表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

【1話】 降下(free fall)

トナカイは狼の餌となるが、トナカイを強くしているのはほかならぬ狼である


The CARIBOU feeds the wolf, but it is the wolf who keeps the caribou strong.


(イヌイットのことわざ)

《降下地点まで後一分、後一分》


 貨物室カーゴの中でパイロットの声が響く。高度一万メートル、雲の上を輸送機は進んでいた。


 輸送機の中、貨物室カーゴに数人の男―全員が森林仕様の迷彩服を着ている。その顔には、酸素マスクが付けられている。この高度だと、酸素を含む空気が希薄になるからだ。


 男たち―米陸軍の特殊作戦部隊―は、1分後、輸送機から自由落下し、低高度でパラシュートを開き、悟られることなく敵地に潜入する。


 男の一人、ダリウス・クルーガーは呼吸を整え、装備をチェックしていた。ダリウスは、40代の黒人男性で、中肉中背、クルーカットで髭はない。しかし、その瞳はあまりに鋭く、眉間の皺は深すぎる。


 貨物室が薄暗くなり、明かりが赤い物に変わる。赤い光が男たちを一層不気味に照らし出す。


 ダリウスは唾を飲み、思う。これから俺は地上に降り立ち、死と暴力をまき散らすことになる。だが、敵は、もっとおぞましい物を世界にまき散らそうとしている。


 輸送機のハッチが開き、冷風が一気に貨物室になだれ込んでくる。ごぉ、ひゅう、という風の音が絶え間なくする。いつ聞いても、はらわたが震える。ダリウスが外を見ると、気が遠くなるほど高い。


 眼下に、分厚い雲の層が見える。その奥には、人の進行を阻む、熱帯雨林が広がっている。


《降下30秒前、降下30秒前》


「降下用ボトルに切り替えろ」部隊長が言い、兵士たちは、機内の酸素供給システムにつないでいたチューブを、酸素ボンベに付け替える。


 男たちは立ち上がり、降下の準備を始める。ふと、機内で流れていた曲が聞こえる。


 俺はブードゥーのこども―


 ダリウスは、マスクの中で、唇を吊り上げる。カルト宗教に襲撃カチコミを掛ける前にはもってこいの曲ではないか。


 ダリウスは、仲間の合図と共に、跳んだ。偽りの天国へと。

 読んで頂きありがとうございます。感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ