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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第1部

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7章 何かご用でしょうか




   ◇ ◇ ◇




 早足で歩くクラリッサを、カーラが周囲に目を配りながら追いかけてくる。


「ねえ、カーラ。次はあのお店に行ってみましょう」


「クラリッサ様、そんなに急がなくても!」


「でも、書店だけでもこの通りに四店あるのでしょう? どんどん見ないと授業の時間になってしまうわ」


 クラリッサはいつもより身軽な服装で、久し振りの商業地区を楽しんでいた。

 今日は午後から教会で授業がある。

 そのためクラリッサは、午前中のうちに子供達に本を買おうと思い、カーラと共に買い物に出たのだ。


「ここの店は、特に子供向けの絵本が豊富なようですね」


 カーラが書店の前で言う。

 書店には可愛らしい動物が彫られた看板が掲げられており、店頭に積み木や馬車のおもちゃが『あそんだらかたづけてね』という文字と共に置かれている。


「そうね。ここなら良いものがあるかしら」


 クラリッサは早速書店に入り、中に並んだ薄く大きな本を一冊引き抜いた。

 ぱらぱらと目を通すと、その本は神話に基づいたもので、教会が身近な子供達には良さそうだった。

 シリーズを全てまとめて取り出してカーラに渡す。

 中途半端に買っても仕方ないのだから、たくさん読めるように馬車に積めるだけ買えば良い。


 他に良い本がないだろうかと考えながら、クラリッサは先日の子供達のことを思い出す。

 たくさんの未来の可能性がある、という言葉を聞いた子供達は、驚いた顔をしていた。

 そもそも子供達は、孤児院と教会のことしか知らない。外に働きに出る子供達はその仕事のことなら知っているだろうが、他の子供達のように多くの職業を知り、触れる機会もないだろう。


 ならば、せめて本から様々なことに触れてほしい。

 森の動物達のレストランや、妖精達の学校、女神の化粧品。

 色の多い本は高価だが、クラリッサは気にせず選んでいった。

 あまりの本の多さと金額に驚いた店主に、クラリッサは微笑む。そして、一枚の紙を取り出した。


「これらと全く同じ本を、ここにも届けたいの。お願いできるかしら」


 書かれているのはクラリッサが行っている他の孤児院だ。

 本当は領内全てに配備したいが、クラリッサ一人だけではとてもできない。ならば、手の届くところから行動して、うまくいけば制度化してもらえるようにしたい。

 ラウレンツは子供達のためになることなら、たとえ嫌いなクラリッサからの願いであっても受け入れるだろう。

 紙を見た店主は、クラリッサが高位貴族の人間だと気が付いたようだ。


「か、かしこまりました。お代はどちらに──」


 貴族達は大量に購入するとき、代金をつけにして家に請求させることが多い。クラリッサもそうだと思ったのだろう。

 しかしクラリッサはカーラを呼び、持たせていた袋を受け取った。

 中には金貨と銀貨がしっかり入っている。

 クラリッサが自身のドレスや宝飾品を売って得たポケットマネーだ。


「ここで支払っていくわ。申し訳ないのだけれど、計算を頼めるかしら」


「は、はい。すぐに!」


 店主が慌てて算盤を弾きながら、本のリストを作っていく。

 店内の本を見ながらしばらく待ち、店主が計算した合計金額を払う。リストの確認も済ませて、本の山を前にクラリッサは気合いを入れた。


「よしっ。カーラ、一緒に運ぶわよ」


「クラリッサ様はお待ちください!」


「そんな。これ全部カーラにはやらせられないわ」

 今日は孤児院に行く予定のため、クラリッサは御者とカーラしか連れてきていない。だから手伝おうかと思ったのだが、どうやらカーラは受け入れがたいようだ。

 とはいえカーラだけに運ばせる量ではないと思い、控えめに四冊を抱えて外に出る。


「あら……」


 外は激しく雨が降っていた。

 先程までは曇りだったのに、いつの間に降り始めたのだろう。ざあざあと滝のような雨音が、周囲の音を飲み込んでいる。

 突然の雨のせいで、道を歩いていた通行人は皆どこかで雨宿りをしているようだ。

 カーラが眉間に皺を寄せる。


「これじゃ本が運べません……馬車をこちらに寄せてもらいましょう。クラリッサ様、少々お待ちくださいませ」


 馬車には店の邪魔にならないように、道の端で待ってもらっていた。

 カーラはクラリッサが引き留めるのも構わずに本を置き、店主に借りた傘を差して駆けだしていった。

 一人残されたクラリッサは、本が濡れないよう店内に置き、また軒下に戻ってきた。

 傘を差していても足下は濡れてしまうだろう。もしカーラに必要ならば、孤児院に行く前に新しい靴を買わなければ。


 ぼーっと雨を眺めてカーラの戻りを待っていると、突然クラリッサの前にがたいの良い男性が三人立ちはだかった。

 誰も傘を差していない。

 見るからに異様な風貌の男性に囲まれ、クラリッサは背筋を伸ばし正面の男性をきいっと睨み付ける。


「──私に、何かご用でしょうか」

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