11章 自国民だろう
攻め込まれたのは明け方、太陽が姿を現し始める頃だった。
ここを逃せば王城に辿り着いてしまうのだから、ラウレンツも騎士達も仕掛けてくるだろうことは想定していた。
騎士二人もラウレンツも仮眠を済ませて目覚めていたため、殺気を感じてすぐに全ての荷物を捨てて宿を飛び出し剣を抜いた。
少しでも一般市民への被害を減らさなければならないと考えてのことだ。
こうした町であれば、この時間には朝の支度のために町民が歩いているはずなのに、道には誰もいなかった。
代わりに、武装した山賊のような身なりの男達が宿を囲んでいる。
視認できる範囲で二十人ほどだろうか。
山賊のような身なりをしている割に、男達はどこか身綺麗だった。顔は汚れていないし、身体も計画的に鍛えられたように均整が取れている。
「──ベラドンナ王国の騎士達か」
剣を構えたラウレンツが呟く。
問いへの返事はなく、ただ、剣を構えた男達が斬りかかってきた。
「くそ……っ」
男達に隠すつもりがないところを見るに、おそらくここで確実に同盟書類を奪うつもりだろう。
これだけ大規模にやるということは、それだけベラドンナ王国側にも後がないに違いない。
騎士達はラウレンツを守ろうと動いていたが、数が多すぎて斬っても斬っても次が湧いてくる。
襲いかかってきた数人をまとめて薙ぎ払ったところで、周囲で剣を構えた男達の後ろで安全を確保していた者の一人が、マッチと瓶を取り出した。
瓶の中身を、側にあった古びた家の柱と壁にかける。
ラウレンツはその行動に目を見張った。
背中を向け合っている騎士達も動揺しているのが分かる。
「──まさか」
瓶の中身はアルコールだ。
小さな町に新しい建物はなく、ほとんどの家が木でできている。その木も長い冬ですっかり乾燥しているだろう。
「大人しく剣を下ろすなら、この火は付けないでおいてやろう」
「……自国民だろう!?」
ラウレンツが声を張る。
「さあな」
男達はベラドンナ王国の者なのだ。ならばアベリア王国の国民は関係ないということか。
違うだろう。
男達に指示をしているのは、アベリア王国の王妃であるシルヴェーヌに違いないのだから。
騎士達がどうするかとラウレンツの動向を気にしている。
ラウレンツは二人にだけ聞こえるよう、小さな声で指示を出した。
「──私が投降して見せれば、敵は一瞬手を緩めるだろう。その隙にマッチを奪い、エヴェラルドに状況を伝えてくれ」
「ですが」
騎士が迷っている。
ラウレンツは安心させようと、努めて明るい声を出した。
「書類のありかが分からない限り、私が殺されることはない。……ここからは二人が頼りだ」
騎士達が悩んでいるのが分かる。
ラウレンツはその迷いを振り切らせるため、剣をゆっくりと下ろしながら背中を預けていた騎士達から距離を取った。
「こんなことで町を燃やしたら、国民からの支持も低下するだろう。王城のすぐ側だ。できればそちらの主人も、避けたい手段なのだろう?」
一歩、一歩。
ラウレンツが離れるに連れて、騎士達に向けられていた注目も剥がれていくのを感じる。
マッチを持っている男の集中力が切れた瞬間、ラウレンツは王城と反対方向へと駆けた。
ほぼ同時に騎士二人がラウレンツと反対方向に走る。
騎士が男からマッチを取り上げ、一番近くにあった泉に放り投げる。
そのままできるだけ多くの男を町から引き離そうと、騎士は町の外へと向かった。
その隙にもう一人の騎士が町をでたらめに駆け抜けて、接している林の中へと身を隠す。
ラウレンツは剣を振るいできる限り多くの男を戦闘不能にしながら、必死で走った。
町を抜け、舗装されていない道に出る。
そこには既に敵がいた。今度は、しっかりとアベリア王国の騎士姿である。
十五人もの騎士が、ラウレンツの行く手を塞いでいた。
「流石にこれは……」
ラウレンツはついに剣を捨てた。
この小さな町に、これほどの騎士を注ぎ込んだのか。
一体どれだけの兵力が、ベラドンナ王国から持ち込まれているのだろう。
「──私は同盟書類を持っていない。欲しければ、精々探すことだね
ラウレンツはそう言ってすぐ、思い切り腹を殴られて気を失った。




