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【9話】 王国(cult)

 低高度でパラシュートが開く。壁にぶつかったような衝撃を感じるが、パニックにはならない。訓練通りだ。


 その後、地面に降り立つ。ダリウスは、パラシュートを素早く折りたたみ、酸素マスクを外す。そして、それらを埋めるための穴を掘る。


「ウルズ1、タッチダウン」ダリウスは唇だけ動かす。唇に着いたセンサーと、咽喉スロートマイク(喉に付けるマイク。微弱な声も拾うことができる)が発音されていない声を音声化し、仲間に伝える。


 目の前には、鮮やかな緑が広がり、草木の匂いが塊となって押し寄せてきた。午前4時過ぎ、まだ森は眠りについている。しかし、異様な暑さと湿気はいつも時間も変わらない。


 ダリウスは、近くに降下した特殊部隊員と合流。作戦チームはダリウスを含め、4人で構成される。


 ダリウスはGPSで現在位置を確認し、周囲を見渡す。吸い込まれそうな、緑の群―自分の存在があまりにも小さく思えた。


 50メートルに達するものもあるという巨樹の板根は、まるで恐竜の脚のよう。そして、それらの樹々の下には、それよりも小さな樹が林冠(樹々の枝葉が相接している状態)を形成している。


 行く手を阻む下生えも少ないが、林冠キャノピーのせいで地面にはほとんど光が届かず、見通しが非常に悪い。見えて50メートル以内と言った所か。


 GPSと地図を確認すると共に、地形を確認。この熱帯多雨林は、川や滝で区切られており、川沿いは樹々も低く、地面への日当たりも良いため、下生えが多くなる傾向がある。下生えと言えど、その高さは3メートルを超すものもある。


 場所を確認し、部隊は行軍を開始した。ある程度の間隔をあけ、縦一列で進む。ここは、非友好地域だ。だからこそ、安易な道を進むことは出来ない。道路や敵が通った跡のある場所、居住地域や人口の建造物、川や橋、それらは必ず避けて通らなくてはならない。何故なら、そこには待ち伏せや罠が仕掛けられている危険性があるためだ。


 進みにくい道を、敵の兆候を見落とさないように進む。これが密林での行軍の基本となる。イギリス陸軍特殊空挺部隊《SAS》は密林を最大速度、時速1.5キロで進んだと言われているが、敵の偽装を見落としてしまうので、それより時間をかけ、進む。とは言え、この熱帯雨林では、ヒトは比較的大型の生物だ。動けば、下生えを踏みつぶし、かき分けてしまう。敵が潜伏していたとしても、必ず兆候はあるのだ。


 獣が通った道は使えない。訓練を受けた者からすれば、それはれっきとした道であり、非常に進みやすい。だからこそ、罠や待ち伏せが仕掛けられている可能性があるのだ。


 ダリウスらは、痕跡を残さないように、進みにくい道を進む。進む際も、自然の遮蔽物を使い、身体を隠しながら進んでいく。


 敵の兆候やブービートラップを見分けるには、区画を決め、観察を行うことだ。進み、止まって周囲を確認、進む、というのを繰り返す。その際、物音を立てず、かつ動きが大きくならないように注意する。


 ブービートラップは、熟練の者が仕掛けた物であれば、驚くほど自然に溶け込んでいる。だが、微かな不自然さは消すことができない。例えば、草木の生える方向には、必ず方向性があり、それに反するような生え方、不自然なぬかるみ(石をどかしたりすると出来る)。それらを見逃さないように、全神経を張り詰めさせる。


 これだけ樹々がうっそうとしている状態だと、無人航空機のマルチスペクトル目標識別装置(可視光カメラ、暗視カメラ、レーザ目標指示装置などが搭載されている)による探知を潜り抜ける敵がいるかもしれない。


 空からの監視が完全ではないのに加え、密林の中は薄暗く視界が悪い。ダリウスは周囲を観察する際、視点を8の字に動かしながら、進む。このように視線を動かすことで、暗視を行うことができる。これはかつて、フランス外人部隊出身の傭兵から教わった技術だ。


 敵と遭遇しないまま、建物の近くまでたどり着く。ここからは、匍匐による移動となる。敵が待ち構えているとすれば、間違いなくこの周囲だ。


 鼻を突く、泥の匂い。尺取虫のように行軍を進める。数分、匍匐前進を続けると、森を切り開いた道と、そこに繋がる建物が見えた。一見、倉庫のようで、切り出した材木が見える。


 ダリウスは、現着を知らせ、周囲を見渡す。


 事務所だろうか、ジープがとまっている平屋には、二人の警備兵が立っている。手にはAK機関銃。そのストックが2つとも木製という事は、敵はなかなかやるという事が分かる。木製のストックは、プラスチックのストックと比べ物にならないほど近接戦闘で脅威になると共に、発砲時の反動をその重量で僅かに相殺するからだ。


 事務所に近づくことは出来ない―ダリウスは判断し、倉庫から少し離れた場所にある、寮を見る。警備は居ない。


 ダリウスは、茂みから飛び出し、寮へと向かう。UAVによる熱源感知を行い、敵の存在がない事を確認、仲間に合図した後でドアを開ける。


 無音の超小型飛行機(MAV)を放ち、室内を走査。個室の中に居る男たちは、全員が寝息を立てていた。しかし、監視カメラが至る所に設置されていた。


 ダリウスは、光学迷彩を起動。超小型飛行機(MAV)が撮影した映像が瞬時に迷彩化。最新の光学迷彩なので、突然の影の発生などにも強く、リアルタイムで周囲のパターンを模倣する。それでも、照明の位置から、影が出来ている場所を選び、ゆっくりと移動する。


 ドアを開けると、薄い板で出来た壁、簡素なドアが並んでいた。完全に風景に溶け込み、侵入。曲がり角や階段で、素早く銃を左右に持ち替え(スイッチング)、クリアリングを行いながらダリウスは進む。

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