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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第1部

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6章 ちゃんとやれるわ





 カーラが戻ってきたとき、クラリッサは丁度最後の手紙の返事を書き上げたところだった。

 カーラが使っている使用人棟は渡り廊下の先にあり、しばらく使っていなかった物であったので、妥当な時間だ。

 戻ってきたカーラは、クラリッサが机に向かっているのを見て目をつり上げる。


「クラリッサ様、何をしているのですか?」


「手紙の返事を先に済ませていたの。これ、出しておいて」


「今はそれより、先に手当でしょう!?」


 カーラが慌てた顔でクラリッサに薬箱を突き出す。


「手紙を書くのに足は関係ないと思うけれど……」


 クラリッサは苦笑して、手紙を机の端に置いてカーラから木製のそれなりに大きさがある薬箱を受け取った。

 机の上に箱を置いて蓋の金具を外す。

 蓋を持ち上げて扉を横に開くと、中に小さな抽斗が並んでいる。

 久しぶりに嗅ぐ乾燥させた薬草の香りに、クラリッサは少し懐かしい気持ちになった。


「──久し振りだから大丈夫かしら」


「そんなこと言わないでください。ご不安でしたら、公爵家の医師に連絡しますが」


「じょ、冗談よ。ちゃんとやれるわ」


 ラウレンツに怪我したことを隠したいクラリッサが、まさか家で世話になっている医師に治療を頼むわけにはいかない。

 カーラもそれを知っていてクラリッサにこんなことを言っているのだ。


「冷たい水と、いらない布が欲しいわ」


「すぐにお持ちいたします」


 部屋を出て行ったカーラを見送って、クラリッサは抽斗の一番下の段から、刻んだ葉が大量に漬かった茶色い液体が入った瓶を取り出した。

 軽く揺すって中身に問題がないことを確認してから、スポイトで少量を取る。

 戻ってきたカーラが用意した布を冷たい水につけて軽く絞ってから、クラリッサはその液体を布の一部に染み込ませた。

 腫れている右の足首に当て、包帯で緩く固定する。動く予定はないので、このまま大人しくしていればずれることもないだろう。


「これは何ですか?」


 治療を終えて片付けているクラリッサを見つつ、カーラが薬瓶を気にしている。

 クラリッサはその瓶を抽斗に戻しながら口を開いた。


「これは、乾燥させたビワの葉を酒に漬けておいたものよ」


 消炎効果のある薬草の一つで、数年前に視察先で見かけたときにたくさん取って作った薬だ。


「色々なものに使えるから便利なの。……なくなる前に来年こっちでも作っておこうかしら。どこかに木があるか調べておかないと」


 この薬は様々なことに使えて便利なのだが、とにかく完成までに時間がかかる。もう葉の採取時期は過ぎてしまったため、次に作れるのは来年だ。

 今すぐに庭園に調べに行ってしまいそうなクラリッサを、カーラが慌てて止めた。


「お気持ちは分かりますが、もう少し治ってからにしてください!」


 クラリッサは薬草箱の金具をしっかり閉じて、仕方がないと息を吐く。


「緩くしか固定していないから、仕方ないわ。分かっているから大丈夫よ」


 今歩いてしまったら、折角の治療がずれてしまう。


「私が気にしているのは、そっちではないのですが……」


 また呆れたように息を吐いたカーラに、クラリッサは首を傾げた。





 それから一週間。

 クラリッサの右足首は完治はしていないが問題なく歩ける程度に回復した。

 ラウレンツのことも避けていたが、一度も呼ばれなかったため怪我に気付かれることはなかった。

 安心したような、寂しいような、複雑な気持ちだ。

 いつものように身支度をしたクラリッサは、カーラに声をかける。


「──ねえカーラ。まずは、私自身の評判を変えなければいけないと思うの」


「今度は急にどうされたのですか」


 カーラが紅茶を淹れながら言う。

 クラリッサは前回の夜会でレベッカに言われたことを思い出していた。


『ラウレンツ様もこのような悪女と結婚させられて、なんてお可哀想なのでしょう。きっと大変なご苦労をされるのでしょうね』


 そんなことはない、と思った。

 クラリッサはラウレンツのことが大好きだし、家に負担がかかるような浪費もしていない。

 しかし、外側から見れば評判こそ事実なのだ。

 クラリッサが説明すると、カーラも不機嫌な顔をする。


「私に言わせれば、クラリッサ様と結婚できた公爵様はなんて幸運だろうと思いますが」


「そんなことを言うのはカーラくらいよ」


 クラリッサは小さく笑って、話を続ける。


「これって、私が悪女だって言われていることでラウレンツに迷惑をかけると言うことでしょう? そんなの、私、自分が許せないわ」


 ラウレンツがこのクレオーメ帝国でどれだけ周囲に信頼され、期待され、それに応えてきたのか、クラリッサは今のラウレンツを見て知っている。

 その評判に悪評を重ねるようなことはしたくない。


「でも、どうされるおつもりですか?」


 カーラが不思議そうに問いかける。

 クラリッサはしばらく考えてから、口を開いた。


「ここまでベラドンナ王国の目は届かないのだから、もっと積極的に動こうと思うわ」


「積極的にって、何をされるおつもりですか?」


 カーラが問いかける。

 クラリッサは笑って、そばに控えているカーラを見上げた。


「──やっぱり、まずは慈善事業よ」

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