ベッドでシンデレラの物語を眺めていたら私も幸せになれた
「スープがぬるいわね」
スープを口にして感想を言えば、シンデレラはかすかに眉をひそめた。
「温め直してきます」
皿を奪われそうになり、「お腹がすいているからこのままでいいわ」と彼女の申し出を断る。彼女はまたあとで食べ終えた皿を取りに来ると言い、部屋をあとにした。
――悲劇のヒロインはどんな言葉もマイナスにとるから疲れるわ。これは冷製スープかしらと言わなくて良かった。もし言っていたらシンデレラの不幸エピソードに加わってしまうところだった。
私はそんなことを思いながら再びベッドに横たわる。多分シンデレラの世界に転生した私は、物語にはいなかったはずの、意地悪姉妹の三女として生まれた。しかも生まれつき身体が弱くて家から出られず、ずっとベッドの住人という立場。
姉たちの名前がシンデレラを虐めてた姉妹と同じだなあとは思っていたけど、ご本人だと知ったときは驚いたものだ。
「役立たず」
「あんたの薬代でドレスが買える」
しょっちゅうこんなことを言われてたけど、二度めの人生の私にはへでもなかった。彼女らも身の丈に合わない教育を施されいっぱいいっぱいなのだろうし、自分に余裕がないときは人にあたるものだとわかっていたから。
「街に行く用事があったから、あんたの分も買ってきたわよ。今日は誕生日でしょ」
「わあ、ケーキ! 美味しそう!」
「あ、私だってリボンを買ってきたんだから」
「わ! ありがとうございます!」
こんなホッコリエピソードだってある。悪役は24時間悪役なわけじゃない。母も子供たちの幸せを考え自分を犠牲にしてきたと思う。金目当てや爵位目当てで男に媚びることも生きるためには仕方ないとも思える。
でもね、あれを目にしたらおかしくもなるわ。
シンデレラ……物語のヒロイン。どんなボロを身にまとっても光り輝く美しさ。しかも心優しく素直で健気で苦労も厭わないという、完璧を絵に描いたような人間性。
どんな努力も意味ねー……って思うよね。神の愛し子なんだろうな。きっと。
継父が亡くなって、シンデレラの扱いが酷くなったのは、母や姉たちの怒鳴り声やシンデレラのすすり泣く声を聞いていればわかった。それでも歌いながら尋常ではないスピードで家事を完璧にこなす彼女は、やはりヒロインなのだろう。私がやればあの中の始めのいくつかで日が暮れる。だから私は彼女を尊敬していたし、口にはせずとも応援もしていた。
ただ、納得がいかないこともある。それは、部屋にこもってるだけの私は食事や掃除でしかシンデレラと顔を合わせないのに、加害者のように扱われることだ。
――優しくしなきゃみんな悪い奴ってわけ?
母から余計なおしゃべりはするなと言われてるからこちらから話しかけないけど、ちゃんと挨拶やお礼はするし、意地悪をした覚えはないのに、あちらの態度はずっとそっけない。天使ちゃんもずっと天使ではないのだろう。
「ずっとこんな生活なのかな」
ここに来てからは皆がギスギスしていて楽しいことがない。自分で見つける楽しみにも限界がある。私はずっとこのままなのかとポツリとこぼした言葉を誰も拾うことはない。
シンデレラは舞踏会に行けないと泣いてるだけで助けがくるのに。
なんてたまにセンチな気持ちでいたら、庭でシンデレラがオヨヨと泣いていた。薬を持ってきた母に聞けばなんかをやらかしてご飯抜きにしたとか。
――またか。普段皆の食事を用意しているんだから、どっかに非常食を隠しておけばいいのに学ばないなあ。
とりあえず、おやつに食べようと思っていたクッキーを紙につつみ、通りかかったシンデレラの子飼いのネズミに渡してやった。
「ありがとう」
なんの疑いもなくクッキーを口に入れるシンデレラに呆れながらも、自分に礼を言われた気がしてなんとなくいい気分になった。
そんな日々が過ぎ、物語はクライマックスに近づいていた。舞踏会に行かせないくだりは声だけ聞いた。魔法使いのシーンも窓から見た。カボチャの馬車、シンデレラのドレス姿、どれも美しくて涙がでた。
「いってらっしゃい」
母や姉は私をいい医者に見てもらうために頑張るなんて言って出て行った。
魔女はなんで私のところに来ないのだろう。
ガラスの靴の持ち主を探しに使者がきた。恭しく掲げているガラスの靴に光が反射してキラリと光った。私は「おめでとう」と呟いてベッドに横になった。
物語を見届けて、私の心にも変化があった。傍観者のように生きてきたけれど、物語の続きは自分がつくるものと気づき、世界が変わったような気がした。
シンデレラは許しても周りは私たち家族を許さず、屋敷と爵位は取り上げられて平民の身分になった。平民となり罵倒されたり石をぶつけたりされるかと思いきや、意外にも平和に暮らしている。まあ、良い王が統治する国の国民は心が余裕なのかもしれない。
そうそう、シンデレラといえば、私がクッキーをこっそりあげた話を人間に変身したネズミから聞いたらしく、お礼にと名医を寄越してくれた。
驚いたことに最近治療法が発見されたとかで、なんと私の病気が治るみたい。費用も負担してくれると言うし、いいことをすれば返ってくるものね。
「お姉ちゃん、甘いもの食べに行かない?」
「あんた、まだ遠くまで歩けないじゃない。帰りに背負う羽目になるのはいやよ」
「ケビンに背負わせればいいじゃない。ラナのこと狙ってるぽいし」
私たち姉妹はたくましく生きている。
母はまだ部屋にこもっているけれど、姉たちは仕事を見つけ新しい生活に馴染み始めている。頑張っている姿を見ていると、それぞれが幸せを見つけられたらいいと思う。私はもう見つけたから。
主人公の名前ないままなのに気づき、最後に名前をだしました……




