2.残された俺と金髪メイド
「やっぱり、死んでる」
じいさんの肉体を確認した俺は脈とか瞳孔とか、刑事ドラマでよく見る方法で試してみたが、これは多分死んでいる。
「いや、チュートリアルをくれ」
この状況を説明してくれ。
おかしい。女神の話では、この世界は1つの大陸に5つの国があり、皇国、帝国、公国、教国、亜人連合国がると聞いていた。
その中で比較的貴族などの支配の少ない公国―――「アガーレッド公国」に住むことを決めたのだ。この国はダンジョンが盛んで、冒険者として活躍するという厨二心くすぐられる夢を抱いて選んだんだ。
「しかしまぁ実際には」
赤ちゃんすっ飛んでいきなり青年の姿だし、変なじいさんに改造されてるっぽいし、金髪メイドちゃんもいるし、でも状況誰も説明してくれないしでなんというか、ちょべりば?
というか、さっきから無言な金髪メイドちゃんに話しかけてみるか。
「えーっと、あんた、名前は?」
「…ライ」
「ライか。すまん、記憶が全然なくて、状況説明とか、お願い出来る?」
「承知致しました、おに、ご主人様」
「おに?」
はて、おに。鬼に見えるのかね、俺は。
「ここはアガーレット公国と呼ばれる国の、辺境にあるボーゾ博士の研究所です。あなたはここでとある実験の研究対象となっておりました」
「研究対象?被検体なんちゃらって言われてたけど?」
「研究の成果を貴方の体に刻み込みました」
「まぁ、改造人間ってことか。何されたの俺」
「それは…。申し訳ありません。禁則事項です。」
禁則事項。某未来人みたいなこと言うな。
メイドだし、何か通じるものがあるのだろうか。
「おーらい、よく分からんけどなんとなく分かった。とりあえず俺はこの国でダンジョンを目指す予定だ。あんたは、すまん、ライはどうする?」
「あなたの行くところは私の行くところです、ご主人様。無論ついて参ります」
「そ、そうか…」
もうちょっと表情変えて感情込めて話して欲しいものだ。
「あ、あのさ。とりあえずご主人様っていうのやめない?名前で呼んでくれ」
落ち着かないんだよ、その呼び方。
「そう、ですか。お名前、教えて頂いても、宜しいでしょうか」
「え?」
ここで気付く。俺の名前が思い出せない。
前世の名前、なんだったろうか。園崎、それは覚えてる。だが下の名前が。
と考えてる頭とは反対に、口は勝手に動いていた。
「ザック。アイザックだ。ザックでいい」
「承知いたしました、ザック様。今後とも末永く宜しくお願い致します」
アイザック。何故その名を口にしたのか自分でも分からなかった。