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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第1部

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4章 侍女は誓った

投稿ミスしてました。

申し訳ございません……。


修正しました、よろしくお願いいたします。




   ◇ ◇ ◇




「──カーラ、お疲れ様です」


 カーラがエルマーの執務室に行くと、エルマーは机から顔を上げてこちらを見た。さりげなく机の上に置いたままの書類を隠すところも抜け目なく、流石は元皇族の執事頭だと、カーラは感心させられる。


「お疲れ様です、エルマーさん」


 ありがたいことに、エルマーはクラリッサが悪女であっても、ラウレンツとクラリッサの仲がこんな状態であることを知っていても、きちんとクラリッサのことを公爵夫人として扱っており、更にカーラには友好的に接してくれる。

 なんてできた人だろうと思うと同時に、そのそつのなさが恐ろしくもあった。


 とにかく仕事をしようと、カーラは早速エルマーにクラリッサからの頼みを伝える。


「クラリッサ様から、商人とデザイナーを邸に呼びたいと伝言を受けてきました」


「そうでしたか。それでは、懇意にしている店をお教えしましょう」


「いえ。クラリッサ様は、公爵様と付き合いのない者が良いと仰っております」


 カーラの言葉に、エルマーは驚いたように目を見張った。

 それはそうだ。

 クレオーメ帝国にまだ慣れていないクラリッサが買い物をしようとするならば、確実にラウレンツと繋がりのあるところに頼んだ方が融通が利くし、顔も利く。

 当然他にも信頼できる商人はいるが、普通の貴族の妻は夫の人脈を頼るものだ。

 わざわざ違う商人を呼びたいだなんて、深読みする者ならば何か悪巧みをしていると勘違いされるだろう。


 エルマーはどうだろう、と観察していたが、エルマーはカーラの前で表情を崩すことは無かった。


「それでしたら、王都の主要商会リストがありますのでお渡ししましょう。デザイナーについては……女性向けのドレスでしたら、ここか、ここがおすすめです」


 エルマーは棚から商会リストらしい表が書かれた紙を引っ張り出し、メモ紙にドレス作りで有名な仕立屋と代表デザイナーの名前を書いた。

 一歩近付いたカーラにそれらを渡す。


「呼ぶ際には、邸のサロンを使っても構いません。それから、呼称についてですが──」


「ありがとうございます。では失礼いたします」


 話し始めたエルマーを無視して、カーラは一礼して執務室を出た。

 使用人として正しくないことは分かっていた。





 クラリッサがクレオーメ帝国に嫁ぐと決まったとき、連れて行くことができる使用人は侍女一人だと条件を付けられた。

 本当は王妃が自分の手の者を連れて行かせたがっていたのだが、カーラ以外の使用人は悪女であるクラリッサと二人きりで異国に行くのを嫌がった。

 使用人が行きたくないと言っているのに無理強いしても、クレオーメ帝国に行ってから裏切られる可能性がある。


 王妃も仕方がないと諦めたため、カーラはクラリッサの希望通り共に来ることができたのだ。

 万一付いて行けなかったとしても、カーラは仕事を辞めて単身クレオーメ帝国に行こうと決めていた。正攻法でここにいることができて本当に良かったと思っている。


 カーラには家族がいない。

 両親が生きているのか死んでいるのかも分からない。

 ただ、物心ついたときには国が運営している養護施設にいた。


 施設が予算不足で一定以上の年齢の子供を追い出すことを決めたとき、ぎりぎり十歳になっていたカーラもその対象になってしまった。

 器用な子供は追い出される前に仲の良い大人を作っていたため、住み込みの仕事を見つけたりもしていたが、多くの女児が夜の街に連れて行かれた。行き倒れた者も多かったようだ。


 カーラはそうなる前に逃げ出して、林に落ちている木の実を食べながら命を繋いでいた。


 一週間ほどが経った頃、王都に大雨が降った。

 林では雨宿りをする場所を見つけることができず、どうにか雨宿りをする場所を見つけたいと林の外に出て、カーラはクラリッサに出会った。自力では歩くことができなくなって、町外れにびしょ濡れで座り込んでいたところを、クラリッサが拾ってくれたのだ。


 遠くから見ることしかなかった王城に連れて来られ、身体を洗われ、熱が下がるまで使用人に看病された。

 元気になって困惑していたカーラに、同じくらいの歳のクラリッサははっきりと言った。


「貴女が絶対に私を裏切らないと誓うのなら、私の侍女にしてあげてもいいわ」


 子供ながら派手なドレスを着て傲慢に振る舞うクラリッサのことを、最初は違う世界の人間だと、こんな者達の贅沢のためにカーラ達は貧しい生活をしてきたのだと、悔しく恨めしく思っていた。

 それでも生きるために咄嗟に頷いた自分自身を、カーラは嫌っていた。


 侍女になるのならと無理矢理詰め込まれた知識と礼儀作法にも、こんな孤児に教え込んでも意味などないと腹が立っていた。

 それなのに。

 今のカーラは、どうしようもなくクラリッサのことが好きだった。忠実と言って差し支えない。


 手柄を立てようと必死で空回りばかりしている国王と、アベリア王国を我が物にして掌握しようとしているベラドンナ王国出身の王妃。

 その娘であるクラリッサは、悪女であろうとすることで、必死に自身と腹違いの弟、そして国民達を守ろうとしていたのだ。

 カーラは自分と同じくらいの年齢のクラリッサが背負うものの大きさに気付いて、クラリッサを唯一の主人と決めた。

 だから、ラウレンツがクラリッサを認めない限り、クラリッサを奥様と、ラウレンツを旦那様と呼ぶことは絶対にない。


 大切な主人であるクラリッサを大切にしない旦那など、政略結婚であってもカーラは認めないのである。

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