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小話集  作者: あさな
3/14

言い逃げ令嬢

私は余計なことを言う。

思ったことが、ポロリと口からこぼれてしまう。

所謂悪癖というものだが、直そうとしているのに直らない。

癖とはそういうものかもしれないが。


で、その悪癖でやらかしてしまった。


昼休み、中庭を通りかけたら言い争いをしていたのだ。

第一王子のリザック殿下とその婚約者のルージュ様だ。

リザック殿下の傍には男爵令嬢のリリア様が庇われるように立っていて、その後ろに宰相子息のビル様と、騎士団長子息のダニエル様がいる。

四対一でルージュ様を責めている。


内容は、ルージュ様がリリア様を虐めているというものだ。


それはここしばらく話題になっていた話である。

平民から貴族の養女となったリリア様は貴族のルールに疎いらしく、貴族の令嬢ならありえないような距離で殿方と接する。それはリザック殿下にも変わらない。貴族のルールがわからないにしても、普通の頭を持っていれば貴族とか平民とか関係なく王家の方に対しては礼節をもって接するだろうに、彼女は殿下にも馴れ馴れしく接するのだ。だが、リザック殿下は何故だかそれをよしとして、もっと礼儀を弁えなさいと注意するルージュ様に対して怒りをぶつける。――正当な注意をリリア様を虐めていると言って。


意味がわからない。


だが、今日もまた、そのことで責め立てているのだ。


「まったくお前は無礼な奴だな。貴族社会に不慣れなリリアが困っているから助けただけで私に疚しいことは一切ない。それをいかにも不貞であるように言うなど、私がそのような真似をすると思っているのか。それこそ不敬だぞ。醜い嫉妬をするな」


リザック殿下は堂々と言ってのけた。


「いや、普通に不貞だと思うでしょう」


私はそれを聞いて、思わず言ってしまった。

ポロリと、いつもの、悪癖が、出た。

しかもその声がやけに大きく響き、視線が私に集まってしまう。


「なんだお前は」


リザック殿下は、ギロリと睨んでくる。


どうしようこれ、どうしよう……心臓がバクバクという。なんとか逃げ出さなければならない。しかし――ふと目が合ったルージュ様のお顔がなんとも辛そうであったので、私は覚悟を決めることにした。

だって、リザック殿下の発言はあまりにも馬鹿げているのだから。


「えー、わたくしは、しがない男爵家の娘マリーと申します。殿下は同じ男爵令嬢であるリリア様が気さくにお話しなさっても不敬には問われませんし、リリア様が侯爵令嬢であらせられるルージュ様に対して、ルージュ様はそれをよしとされてもいないのに同じように気さくに話しかけても咎めることもされません。ここは学院なのだから身分など関係ないというお考えで、気さくに話しかけるリリス様を不快に思うルージュ様こそが悪だと思われていらっしゃいます。ならばそれは、わたくしにも適応されましょう。ですから、忌憚なく発言させていただきます。その件で罰するなど理に合わないことはおっしゃらないでくださいませね」


一応、自己保身を述べてみるが、彼が怒り狂ったら我が家がお咎めを受けるかもしれない。でも、今更引けない。だってとても腹立たしいのだもの。


「まず、先程のわたくしの発言……それはリザック殿下がルージュ様におっしゃった内容に対してのものでございます。あの発言はつまるところ殿下は、ご自身が不貞など働かない誠実な人間なのに、それを疑うルージュ様が穿った見方をしている。なんて心の貧しい奴だ、という意味でございましょう? しかし、殿方が特定の女性に対して特別に親切にしていたら、気があるのだなと思うのが普通でございましょう。むしろ、何故ご自身だけがそう思われないと思っていらっしゃるのか謎です。誠実な人間だから? しかし、本当に誠実な人間ならルージュ様に最初に注意を受けたとき耳を傾けて、自分の態度が誤解させる可能性に真摯に向き合うものです。ですが、殿下はそうなさらなかった。誠実かどうかは周囲の人間が判断することで、ご自身がそう思われていても何の意味もないのに、自ら声高に『誠実な俺様の不貞を疑うなど愚かな』とおっしゃっているのです。その滑稽さにお気づきになられないことも不思議です。

けれど、悲しいかな、そんな滑稽な話がまかり通ってしまう。殿下が殿下であるゆえに。ええ、殿下は尊き身分の方でございますから、殿下がご自身を誠実だとおっしゃるのなら、貴方は誠実ではございません、と真正面から否定することは難しい。不敬とみなされて罰されるかもしれない。わたくしも、現在申し上げながら、この身が罰されるのではないかと内心は怯えているのでございます。それでも申し上げているのは、誰かが真実をお伝えせねばいつまでもお気づきにならないと思ったからです。

ええ、ええ、そうなのでございますよ。

普通は、殿方が婚約者でもない令嬢と親しくしていたら、下心があると思われても仕方がないもの。ですから、婚約者でもない男女は礼節を持った距離で関わることとされているのです。いらぬ誤解をうまないために最善の方法として。それは身を守る術ともいえます。ですが、殿下はその術を自ら破り、誤解される状況に自ら進んで飛び込んだのに、案の定それを疑われたら、自分は誠実な人間だから疑う方が悪いとおっしゃる。みんな、疑われない努力をしているのに、それを放棄して好き勝手して、いざ疑われたら、声高に疑う人々を否定する。まるで我儘なお子様ではございませんか。

殿下の発言はそういうことですよ?」


怒鳴られるかと思ったが、殿下は顔を真っ赤にして黙り込んでいる。

案外、素直なところがあるのかもしれない。

だが、油断大敵、あとになって怒りがこみあげてきて私を罰するかもしれない。

ああ、どうしよう。そうなったら……まぁ、そうなったときか。


私はカーテシーをしてその場を後にした。

読んでくださりありがとうございました。

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