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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第1部

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8章 このドレスを着るそのとき

 美しい青いドレスに、裏が透ける柔らかな布を重ね、踊るとスカート部分が水面のように広がるのだろう。

 スカートにあしらわれたダイヤモンドは、まるで弾む雫のように見えるに違いない。

 どう見ても、素敵なデザインだった。


「す、素敵だと思います……」


 金額を全く意識しない買い物に、クラリッサは文句が言えなかった。

 しかしラウレンツがこれだと言うのなら構わないのだろう。

 好きな人からこんなに高価な贈り物を選んでもらうなんて、初めての経験だ。クラリッサはずっとどきどきと煩い鼓動を聞かないふりで、並べられた華やかな飾りに目を向ける。


 すると、黙ってここまでの様子を見ていたドミニクが口を開いた。


「──そちらのドレスに合うものでしたら、これらはいかがでしょうか」


 テーブルに並べられた首飾りには、どれもダイヤモンドが使われている。

 ドレスが青いからかブルーサファイアは除かれていたが、ルビー、エメラルド、イエローサファイアと、いかにも質の良い石が選ばれていた。


「こ、これは……流石に……」


 クラリッサの口元がひくりと動く。

 ラウレンツが大粒のルビーが使われた首飾りを手に取った。チェーンの部分に小粒のダイヤモンドが使われているものだ。

 それを、おもむろにクラリッサの顔の横に並べて、満足げに頷く。


「これにしよう」


 ドミニクはそんなラウレンツを見て、納得したように頷いた。


「奥様の瞳と同じお色ですね」


「ああ。こことここの石をシトリンに変えてもらえるかな? 母に貰った耳飾りがシトリンなんだ」


「承りました。素敵でございますね」


 レオノーラに貰った耳飾りは、夜会の後しっかりと仕舞っている。クラリッサは重要なときにだけ付けようと決めていた。

 ラウレンツが今注文している首飾りにもシトリンが使われているのなら、揃いで使うのに丁度良いだろうか。


「それでは、同じ宝石を使って髪飾りと靴を──」


 キャシーがひとみをきらきらさせて、デザイン画をずいと差し出してくる。

 そこには銀の土台に大粒のルビーといくつものダイヤモンドを乗せたデザインの髪飾りが描かれていた。靴にもダイヤモンドを縫い付ける徹底ぶりだ。


 クラリッサはその絵にくらりとした。

 普段からクラリッサはキャシーに金を掛けたドレスを作ってもらっていたが、悪女に見えないよう、慎ましやかな印象になるよう、装飾は基本控えめだった。

 これは悪女には決して見えないが、見たことがないほど美しく華やかなドレスになるだろう。

 クラリッサが着たら、どれだけ華やかになるか知れない。


「いいな、これにしよう。クラリッサも気に入ったか?」


 宝飾品を選んでいるラウレンツは楽しそうだ。


「はい……素敵だと思います……」


 クラリッサはもう諦めて、嬉しい感情に任せて溜息と共に同意の言葉を吐き出した。

 それから、クラリッサのドレスと宝飾品に合わせてラウレンツの服も決めていく。

 クラリッサの服と比べてあっという間に選ばれた服は、色もデザインもクラリッサのドレスと揃いのものだ。

 まるで仲の良いパートナー同士のようで、クラリッサの頬が赤く染まる。


 キャシーとドミニクが帰り、クラリッサとラウレンツだけになったサロンで、クラリッサは疲れ果て、ソファーの背凭れに背中を預けていた。

 すっきりと片付けられたテーブルに、カーラが二人分の果実水を持ってくる。

 クラリッサはグラスに口を付け、爽やかなレモンの香りを吸い込んだ。

 清涼感とほのかな甘さが、クラリッサを安堵させる。

 ぽろりと、本音が漏れた。


「……驚きました」


 ラウレンツが眼鏡の位置を直して眉を下げる。


「黙っていてごめん。でもクラリッサなら、きっと遠慮するだろうと思って」


「どうして──」


 クラリッサは息を呑む。

 ラウレンツはクラリッサのことを悪女だと思っているはずだ。だからこれまであれほどにクラリッサのことを嫌って、距離を取ってきたはず。


 悪女ならば、遠慮などしない。

 遠慮されるかもしれないなんて、考える必要はないだろう。それなのに。

 困惑に瞳を揺らすクラリッサに、ラウレンツは真剣な顔を向けた。眼鏡の奥には、サファイアよりも透き通った綺麗な青い瞳がある。

 その中に、クラリッサがいた。


 銀色の髪に、ルビーの瞳。

 いつもと変わりない姿なのに、そこに映るクラリッサはほんの少しも悪女らしくない。むしろ初恋に胸ときめかせる少女のようで、どこか頼りなくて、不安げですらある。

 ラウレンツにこんな風に見えているのなら、クラリッサは今すぐ逃げ出したい。


「クラリッサに話したいことがあるんだ。このドレスを着るそのとき、聞いてくれるか?」


 目を逸らしたいのに、逸らせない。

 どこにも触れていないのに、縫い止められてしまったかのように、指先一つも動かせなかった。

 だから、ラウレンツの瞳の中の自分すら、受け入れるしかなかった。


「──ええ。分かったわ」


 覚悟を持って返事をしたクラリッサの前で、ラウレンツが微笑む。


「ありがとう」


 その微笑みがあまりに綺麗で優しくて、クラリッサはとうとう、赤くなった顔を両手で覆って隠した。

これにて第1部完となります!

次話から第2部です。


引き続きよろしくお願いします!!

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