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第八話 上

「チッ! 私とした事が不覚!」


 あまりの悔しさに唇を噛む。

 背に抱えていたのが人間ではなく、血族であると気づいたのはオミッドと別れてしばらく経った頃だった。


「アアア……」

「擬似人格へのリソースを切ったか。まっ、本性表してくれた方がやり易いんですけどね」


 カーティは執行官としての年数はまだまだだが、数だけはベテランと変わらない量を捌いてきた所謂天才型。

 故に、まんまと騙された事に、それを見抜けなかった自分の不甲斐無さに心の中で地団駄を踏んでいた。


「とにかく、犯した失態は活躍を以て払拭せねばなりません。速攻でいきますよ!」


 彼女がこの若さで生き残ってこれたのはただ狩りの腕だけではない。

 後悔をそこそこにすぐさま切り替え、襲い掛かるロッドだったものの攻撃を回避する。


「そこっ!」


 よろけて僅かに態勢を崩したその瞬間をカーティは見逃さず、懐に入り込んで聖輪でバツの字を描く様に切り刻む。


「ロッドさん。もう私の言葉は届かないでしょうけど、短い間でしたがお世話になりました。

 せめて、正しき運命の元、安らかに」


 執行官は本来、血族となった者への同情など持ちえない。まして、死後の安らぎを願う心など無い。

 

 あるのは異端を滅ぼすという信仰の元にある、血族を狩る殺意のみ。むしろ、それ以外の感情は邪魔とも言える。

 

 しかしカーティは主流である過激派の執行官とは違い、これでも今は少ない穏健派の執行官。

 その殺意は、子爵以上の、自ら進んで堕落した、意志ある血族に対してのみ働く。


 男爵以下の哀れな動く骸には、正しき運命()を刻み、おくる。

 それが彼女の狩りに掛ける師からの教えであり、誇りだ。


「私もまだまだですね。相手の弄した小細工はおろか、こんな偽装すら見抜けず騙されてしまうとは。

 今後の課題ですね、っと」


 聖典から一枚ページを引きちぎり、小さく折った紙片を衣服に滑らせる。

 するとスーツに見せ掛けた魔力の偽装が解かれ、本来の仕事着である修道服が露わになった。


 もう偽装する意味は無い。

 ここから先は、相手側の本気の抵抗が予想される。

 なのでカーティは、機能面と防御面に優れた仕事用の装いに変更した。


「どうか、今暫く持ち堪えていて下さい。

 私が誓いを破った事なんて、ただの一度だって無いんですから!」

「なら、さっさと行け。執行官」


 聞き覚えのある声がして振り返ると、此処にはいないはずのズィルヴァレトとエアルフがいた。


「れ、連盟!? どうして貴方達が、参戦しないんじゃ!?」

「状況が変わったんだよ、なんでか知らねーが、この辺今になってウヨウヨ出て来た血族だらけだ。

 つーわけで、援護してやる。感謝しやがれ」

「ええ。何せ、狩長権限まで使って強引に部下をかき集めたんですから。

 三十人ですよ、三十人。いきなりの招集なのに、よく集まったものです」

「おいエアルフ! それは言わねぇ約束だろ!?」

「はて? そんな約束、結びましたでしょうか?」


 怒鳴り散らすズィルヴァレトと、涼しい顔ですっとぼけるエアルフを見て、最初は訳が分からなかったカーティも次第に状況を把握していく。


「なるほど……。人を見る目、案外あるんですねぇ」

「あ? なんか言ったか?」

「いえ。貴方には何も。

 それより、援護してくれるんですよね? なら、私あの工場に突貫しますので。後はよろしくお願いします!」


・・・


 杖剣に紙片を滑らせて剣身を露わにさせ、オミッドは怒りのままに斬りかかる。


「ハッ! 面白ぇ玩具だが、すっとろい攻撃だなオイ!」


 力のままに振るわれた斬撃を軽く避け、トレントは反撃の蹴りを放つ。

 血族の強力な蹴りを受けてはただでは済まないオミッドとしては、何としてでも避けなければならない。


「ぐうっ!!!」

 

 強引に身体を翻して強く地面を蹴り、ギリギリのところで高速の蹴りを回避する。


 呼吸を整え、杖剣の切っ先を向けて牽制しながらオミッドは思った。

 やはり、正攻法では万に一つの勝ち目すらない、と。

 

 決して舐めていたわけではない。

 だが、たった一手ずつしか戦っていないのに、身体能力の差をここまで痛感させられる血族の力に恐怖した。


(この状況、どう切り抜けるか……うん?)


 特に理由無く腰に手をやった時、何かに触れた。

 瞬間、ある一つの策が組み上がる。


 上手くやれるかは分からないが、策を精査する余裕は無い。

 何はともあれ、やるしか無かった。


「当たれ!」


 脇のホルスターから対血族用拳銃を空いた片手で引き抜き、親指で安全装置を解除して三回引き金を引く。


「ハッ! たかが鉛玉なんざ、はたき落としてガァ!?」


 二発外れたものの、一発だけ命中した。といっても、わざわざ当たりに行ってくれたからだが。


「ホント、ヘッタクソだな俺。だが!」


 何はともあれ、隙は出来た。

 オミッドはすぐさま振り返り、階段を駆け降りる。

 

「待ちやがれぇぇぇ!」


 激しい怒声と共に追いかけてくるトレントの姿を確認し、オミッドは手近の雑貨を杖剣で殴る。

 衝撃が加わった事で積み上げられた雑貨は均衡を崩し、バランスを失ったジェンガのように連鎖的に全ての雑貨が崩れ落ちた。


「なっ!? ガァァァ!!!」


 出口に滑り込んで何とか脱出に成功し、トレントを崩落に巻き込む。

 ここまでは策通りだ。


「やったか!?」


 これで解決になって欲しい一心でそんな事を口にしたが、そうならないのはオミッド自身がよく分かっていた。

 

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