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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第2部

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11章 正当な理由




   ◇ ◇ ◇




 皇帝から騎士を三人借りたラウレンツは、その中で最も速い馬を操る騎士にエヴェラルドへの手紙を預けて先に行かせた。


 手紙には、同盟締結書類を持っていくと書いた。

 エヴェラルドならば、会議に合わせて支度を整えるだろう。


 ラウレンツは初日の夜に寄った町で乗ってきた馬の世話を任せて新しい馬を借り、それからも大きな町に辿り着くたびに馬を替えた。

 少しも休むつもりはなく、共に来た騎士達もそれを覚悟していた。


 目立たないように少人数にしたとはいえ、馬で疾走していればやはり目立つ。

 それ故か、アベリア王国に入ったところから明らかにこちらを狙っている者が現れるようになった。


「──ベラドンナの手の者でしょうか」


 騎士が剣を振るいながら言う。

 ラウレンツも応戦しながら頷いた。


「他に可能性がない。私達を狙う理由がある者など、彼等くらいだからね」


 姿勢を整え眼鏡を直す。

 ラウレンツ達が目立った分、先に一人で行かせた騎士は無事だと信じたい。どんなに強い騎士であっても、複数人で襲われたら厳しいだろう。


「本当に……悪知恵だけは回りますねっ!」


 ここでラウレンツが命を落としたとしても、責められるのはアベリア王国でベラドンナ王国ではない。

 襲った人間がベラドンナ王国の手の者だという証拠はなく、ここはアベリア王国だから。

 皇帝だって、そうするしかないに決まっている。


 刺客を全員倒して馬に乗る。

 しばらく走ったところで、ラウレンツは小さく溜息を吐いた。


「最悪のシナリオは、私達がここで死んで、クレオーメ帝国がアベリア王国に攻め込むことだね」


「……それは」


 騎士が動揺に瞳を揺らす。


「お祖父様ならそうするだろう? ベラドンナ王国に取られるくらいなら、力で圧倒して蹂躙した方が早いから。……私達の死が、戦争の正当な理由になる」


 ラウレンツを行かせた時点で、皇帝がそのシナリオを想定していないはずがない。


「二人とも、いざというときには自分自身が生き残ることを最優先に行動するように。……命令だ」


 ラウレンツが命を落とせば戦争を始める決定的な理由となるが、失われたものが騎士の命であっても、アベリア王国の国王を交渉の場に引っ張り出すには足りる。


 結果は同じ。


 アベリア王国の名前は永久に地図から消えるだろう。


「──そうならないように、頑張らないとね」


 もう春とはいえ、夜風はきんと冷たい。

 ラウレンツは白くなった息に僅かに驚き、澄んだ空で夜道を照らす月を見据えた。





 その翌日、ラウレンツ達は小さな町で一泊することになった。

 ここまでのように疲れてしまった馬を替えて先を急ごうとしたのだが、町に借馬屋がなかったのだ。

 仕方なく野宿をしようとしたところ、町人に見つかって宿をとるよう誘導されてしまった。

 無理に断るのもおかしく思われるからと、町唯一の宿屋で最も大きい部屋を取った。


 野宿ではない宿泊は久し振りだ。

 入浴をし、買った服に着替えたラウレンツは、騎士と見張りを交代しながら眠ることにした。


 念の為、ラウレンツは眠る前にこっそり部屋を抜け出して、同盟書類を入れた瓶を誰もいない庭の畑に埋めた。


 部屋に戻ると、騎士の一人がソファーで眠っていた。

 見張りをしている騎士は窓の外に警戒を向けながら、ラウレンツが無事帰ってきたことに小さく安堵の息を吐く。


「無事戻られて何よりです」


「……この町に入ったことは気付かれているだろうからね」


 ラウレンツも嘆息して、寝台の端に腰掛ける。

 王都まであと半日も走れば辿り着くだろう。

 馬を休ませるためとはいえ、すぐ側に王城があると思うと落ち着かない。


「殿下はお休みになってください」


 仕掛けてくるだろうか。

 ラウレンツはぐっと息を詰め、しっかりと頷いた。


「もう、殿下と呼ばれる身分でもないんだけどね。──分かった。少しでも異変があれば起こしてほしい」


「勿論です」


 騎士の返事を確認して、ラウレンツは粗末な寝台に横になる。

 目を閉じ、浅い眠りの中に落ちた。

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