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第十三話 下

 オーランドは語る。

 少女と真祖、二人の出会いと離別を。

 真祖は少女を突き放した。その優しさ故に。

 少女はその後、連盟を作った。真祖を見返す為に。

 そして、そんな二人が辿った結末を。


『そして初代連盟長サラが息を引き取った後に、女王は眠りにつきました。以降、出現を観測したのは新連盟長就任時に行う謁見の時くらいのものです。

 以上が大まかではありますが、我らの先祖が残した彼女の、自分勝手な連盟の守護者ティア・ワンプルの記録。

 彼女の本体は今も、棺の中で眠っています』

「それは……何故?」

『我が祖先の記録にはこうあります。

 彼女は、自身の力で誰かを傷つけてしまう事を恐れている、と。

 故に、眠る事で自らを封印しているのです』


(なるほど。ティアが俺に泊めさせて欲しいと言ったのは、自分に関わる人間を最小限にする為、だったのか……?)


 ここまで話を聞いて、オミッドはかの紅い女王の人となりと考えをより深く理解する。

 いや、したような、そんな気がした。


『さて。話が逸れましたが、本題に移ります。

 貴方は女王の手により、幸か不幸か真祖になってしまった訳ですが、そんな貴方が取れる選択肢は現状二つあります』

「選択肢?」

『はい。一つはこのまま日常へ戻って頂く事です。

 貴方の真祖化はまだ中途半端。言わば人間と真祖の間にいるようなもの。

 今なら我々が適切な封印を施す事で、人間擬きとしてまた表社会を生きられるでしょう。

 無論、我々の監視はつきます。間違い無く、聖輪隊が貴方をつけ狙うでしょうから』


 不自由はあるが、戻るなら今しかない。

 オーランドは暗にそう言っている。

 となると、次の選択肢は聞かずともオミッドは何となく察する。


「二つ目は……もしかして戦え、とかですか?」

『その通り。その得た力で、我々連盟の活動に寄与して頂く事てす。

 その見返りとして、連盟は貴方の今後を全力で支援します』


 察していたとはいえ、オーランドの発言にオミッドはドキリとする。

 まさか、一般警官にそんな事を言ってくるとは。


「俺が……?」

『今回の貴方の活躍はよく聞いております。なんでも子爵を単独で狩ったとか』

「それは、不意をついただけで……あれはまぐれというか……」


 あの時。致命傷を与えたトレントが拳を振るうのを途中でやめなければ、自分も死んでいた。


 死力を尽くしたあの戦い、あれは奇跡的に勝てたものでしかない。オミッドはそう考えている。

 しかし、オーランドは異なる見解を彼に述べる。


『いいですか? 私は貴方が経験した戦いを知りません。報告書を確認する、或いは貴方の口から直接聞く以外に知る術がありませんから。

 ですが、狩人としてこれだけは断言出来ます。

 血族は素人がまぐれで倒せるものではありません。

 加えて、今回狩った血族は貴方の元上司だとか。実に、貴方は素晴らしい』

「素晴らしい? 何がですか?」

『平和な現代を生きる人間は、そう簡単に殺しというものが出来る生き物ではありません。戸惑いや躊躇い、良心の呵責が邪魔をしますから。

 同じ人型、まして見知った人間となれば、その抵抗は更に増すのが普通です。

 ですが、貴方は違った。

 戸惑い無く立ち向かい、躊躇い無く殺した。

 言い方は悪いですが、貴方のような狂人は我々向きですよ?』


 感心した風に言われたが、狂人呼ばわりは当然ながら嬉しくはない。


「狂人?」

『人間、使命や義務感があれば、多少の無茶はやってのけます。貴方の場合は確か……正義、でしたね。

 ですが、その正義は貴方に殺しを肯定させた。そんなものを抱えた人間を、狂人と言わず何としましょうか』


 オーランドの言葉には、蔑みや貶める意思は感じられない。

 ただ、彼女は淡々と事実に沿った自身の意見を発している。

 

 実際、オミッドも言われて気付いた。

 自分は、狂っているのかも知れない、と。


 事件を解決する事で、救える命がある。

 それは今は亡き父の言葉であり、オミッドの正義、その根幹となる信念。


 今までオミッドを支えてきたその言葉だが、今回の騒動へと自身を突き動かした衝動でも、自身が一度死んだきっかけでもある。

 

「お前の正義は俺のと同じくらい、狂ってやがる。

 もし、この先もその生が終わらなかったら、その辺は注意するこった。

 ……でなきゃ、お前か周囲の人間、あるいは両方……お前の正義が殺すかもな」


 師の忠告が脳裏に蘇る。


「ハハッ、確かに。そうなったな……」


 小さく、そう呟く。

 今振り返れば今回の騒動で、己の正義(エゴ)だけで周りの人間を危険に晒してしまった。

 

 文字通り死力を尽くし、カーティは身を削って戦ってくれた。

 

 あと少し待てば万全を喫する事が出来たのに、ティアは無茶に応えてくれた。

 

 何か一つ間違えば、全滅だってあり得た。

 本当に、自身の正義が誰かを殺す所だったのだと、オミッドは今になって怖気付く。


「オーランドさん。確かに、俺は狂ってます。

 俺……怖いです、この正義が。

 今まで、俺の支えだったのに……」

「オミッド君……」

『……確かに、その恐怖は正しい。

 しかしながら、それを全否定されてはいけません。

 強みとは、時として弱みに転じるもの。

 それを学べたのは、良い事ではありませんか』


 オーランドに続くように、オミッドの手に自身の手を重ね、安心させるようにリアが口を開く。


「連盟長の言う通りだ。

 いいかい? 僕にだって、ヘレンにだって、君と同じような狂気は眠っている。何より殺さなきゃ、死んでいたのは君だ。

 そんなに思い詰める必要は無いよ」

「……そっすよ。ゴチャゴチャ考えるだけ無駄」

「……ありがとうございます」


 それぞれに励まされ、オミッドの気持ちが少しだけ上向く。気を取り直して考えようと、思考を切り替えた。

 

 選択肢は二つ。

 日常に戻るか、この人達と一緒に血族と戦うか。

 

 これはつまり、自身の正義が指し示す道に乗るか、そうしないか、という選択肢でもある。


「一つ、聞いてもいいですか?」

『何でしょう?』

「刑事は、そちらに……連盟に入っても続けられますか?」

『ええ。ただしダミア市警でなく、キングスヤード特対課所属になります。

 もし連盟にご参加頂けるなら、そのように手配致しますが?』

「分かりました。……では今、返答します」


 オミッドは選択する。

 迷いは無い、腹は決めた。


 こうなる事は、決まっていたのかも知れない。

 あの身勝手でお気楽な、優しい女王に出会った夜から、きっと。


『……しかと、聞き届けました。

 新たなる真祖、オミッド・ミンゲラ。

 貴方の参加を、連盟長として此処に認めます』

「僕からも歓迎するよ。連盟へようこそ、オミッド君」


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