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【5話】 過去―2(farewell)

4年前―


 貸し切りのバー。


 ダリウスと、アルドリッチは、横並びになり、無言で酒を飲んでいた。


 アナリシス社が国防総省に向け、かつて使われていた兵士のメンタルケアシステムを発展させた生体データ分析システム「Analysis・Cure」の開発を始めた。しかし、その開発過程で、様々な問題が浮上していた。


「心的外傷後ストレス障害の治療に行動制御を使えば、必ず批判が出る。開発は一時とめた方が良いんじゃないのか?」ダリウスが重い口を開く。


 この時、ダリウスはすでに「保守派」にスカウトされ、開発の情報を不正に入手していた。


「お前も読んだんだろ」アルドリッチは視線を前に向けたままいう。Analysis・Cureのモデルケースについて記載された文書のことだ。


 ダリウスは頷き、モデルケースを思い浮かべる。


 想定されたのは、アフガニスタンに派遣された女性兵士。その女性は、派兵された中東で乗車中に即席爆弾(IED)を食らって以来、車に乗ると激しい恐怖を覚えるようになった。退役後、心的外傷後ストレス障害と診断された。退役軍人省による保証は手厚いとは言えず、自殺の恐怖におびえながら薬漬けの日々を送っている。


 彼女から知覚情報(耳や額、眼鏡などに装着する小型カメラから取得する動画)や位置情報を提出してもらい、それを投薬治療に利用する、というのだ。


 心的外傷後ストレス障害の治療薬の一つは、脳の海馬に作用し、記憶の忘却を促す働きがある。しかし、忘却を促すためには恐怖記憶を呼び起こす必要がある。Analysis・Cureは治療者の日常生活を知覚情報と生体データで分析し、恐怖記憶が想起されるタイミングを見つけ、生活パターンを規定し、効率的に忘却が起きるようするらしい。


 モデルケースの女性は、バスの発射音(即席爆弾の起爆時の音に類似しているため)や乗車という行為に強い恐怖反応を示したため、効率的かつ負担が大きすぎないルートをAnalysisのデータ分析を利用してカウンセラーが作成し、それに従って生活し、効果的に治療を勧める。これが行動制御だ。


「プライバシーの問題、さらには自由意志の問題に発生する可能性だってある」ダリウスは冷静に言う。


「だから、救える人たちを見捨てるのか……心的外傷後ストレス障害は、初期の対応が重要だという事くらい、お前だって知らない訳じゃないだろう」


 ダリウスは押し黙る。


「開発を妨害する勢力が現れたと聞く」アルドリッチがぽつり、と呟く。


 ダリウスは、呼吸が乱れないようにしながら、アルドリッチを見る。


「俺は彼らを狩る仕事に付くことにするよ、ダリウス。お前はどうする?」


 ダリウスは答えることができなかった。

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