表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

第一話 転移 そしてフォン

 空の酒瓶が転がり、灰皿には吸い殻が山積みになっている。畳は黒ずみ、端にある敷布団は無造作に丸まっていた。カーテンは半分外れ、隙間から差し込む朝の光が部屋の汚れを際立たせる。息が詰まるような、重たい空気。まるで僕の心そのものだった。

 

 ……僕は斉藤だ。16歳。

 両親を紹介しよう。

 今の父は何もしなければ僕を叩かないから好きだ。でも母は嫌いだ。何もしてないのに「なんで私が!」から始まる罵倒をしてくる。

 そんな僕は小さい頃に読んだ本に憧れ、今まで生きてきた。顔をちぎって皆の飢えを満たし、助けを求めれば助けてくれる。そんなヒーローだ。

 僕もいつかあんなヒーローになりたかった。右手の傷跡を見る。この傷跡を見ると今生きてる事を実感出来る。酒瓶の破片でまた傷を付け足す。痛みで震える腕を見る。真っ赤な血が垂れている。

「……痛い。…でも、生きてる。」

震える腕を見つめながら、じわじわと広がる痛みを感じる。血の赤が鮮やかに映えた。

「そろそろ終わりにしよう…」

 でも僕は今日死ぬ。上手く締まらないドアを開け、階段を登る。カツカツとなる足音が自分の終わりへと近づく感覚を実感させる。ドアを開け、外に出る。風が少しだけ吹いている。髪がユラユラと揺れる。柵の上から下を見る。車がヒュンヒュンと通り過ぎる普通の道路だ。でもその普通の上に落ち、僕は死ぬ。

 もう、僕も終わりだな。

 最後に思った。僕がこうなったのは、運が悪かっただけなのかと。もし愛されていたら、もし信じられる他人がいれば………と。居もしない他人の顔を思う。

 足を前に出した。

ガクッと靴が滑る。視界が一瞬ぶれる。重力が体を引きずり込む感覚。

風を切る音が耳をつんざき、全身が宙に浮く――


次の瞬間、ふわりと落ちた。


「こんな所でどうしたの?」

 少し低めの女の人の声だ。目を開ける。周りを見てもピンとこない。知ってるようで知らない場所だ。

「ねぇ。どうしたの?ていうか聞いてる?」

 取り敢えず返事をしようとするも、久しぶり過ぎて声が上手く出ない。結果口がパクパクと動くだけ。

「…まるで戦時帰りの兵士のようね。事情はわからないけど、見捨てるには少し可哀想…」

 話しかけてきた女性はう〜んと顎に手を当てて悩んでいる。取り敢えず返事をしなければ。

「あ、あの!僕は…」

 咄嗟に出た言葉は、緊張と不安からか言い切れずに失速し、フニャフニャと先細りになってしまう。

「え、なんて?」

 不意を突かれたような顔をされてしまった。

「僕は斉藤って言います!」

 勢いよく名前を言い切った時一つ疑問が浮かぶ。

「ここは何処だろう?」

 無意識ながら、口に出てしまった。

「サイトウ君ね。ここはハルア国カラシ地区ユマチよ。…もしかして記憶喪失でもしてるのかしら。」

 唐突に一つの単語が頭に浮かぶ。

「フォン−イーハン。」

 思わず口に出してしまった。

「その名前……どこで聞いたの?」

 声のトーンが一気に低くなる。さっきまでの優しそうな態度とは別人のようだった。

「えっ……?」

「いいから答えなさい。」

背を刺すような鋭い視線に、思わず身をすくめる。

「あ……その……頭に浮かんだんです。気づいたら口に出してて……」

「……ふぅん。」

フォン−イーハンはじっと僕を見つめると、不意にニヤリと笑った。何かに気付いたような…

「唐突にその名が浮かんだのよね。」

「は、はい。」

 その後「これは使えそうね。」と一言言った彼女に袋を被せられて何処かへ運ばれた。


「よいしょっと。」

 袋を外される。そこは少し広めの部屋で、真ん中に二人座っている。

「バカンス中の老人だ。今はだけはAXEじゃない。」

片方の男が肩をすくめる。

「おいおい、やめようぜレオセン。仮にもAXEの隊長が一般人に絡むのはやめろよ。」

 そう言ったのは、無造作な髪の男――ケンジ。どこか飄々とした態度だ。

「そちらこそ、まさにここの市長の息子だろう?」

「……ったく、もう縁は切ったんだ。いまさら市長の息子なんて呼ぶなよ。」

 彼はため息をつきながらも、どこか楽しそうにレオセン?とやり取りをしていた。

 会話をしている男二人を見ていたら、フォン−イーハンが話しかけてきた。

「私達は一時的に集まったチームなの。分かりやすく言えば一人の男を追ってるチーム。男の名前はハチグマ。サイトウをここに持ってきた理由は一つ。」

 フォン−イーハンが凄い顔をしている。

「手伝ってちょうだい!名前がわかるのでしょう?きっと役に立つわ!」

「名ま、」

「そうそう思い切りの良さは評価点よ!能力の詳細はこの際どうでもいいの。もちろん報酬は渡すわ。」

 言い切る間もなく手伝う事になった。

 

 取り敢えずレオセンとケンジの二人に挨拶をしていたら、フォン−イーハンが。

「私はフォン−イーハンよ。知ってると思うけど。」

「あっはいフォン−イーハンさん。」

「フォンでいいわ。」

「フォンさん…」


 凄い勢いで僕は人探し?を手伝う事になった。でもワクワクしている。初めて僕を必要としてくれたから。

 −後書き−

 第一話を読んでくれてありがとうございます!

 感想、質問等は遠慮なくしてくださると嬉しいです。


 勢いに流されてた主人公のサイトウは今後どんな奴に出会い、何を思うのか。周りの人々よ因縁を全て解決し、最後、サイトウはどうなるのか?

 是非この物語を楽しんでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ