奥へと案内してくれる。町に入ると生臭い異臭にびっくりする。異臭に困惑していたらエルが僕に話しかけてきた。
「ここは昔から風俗が有名でね。よく色恋商売はアイゴウの花なんて呼ばれている位だ。臭いのが分かるが慣れるしかない。あと、離れないでくれよ。見失うと面倒だ。」
少し低い声で忠告してきた。初対面のわけわくらなさが減り、真面目な顔をしている。不気味だ。
そこら中で瓶の様なものが割れているのか、パリン!と頻繁に鳴っている。道の際には小汚い人々がどんよりとした空気を生み出している。
エルが店に入っていく。僕が不安になってきたのを感じたのかエルがこっちを見て小さな声で
「大丈夫だ。静かにそこの棚の裏に隠れていてくれ。」
ギチギチ鳴っているドアをエルが開けると、
「やぁ、久しいね。イヤーナ。」
軋む床を鳴らしながら一人の女性が歩いてきた。
「久しぶりね。エル君。その顔をまた見れて嬉しいわ。」
挨拶を交わし合うエルとイヤーナ?の声は抑揚がなく、イヤーナ?の方は虚ろな目をしている。
苦しそうに咳をしていて、体は痩せ細っている。
「で?何をしにきたのよエル君。挨拶だけなんて無いわよね。」
「馴れ合いは止めようか。イヤーナ。純粋さをアピールするにしても相手は選ぶべきだろう?」
「……そうかしら。裏切ったくせによくもまぁその顔が出来るものね。尊敬するわ。」
突然イヤーナ?の周りが重苦しい空気に包まれる。
「まぁピリピリするな。別に大した事もない。ただ、あのスーツを返して欲しくてね。」
「…金額は?」
タバコの様な物をイヤーナ?が吸い始める。
「2000IBCだ。大体そんなもんだろう?」
「そんなに生きてほしいのね。あの訪問者に。どんな影響を受ければ自殺志願者が他人に施しを与えるのか。まぁいいわ。文句はない。取引成立ね。また生きてれば会いましょう。」
暗くて見えにくかった奥の方にある透明のケースが開き、灰色の人形が出てきた。その人形はおそらくさっき話ていたスーツを着ている。スーツ?は黒に近い灰色をしている。
スーツは怪しく光りだした。
真っ白な場所。不自然なまでに角張った部屋の様だ。
いつまにかあのスーツを着ている。全身がまるで大きくなった様な感覚だ。動きにくいなんてことは無いが、しかし違和感は残る。
次に目を覚ました時またあの場所へ戻っていた。
「大丈夫か!?」
エル…?
ガタガタと物音がする。なんだろう?
「応急処置…ってどうしろと?」
「適応テストも無しで強化スーツ着るやつの治療なんてなんでしなきゃ行けないのよ。あんたもこいつも自殺が趣味だったりするわけ?」
「…ったく、耳が痛いな。まぁ取り敢えず脱がしてみるか…。」
スーツをロック。マスターの応答を待ちます。
「このスーツどうやって脱がせばいいんだ?」
「そら〜……こうやってこうやって…ぇ…。」
「………どうすればいいんだ…。」
マスターの意識回復を確認。
スーツのロック解除の指示を待ちます。
体は動く。機械的な音が動きに合わせて鳴る。
「…サイトウ君!大丈夫かい?はぁ、まったく突然強化スーツを着るなんて…。」
ここでエルは焦った顔から元に戻り、
「まぁいいか。とりあえず無事で何よりだ。」
と少し下を向きながら言った。色々な物を飲み込んだようなその言葉は、その場を包むような静かさを生んだ。