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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第1部

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4章 全部もらいます

「あの、この荷物は」


「はい! あの後店に帰り従業員達と話をしたところ、皆次々にアイデアを出し盛り上がりまして……普段着については細かなご指定もなく、既製品を使っても構わないとのことでございましたので、既製服を加工させていただきましたものを含め、できたものを全てお持ちいたしました」


「こんなにたくさん……ありがとう、嬉しいわ」


「ただ、やはり茶会と夜会用のドレスは一から作るため、一着ずつなのですが……」


「構いませんわ。そうね……カーラ、手が空いている者に荷物を私の部屋まで運ばせて」


「かしこまりました」


 元々、玄関ホールの側でこちらを窺っていた者が何人もいた。きっと悪女が何をしているのかと気にしていたのだろう。

 クラリッサにとっては慣れた視線のため気にしていなかったが、今は都合が良い。このたくさんの荷物を運ぶには、とにかく人手が必要だ。


 クラリッサが言うと、早速カーラはその辺りにいた使用人を五人ほど連れてきた。

 その内の数人は箱に刻印されている模様がキャシーの仕立屋のものだと気が付いたようで、ちらりとキャシーの顔を確認して驚いている者もいる。

 やはりキャシーの店は有名なのだろう。


 箱を全て部屋に運び込んで余計な使用人を追い出したところで、カーラがクラリッサとキャシー達に紅茶を淹れた。


「私といたしましては、細かくデザインを打ち合わせしていない普段着につきましては、本日お持ちした中でクラリッサ様がお気に召されたものをお選びいただけましたら幸いでございます」


「それでは折角作っていただいたのに……」


「構いませんわ。選ばれなかったものは当店で販売させていただきますので」


 キャシーの仕立屋は、既製服を取り扱う店舗を併設している。そちらで販売すれば良いと言っているのだろう。


「……まずは見せていただきますわ」


 クラリッサはそわそわと立ち上がり、次々開けられる箱の中身を覗き込んだ。





 結果として、持ってきてもらった服は全て買うことにした。

 クラリッサは全ての服を売ってしまっていたし、何よりキャシーが持ってきた服がどれも可愛らしくかつ上品で、露出を抑えながらも大人らしさのある素敵なものばかりだったからだ。


「お買い上げいただきありがとうございます。店の子達もきっと喜びますわ」


 キャシーは何枚もの金貨と銀貨を抱えて、嬉しそうな顔をして帰っていった。


 クラリッサは早速買ったばかりの服に着替えた。

 控えめにレースをあしらった白い襟付きブラウスに、赤と緑の細かな格子柄の丈の長いスカート。

 腰にはふっくらとしたリボンが付いている。揃いのベストを着て胸元にルビーを使った花を模ったブローチを付けると、クラリッサの赤い目ともよく馴染んだ。

 キャシーに頼んで新たに購入した化粧品を使って化粧をし直すと、悪女らしさなどどこにもない、ただ美しく知的な印象の令嬢、という見た目になった。

 髪も緩く編んで垂らしているため、これまでのクラリッサと同じ人物には見えないかもしれない。


「カーラ。似合うかしら?」


「本当に……本当に、よくお似合いでございます!」


 カーラが万感極まったとでもいうほどの勢いで、クラリッサを褒める。目に涙が滲んでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。


「そ、そんなに今まで似合っていなかったかしら……」


 褒められすぎて少し引いてしまったクラリッサに、カーラは違うと首を振った。


「そうではありません。私は、クラリッサ様のこれまでの努力を知っております。だから……だからこそ、こうして年相応の、可愛らしい服を選んで着ることができた今日に、心から感謝しているのです」


 その褒め言葉はクラリッサには擽ったく、同時にとても嬉しかった。

 もしもクラリッサの行動がラウレンツに受け入れられなかったとしても、カーラが喜んでくれたのだから意味はあったのだと、そう思うことができたのだ。


「そうね。これまで、こんな服は着てこなかったもの。ありがとう、カーラ」


 クラリッサは鏡の中の自分にもう一度目を向けて、それからぐっと拳を握った。


「──見た目は完璧だわ。次は中身よ」


「中身、ですか?」


 カーラの問いかけに、クラリッサはしっかりと頷く。


「そう。まだこのフェルステル公爵家について、ほとんど知らないのだもの。邸もそうだけれど、『素敵な公爵夫人』としては領地についても知らなければならないわ。ちゃんとした服が用意できたのだもの。ちゃんと見てもらわなければ意味もないしね」


 クラリッサはそう言って、カーラに指示を出す。


「カーラ。ここの使用人に頼んで、邸の中を案内してもらえるように頼んでくれる?」


「かしこまりました。では、エルマーに確認いたします」


 カーラが出て行って一人残された部屋で、クラリッサはソファに腰を下ろして満足げに笑う。

 その手に持っているのは、先程まで使っていた羽根がふぁさふぁさしている扇ではなく、貴重な木材と絹を使った扇だ。白い絹には同色の糸で薔薇の花が刺繍されており、縁には控えめなフリルがついている。

 これもキャシーが用意してくれたものだ。


 見た目が変われば、自然と他人が自分を見る目も変わる。

 それを、クラリッサは自らの経験として、はっきりと理解していた。

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