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第七話 上

 カーティの後をついて歩く。

 段々と人の行き交いがなくなってきて、ようやく気付く。背後から確かに感じる妙な感覚に。

 

 既に二人は目標の工場地帯に向けて路地裏に足を踏み入れている。陽は完全に落ち、周囲は暗い。

 光源と言えば、等間隔に配置された今にも消え入りそうに点滅する街灯か、雲から僅かに漏れる月光くらいだ。


 いつ襲われてもおかしくはないが、相手は優位は此方にあると踏んでいる。

 距離を取り、絶好の機会を窺っているのだ。


「この辺で良いですかね」


 しかし、それはカーティも同じ事。

 忘れてはいけない。

 彼女の得物は、飛び道具である。


 振り返り、聖輪を顕現させ投擲。

 予備動作無く投げられた、いや、射出とも言うべき速度で飛んでいく聖輪は、まるで空を駆ける車輪の様に光の軌跡を描いていく。


 咄嗟に避ける事が出来た一人を除き、聖輪を喰らった士爵はその体を塵に変えた。

 残る一体が奇声を発して飛び掛かって来るも、カーティは一切の動揺無く再度両手に聖輪を顕現させ接近戦を仕掛ける。


「正しき運命(さだめ)、その身に刻め!」


 振り下ろされた拳を難無く避け、すかさず聖輪で直接斬り刻む。

 一応戦うつもりではあったオミッドだったが、彼女の見事な戦いぶりに目を奪われていた。

 

「どうやら見込み違いで、男爵に成りかけの個体が一匹紛れていたようですが……全く、何を悠長に構えてるんだか。正に、愚鈍の極みです。そんなんだから士爵止まりで終わりなんです」

「す、凄いな……俺いらないんじゃないか、これ?」

「はい。戦闘面では仰る通りです。

 しかし、先輩の役目は囮です。道中は体力温存に努め、戦闘は全て私にお任せを。

 ここからは連中も武装してくるでしょうが、関係ありません。

 今みたいに速攻で片付けます」


 「カッコいい……」とつい出そうになった言葉を「ああ、頼む」に変えて、オミッドは頷く。もう頷くしかなかった。

 今の戦闘とカーティの自信に満ちた言葉に、

彼女への信頼は更に強くなるばかりだ。


(正直俺が足を引っ張るかもしれないと思ってたけど、これなら……!)


 更にこれだけ強い彼女に「強い」と言わせるティアがケリをつけてくれるなら、もう自分の策にある隙は自分自身だけ。

 最早、自分が何かミスを犯さなければ策は成る。

 オミッドはそう確信した。

 

「嫌に順調ですね。もうすぐ着いちゃいますよこれ」

「そうか? 上手くやれてるんだから別に良いと思うが……玄人からしたらそうじゃないのか?」

「いえ、敵地のど真ん中で上手くやれているのは間違いありません。

 しかし、やれ過ぎているような気がするのが気掛かりでして……」


 最初の戦闘以来、血族と出会す事無く順調に目的地へと向かう事が出来ていた。

 策の成功を確信して楽観的になっているオミッドとは対照的に、カーティは現状に嫌な予感を感じていた。


「何でしょうね。無いとは思いますが、まるで戦力を出し惜しみされているような……あれ?」


 ふと何気なくオミッドの方を見たカーティは、じっと彼の首元を凝視した。


「先輩、襟の裏に何かついてませんか?」

「え?」


 言われて襟の裏を探ってみると、指先に何かが当たる。貼り付けられていたそれは、プラスチックで出来た小さな何かの装置だった。


「まさか、これは……」

「何ですか、これ?」

「……盗聴器だな」

「えっ!? 一体いつから……」

「ぎゃああああああ!!!」


 カーティの言葉を遮って、突如、何かに襲われたような悲鳴が響く。


「なっ、ああもう、こんな時に!? もしや、犠牲者がまた!?」

「近いぞ! それにこの声、もしかしたら……とにかく、今はこの件は後回しだ!

 行ってみよう!」


 腕時計を確認する。時刻は十九時過ぎ。時間に猶予はある。

 二人は顔を見合わせ、急いで声が聞こえた方へと走った。


 優先するべきはデーヴの討伐・その準備であるが、そもこの狩りはこれ以上犠牲者を出さない為に決意したものだ。


 万が一、叫び声が犠牲者のものなら助けに行かねばならない。そうしなければ、狩りを決意した意味が無い。

 何より、オミッドらはその叫び声に聞き覚えがあった。


「う……ぐ……」

「おいロッド! しっかりしろ、おい!」


 駆け付けるとそこには武装した血族五人が、頭から血を流したロッドと、壁を背に彼を庇うトレントを囲むように立っていた。


「な、トレントさん!?」

「オッ、オミッド!? カーティ!? お、お前ら、何だってこんな所に?」

「聞きたいのはこちらですが、それは後ですね。速攻で決めます! 轢き殺せ、聖輪!!!」


 五つ同時に投げられた聖輪はそれぞれ正確に血族の身体を走り、塵に変える。

 そんな光景を見て、トレントは目を丸くして大声で笑った。


「な、何だ今のは!? 俺たちがまるで敵わなかった暴漢共を、あんな輪っかで……お前ら一体……」


 どうやら血族達に襲われたのだろう、とオミッドは推測した。

 そこにいきなり部下がやって来て、瞬く間に倒したのだからトレントが困惑するのも無理は無かった。


「……いや、お前らが何であれ、んなこたぁどうでもいい! ロッドがやられた、手ぇ貸してくれ! さっきから呼びかけても、殴られてウンともスンとも言わねぇんだ!」

「ちょっと失礼しますね。……大丈夫、気絶してるだけです」

「本当か!?」


 心底安心したようにトレントは肩を降ろす。

 あんな調子の良い奴でも、二度も相方を失いたくはないのだろう。その仲間を失いたくない気持ちは、オミッドも同じだった。


「とはいえ頭を強打されている訳ですから予断は出来ません。すぐに病院に連れていくべきですね」

「けど、このまま行くのも危なくないか? まだ周辺にいるかもしれないし」

「問題ありません。私が全力で抱えて行けば、えっと最寄りの病院はっと……」


 携帯端末を操作して最短ルートを構築しながら思案すること数秒、カーティは端末を閉じた。


「うん、往復三十分で何とかなりそうですね。

 目的地はもう目と鼻の先です。私がパパっと結界作っちゃいますので、しばらくトレントさんと待機しててください。ロッドさん預けたら爆速で帰りますから」

「うーん、全員で引き返すと目立つし、それしかないか。分かった、それでいこう」

「よく分からねぇが、ここはお前らに従ったほうが賢いんだろうな。いいぜ、俺はお前らについてく」


 満場一致で今後の方針が決まり、一行は一刻も早くロッドを病院へ連れて行く為に行動を開始した。

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