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第三話 中

 ここ四番街はオミッドの立地最悪マンションからそう遠くない場所にある。だからってなんでこんなとこにいるんだお前、と彼は心中でひどく驚いていた。


「わあ、やっぱりオミッドだ! こんなとこで何してるの~?」


 当の本人はオミッドの気も知らないで、そんな事を言いながら能天気に笑いながら駆け寄ってくる。


「な、何でお前こんな所にいるんだよ!?」

「え? ずっと家に引き篭もってるのもつまんないから、ちょっとお散歩してただけよ」


 どうやら買い物もしたらしく、ティアはジーンズとシャツに着替えている。あの古めかしいドレスとはかけ離れた、カジュアルな服装だ。


「そしたらオミッドの気配がして、その近くで魔法も感知したから来てみたんだけど……。まあ、無事で良かったわ。

 ところでこっちも聞きたいんだけど……、何でここに狩人と執行官がいるのかしら?」


 言って、ティアは冷ややかな目でカーティと連盟の狩人二人を睨む。


「教会は仕方ないとしても、何で連盟がここに? オーランドはついに()()殺す気になった?」

「いや。俺ら連盟は依然としてお前を低脅威友好対象としているぞ。

 夢見る女王、ティア・ワンプル」


 男が銃を下ろしてそう言うと、ティアは「あっそ。なら良かったわ」と、微笑む。


「なっ、真祖の女王(クイーン)が何故ここに!? 先輩、この状況は……どういう事ですか!?」

「いや、俺も分からない……」


 戦慄しつつも、カーティはこの場にいる中で唯一聞ける相手であるオミッドに説明を求めるが、聞かれた彼も何が何だか分からないのだからそう答えるしかない。

 そんな中、ティアはこの場に漂う空気感など気にも留めずにオミッドに言う。


「ねえ、オミッド。立ち話する気なら、何か食べに行かない? もちろん、そこの三人も一緒にね」


 ティアの言葉には、反論と拒否を一切聞き入れない、確固たる意思が籠っていた。


 ・・・


 ティアの全く空気を読まない、そして有無を言わせない言葉により、食事を行う事になった一行は、カーティが行きたがっていた店へと向かう事になる。


 近場にあった為徒歩での移動だったが、着くまでの間に一切の会話は無く、一人を除いて何とも言えない雰囲気が彼らを包んでいた。

 昼時ではあったが、幸いテーブルは幾つか空きがあった。


 しかしティアはすかさず店員の「何名様でしょうか」に、五人で!、と答え、一行は同じ席に案内される事となった。


 確かに連盟と教会に接触したいとは思っていたが、同じ机に並ぶ事になろうとは思いもしていなかったオミッドはこの事態に困惑している。


 何より、五人分のステーキランチを注文しているティアの考えが全く理解出来ない。

 彼女の無言の圧により、拒否権無しに連れてこられた三人もまた同じだった。

 

「お前強引過ぎないか? 注文も勝手にするし」

「良いでしょ、私の奢りなんだから! さ、料理が出てくるまで暇だし、貴方達の自己紹介、知ってる情報全部出しなさい!」


 ティアがそう言うと、男は合点がいったように頷く。


「それが目的か、女王。いいぜ、分かった。そーいう訳で、今回ばかりは一時休戦だ。

 良いな? 執行官」

「分かりました。そういう事なら、仕方ありません」


 どうやらティアなりに情報収集をする気だったらしく、狩人・執行官の両名はそれに応じる。


「俺はズィルヴァレト・S・ハウント。で、こっちは俺の相棒エアルフ」


 ズィルヴァレトに紹介され、エアルフは静かに会釈する。


「私はカーティ・マスタンドミア。知っての通り、教会の執行官です。故あって、先輩……いえ、オミッドさんをはじめ市警の方々に暗示をかけて、捜査を進めていました。

 それよりも、女王。私はあなたを許せません」


 そう言って、カーティはティアを睨む。

 まさかティアはカーティに、いや自分の知らない何処かで何かをしたのだろうか? 教会という組織が何なのかは知らないオミッドだが、少なくとも血族の敵である事は間違い無い。


 見なくても分かる相性の悪さに、更に確執があるとなれば、その先にある結果は分かりきっている。

 オミッドは、こんな所で荒事はやめてくれと願いながら、カーティの次の台詞を黙って聞いた。


「何故、要望も聞かずに注文を? 私、ここのランチメニューじゃ物足りないんですけど。

 何ですか二百グラムって? 少な過ぎるでしょう!?」

「あっ、ゴメン」


(く、くだらない……)


 メニューを指差して怒るカーティに、オミッドは内心呆れる。しかし同時に。自身の想像が杞憂に終わった事に安堵していた。

 ティアの方も特に気にしている様子は無い。


「なら、俺の分をくれてやる」

「えっ! 良いんですか!?」

「構わねーよ。ステーキなんて、一切れだって食えねぇからな。

 それに、さっさと食って捜査しねぇとまた被害が出ちまうかもしれねぇだろ?」


 口は悪いが、確かにズィルヴァレトの言う事には一理ある。

 こうしている間にも、デーヴの血族が被害者を増やしているかも知れない。


「ならば、私は特に異論ありません」


 カーティのこの一言により、勝手に注文問題はズィルヴァレトの分を彼女に充てるという結果で決着がついた。


 そして、ここからようやく本題に入る。丁度、このタイミングで頼んだ料理も運ばれてきた。

 熱された鉄板にステーキと付け合わせの野菜類が添えられ、焼けるソースの香りと音が食欲を掻き立てる。


「一応、連盟(俺達)はキングスヤードの応援って形でここに来た。だからまあ、今は大した情報は持ってねぇ。そっちの執行官のが知ってるんじゃないか?」


 最初に口を開いたのはズィルヴァレトだった。

 テーブルの脇にある有料飲料水の封を切り、コップに注ぎながらカーティに問う。


「いいえ、私も大した事は知りません。

 デーヴ・スティルマン。約二百年程前に一人の真祖により血族となった騎士の成れの果て……。

 知っている事と言えば、事前調査で得た標的の情報くらいです。

 この程度、当事者は当然として連盟(そちら)も知っているでしょう?」

 

 半分に切り分けたステーキを一口で食べながらカーティが言うと、その食いっぷりを見て引き気味なズィルヴァレトが「ま、まあな」と答える。

 その様子を尻目に、オミッドは忘れない内に犯人のフルネーム、境遇をメモした。


「えぇ〜、つっかえないわねアンタ達。血族狩りだけが取り柄なのに何もたついてるのよ?

 血族を狩る二大組織が聞いて呆れるわ!」


 期待していたものを得られなかったティアは、目に見えて分かる不機嫌さで二人を罵倒する。

 しかしよくよく考えると、この事件を引き起こしたのはデーヴである。そしてそのデーヴを化け物にしたのは紛れもなくティアなのだ。


 自分のした事を棚上げにして、二人を追及するのはおかしくは無いか? とオミッドは喉まで出掛かった言葉を飲み込む。

 ここで変に何か言って、不機嫌なティアの逆鱗にでも触れるのはまずいと考えたからだ。

 考えたのだが……。


「いや、元凶が棚上げして何言ってるんですか」


 カーティはティア以外のこのテーブル席全員が抱いた正論を容赦無くぶつけた。


「うっ、それは……」


 図星を突かれ言葉に詰まるティアに、カーティは更に追い討ちを掛ける。


「そもそも、部下に叛逆されながら何故すぐ始末しないのです? それでも貴方真祖ですか? 何が血の王族ですか?」

「し、仕方ないじゃない! 私まだこの身体に慣れて無いし……。慣れたらあんな雑魚、こんな風に一瞬で討ち取れるし……」


 言葉とは裏腹に徐々に小さくなる声量。目には涙を浮かべて、彼女はちょっとステーキを切って食べる。

 討ち取れるし……とだけ一言コメントし、食べる手を止めてうずくまった。


「ティ、ティア……?」


 オミッドが心配になってそう言うと、ティアはボロボロ泣きながら叫んだ。


「そ……そんなに言わなくても良いじゃない! 私だって悔しいんだもん!!!」


 泣き叫びながらティアは席を立ち、そのまま店を出て行ってしまった。……律儀に代金を置いて。


「あーあ、言い過ぎだぜ執行官さんよ」

「え? 今の私が悪いんですか!?」

「あの女王は三百年を生きる真祖。しかし、その殆どを眠りに費やしています。

 見た目は立派ですが反面精神はそこまで、と連盟長様より伺ってはおりました。が、まさかここまでとは……」

「いえ、それは知ってますけど、だからって煽り耐性無さ過ぎでしょ!? あっ、勿体ないからあの真祖の分貰いますね」

「それは同意するが、見境無ぇな。ていうかまだ食うのかお前……」


 この状況を作り出した人物が微妙な空気を作っていなくなってしまったが、オミッドととしてはこのまま終わらせる訳にはいかない。


 ギャン泣きしてどこかへ行ってしまったティアが気にならないでもない。が、それよりもこの場を利用して、血族というものについて聞かねばならない事は山程ある。


 別にティアから聞き出しても良いが、情報源は複数ある方が信憑性が高い。何より一秒でも早く解決を望む身として、彼は情報収集を優先したかった。

 

「……ともかく! 今は誰も重要な情報を持っていないのは確認出来た。

 それだけ分かっただけでも、情報共有した甲斐はあったと思う……多分。

 その上で、お二人に聞きたい事があるんだけど……」


 そう切り出して、オミッドは質問を始めようとした。

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